第25話:夢の魔改造キッチンカーと、驚愕の多機能ブース
荒野を爆走する「琥珀の翼号」の運転席で、レンはニヤニヤが止まらなかった。魔法鋼で補強された重厚なボディ、龍の咆哮のようなエンジン音、そして何より、借金を完済し、プラス12,000ポイントという潤沢な資金を持っての旅だ。これまでの砂漠でのギリギリの生活が嘘のようだった。
「いやー、親方たち、本当にいい仕事してくれたな! まさかこんな短期間で、ここまでの代物を作り上げるとは……」
レンがハンドルを愛おしそうに撫でる。
「主よ、少々浮かれすぎではないか? 前方の警戒は我に任せるが、運転は大雑把すぎるぞ」
助手席に座る琥珀が、呆れたように黄金の瞳を細める。彼女は車内が十分に広いため、小さな竜の姿ではなく、本来の美しい天龍の姿を縮小して、人間に近いサイズで寛いでいた。
「へへ、琥珀、固いこと言うなよ。……おっと、あそこにちょうどいい岩陰があるな。そろそろ昼飯時だし、一旦休憩にしよう」
レンは琥珀の翼号を巨大な岩の側に停め、エンジンを止めた。
「ふぅ、やっと地面に足が着いた……。レン、この車、乗り心地はいいけど、スピード出しすぎだって!」
後部座席から、勇者タカシがフラフラになりながら降りてきた。彼は薪割り作業で少しは鍛えられたものの、まだ根性はチキンなままだ。
「タカシ様、だらしないですよ。……レン様、お疲れ様でした。お昼は何にしましょうか?」
ミナが、灰猫族特有のしなやかな動きで車外へ飛び出し、周囲の安全を確認する。
「ああ、昼飯の前にさ。……親方が言ってた、このキッチンカーの『凄い機能』ってやつ、試してみないか?」
レンは目を輝かせながら、ダッシュボードにある無骨な赤いスイッチに手を伸ばした。
「……機能? ただの頑丈なトラックではないのか?」
琥珀が不思議そうに首を傾げる。
「親方が最後に、『ピンチの時や、大勢の客が来た時に押せ』って言ってたんだ。……ポチッとな」
レンがスイッチを押した瞬間、車内に機械音が響き渡った。
「システム作動。調理ブース、展開を開始します」
重厚な音声アナウンスと共に、車体が振動を始める。
「な、なんだ!? 地震か!?」
タカシが悲鳴を上げる中、琥珀の翼号の側面がガルウィングのように大きく跳ね上がった。
ギギギィン!!
魔法鋼の装飾がスライドし、車体の中から、まるでトランスフォーマーのように巨大なキッチンカウンターと、無数の調理器具がせり出してきたのだ。
「うおおおっ!! なんだこれ! スゲェッ!!」
レンが叫ぶ。現れたのは、通常の十倍はあろうかという巨大な鉄板、五つのコンロ、そして自動で食材を刻む魔法具付きの調理台。さらに、車体上部からは日除けのパラソルが自動で展開し、周囲には簡易的なテーブルと椅子が瞬時に並べられた。
「……なるほど。これは、『移動式屋台』ではなく、『移動式レストラン』だな」
琥珀が感心したように呟く。
「これなら、一度に百人前の料理も作れそうです! レン様、これ、凄すぎます!」
ミナも目を輝かせて、展開されたカウンターに触れる。
「……へへ、親方、最高だぜ。……よし、この凄い機能の初稼働だ! 今日の昼飯は、この巨大鉄板を使って、大量のハンバーグを作るぞ!」
レンは万象市場から、最高級の和牛と黒豚の合挽き肉、飴色に炒めた玉ねぎ、そして特製のデミグラスソースを呼び出した。
調理:琥珀の翼号・初稼働スタミナハンバーグ
レンは巨大な鉄板に油を引き、手際よく成形したハンバーグを並べていく。
ジューッ!!
通常の屋台ではあり得ない、爆発的な音が響き渡る。巨大な鉄板いっぱいに並んだハンバーグが、肉汁を溢れさせながら、食欲をそそる焦げ目を纏っていく。
「……いい匂い。アイアンフィストのカツも美味しかったけど、やっぱり肉は正義ね」
いつの間にか、天井のサンルーフから魔将ゼナが顔を出していた。彼女はお菓子パーティーの後、レンの料理に執着し、半ば強引に居候(?)として同行していたのだ。
「ゼナ、あんた、いつの間に……。まあいい、焼けたぞ! みんな、食え!」
レンは焼き上がったハンバーグを、これまた巨大な皿に盛り付け、特製のデミグラスソースをたっぷりと回しがけた。
実食:荒野のハンバーグ祭り
「いただきまーす!!」
一同が、ハンバーグを口に運ぶ。
口の中で、和牛の甘い脂と黒豚の力強い旨味が溢れ出し、特製ソースのコクがそれを完璧にまとめ上げている。
「……うまい! 琥珀の翼号で食べる最初のメシ、最高だ!」
「主よ、この鉄板の火加減、完璧だな。肉の旨味が一滴も逃げていない」
「レン様、このソース、ご飯が進みます!」
「おいしい……。でも、私の国に来れば、もっと美味しい肉があるわよ」
「うおおお! これだよ、これ! 俺が求めていたのは、この肉の塊なんだよ!」
荒野の真ん中、巨大なキッチンカーの前で、龍、獣人、魔族、勇者、そして料理人が、同じハンバーグを頬張り、笑顔を浮かべている。
レンは空になった皿を見つめ、確信した。
この琥珀の翼号があれば、どんな場所でも、どんな相手でも、俺の料理で黙らせることができる。




