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さよなら嘘つき聖女様  作者:
第二部
20/31

20.失脚

アルベルトの予感は的中し、第二子が黒髪で生まれた。子どもは男児だった。

まだ王太子は決定していないため、黒髪の王が治める治世が遠くない未来に誕生するかもしれない。


加藤男爵夫妻が元聖女の玲奈の帰還に巻き込まれてから二月、まだ彼らは戻ってはいない。

このまま戻らない可能性もあるが、代理の領主を派遣し様子を見ることにした。



元ヨネの赤毛の近衛騎士リマールは婚約者である伯爵令嬢と結婚していたが、新王派ではない嫁の実家と上手くいかなくなり、頭を悩ませていた。


娘と離縁したくなければ、反新王派につくように再三脅されていたのだった。


アルベルトの改革に次ぐ改革で、古参の貴族らは不満を強めており、新王派と反新王派のまっぷたつに水面下では分かれ初めていた。


このままでは恐らく遷都は実現しないだろう。


アルベルトの側近にも彼のやり方についていけない者も現れた。


アルベルトにこの度生まれた王子は黒髪で、アルベルト自身も自分の祖母は黒髪であると表明した。


そして、黒髪村の存在を明らかにしたことで、物議を醸してしまい、これまでに身内に黒髪の者が出た家門からは批判や非難を受けるようになった。


黒髪で生まれた者は今後黒髪村へ移らなくても良いということにしたからだ。


聖女の召喚も廃止し、黒髪村への移住も強制しないこと、黒髪村の人々への差別を禁じた。

聖女や勇者等の黒髪の人々の存在自体は受け入れられていたが、王族や貴族で黒髪である者は長らくいなかったため動揺を招いた。



「陛下、色々あまりにも急過ぎます。もう少しゆっくりと変えて行くのはいかがでしょうか」


側近らも困惑し先行きを不安視する程だった。


「······私は焦り過ぎているのだろうか?」

「陛下の国を変えたいお気持ちはよくわかりますが、国民達は受け入れるのに時間が必要です。変化を嫌う者達は尚更です。あまり急げば反感を買いかねません」

「遷都はしないつもりだ」

「それは賢明と存じます」


遷都の計画は中止にするという旨を発表すると、貴族や国民らは安堵の声を漏らした。


あれもこれも刷新をと、一人で突っ走る王は歓迎されないことをアルベルトは痛感していた。



また、アルベルトの母とその養父は、黒髪村の存在を秘匿して欲しかったにも関わらず、それを相談もせずに明らかにしたアルベルトに激怒した。


「なぜこんな勝手なことをするのです!?」

「相談すれば、母上は止めるでしょうから」

「当たり前です!」


母との信頼関係に亀裂が入り、貴重な母方の味方を失ってしまった。

また、我が子が黒髪であることを承諾もなく公表したことで自身の妻ともギクシャクするようになってアルベルトは孤立した。


それに比べて弟である第二王子バレルは穏健派のため、貴族らはバレルの支持者が増え、派閥間のバランスが崩れ出していた。



「あれは目に余る」

「少し灸をすえねばなりませんな」


神殿の残党も反親王派と結託して、アルベルトを王座から引きずり下ろそうと画策するようになった。


アルベルトの代わりに王弟バレルを王に望む動きが次第に拡していくのを、側近達も止めることが難しくなっていた。



近衛騎士リマールは妻の実家のコネとごり押しで、アルベルトの護衛につかされていた。


ある日、アルベルトの体調が思わしくなく執務室から寝台へ運ぶチャンスが巡ってきた。


「陛下、失礼致します」


アルベルトを寝台へ寝かせると、リマールはポケットに忍ばせてあった小瓶の液体をアルベルトに嗅がせた。

義父の伯爵から実行するように先日持たされたものだった。

成功するまでは妻は返さない、成功しなければこのまま離縁だと、妻を人質に取られたリマールに選択肢はなかった。


「うっ······」


アルベルトは呻くと昏倒した。


「陛下、しっかりなさって下さい!」


リマールはわざとらしく騒ぐと、医師を呼ぶように催促した。

側に控えていた王付きの侍女も反新王派の仲間で、手筈通りに動いた。


「陛下!」


侍女が医師を呼びにいくのを見届けると、リマールは息を止め防御しながら再び小瓶の毒をアルベルトに嗅がせた。

アルベルトは痙攣を起こし、口から泡を吹いた。

このアララート王国では暗殺に用いられることが多い毒草を元に作られた毒だった。


リマールは医師らが来る前に自分は解毒薬を飲み、部屋の窓を開けて換気した。



***


アルベルトは一命を取り留めたが、寝台から起き上がることができず、文字を書くことも、会話をするのにも不自由になった。


病床に臥した兄の代わりに王弟ダレルが王の座についた。

ダレルは兄のやり方には中立の立場を取るのではなく、元に戻す方向に動いた。


聖女の召喚を行わずに国を護る方策など思いつかなかったからだ。

神殿の残党達は再び聖女の召喚を申請するようになった。保守的な貴族や国民は神殿の意向に賛同した。


生まれたばかりのアルベルトの第二子ジークベルトは、慣例に習い黒髪村へ預けられた。


アルベルトが改革したもの全てが水泡に帰した。

アルベルトは王妃や王子からも見放され離宮の一室に追いやられた。


アルベルトの在位は歴代で最も短いものになった。

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