14.召喚制度廃止
聖女玲奈が投獄されてから、神殿は新たな聖女を召喚しようとしていた。
アルベルトは激怒し、国王として承認をしなかった。
「あのような者を召喚した神殿の責任は重い」
「あれはヘイル卿が自分の傀儡にできる者を召喚したのです。今度こそは正式な聖女を召喚致しますゆえ、何卒······」
「ならぬ。正式なとはどういうことか!?許可を得て召喚するのに正式も非正式もあるものか!」
「で、ですがこれでは国の衰退を招いてしまいます」
ヘイル卿の後に聖女召喚の責任者に就いた神官ラングは狼狽えた。
先王とは違い、アルベルトは懐柔が困難な相手だった。
「聖女などおらずとも、衰退などさせなければ良いのであろう?」
「そっ、それは······」
ラングは言い返すことができなかった。
「当面聖女を召喚するのは無しだ。下がれ」
聖女や勇者にすがり国難を回避しようなど、無能な者がすることだ。
何の策も講じずに安直に聖女や勇者を異世界より召喚して済ませようとするのは、アルベルトは一国の王としての矜持が許さないのだ。
神官長ラングは度重なる召喚申請に応じない王に業を煮やし、奥の手を使うことにした。
ヘイル卿よりも見劣りする貧相な容貌。表向きは明朗で如才なかった彼とは違い、辛気臭く弱々しげだ。
一見従順そうな態度を見せてはいても、ラングもまた神殿の権力維持のためには手段を選ばない男なのだった。
ラングは秘匿されていた神殿内の禁断の扉を開くために、最奥にある神官長以外出入り禁止区域に向かった。
三重の結界を解き、その扉は数百年ぶりに開かれた。
「私の代でこの扉を開くことになろうとは」
重々しく扉を開くと虚空から禍々しい気配した。神域などでは決してないその淵をラングは虚ろな瞳で見やった。
彼にとっては神殿の意向を通すための最終的手段に過ぎない。
だがこれが神殿と聖女にとって致命的な悪手になることを彼はまだ知らなかった。
***
「陛下、近頃王都での魔獣の目撃が頻発しております」
「王都で魔獣だと?魔獣避けの結界はどうしたのだ?」
通常は魔塔と神殿が協力して王都の結界を張っている。
聖女玲奈が結界を張れたのかは不明だ。
「結界に異常は見当たりません。ですが増え続けているのです」
「妙であるな。引き続き調査せよ」
原因も突き止められず、このまま収まらないならば、勇者加藤を呼び寄せようと思ってしまった自分の不甲斐なさに、アルベルトは恥じ入った。
( これでは歴代の王と何ら違わないでないか······!)
自分自身がまずこの思考、この国の王としての悪癖を変えなければならないのだ。
アルベルトは自分を鼓舞して、魔獣討伐の陣頭指揮を取るために現地に向かった。
勇者加藤は王都の状況を知り、王からの要請を待つこと無く魔獣討伐に加わっていた。既に収束も間近だ。
「陛下自らが陣頭指揮を取られるおつもりですか?」
「そのつもりだったが、そなたのお陰で出番はなさそうだ」
加藤はこの新しい王の勇敢さ、この国を変えようとする強い意志に敬意を抱いた。
「わたくしも勇者ですので、体が鈍らないようにしませんと」
勇者は大剣一振で、残りの魔獣を仕留めた。火竜もどきの首が地面にゴロリと転がり、続いて胴体も倒れた。
剣に着いた魔獣の血を振り払い拭うと鞘に納めた。
騎士団も活躍したか、勇者には及ばなかった。
「見事だった。礼を言う。お前達もご苦労だった」
アルベルトは兜を脱ぐと、馬上から勇者と騎士団へ礼を述べ労った。
「陛下、この魔獣騒ぎはどうもおかしいです」
「どういうことだ?」
騎士団長が疑問を呈した。
「魔獣達は本気で襲ってこず、すぐに戦意を失くし容易に討たれてしまいます。まるで脱け殻、ハリボテのような」
「ハリボテだと!?」
「はい、もしかしたら、魔獣達が何者かに操られているのではないかと」
アルベルトは渋面を作った。
「私も同感です。魔獣は結界の内部から発生しているようです」
勇者も同意した。
調査の結果、聖女召喚の許可を通すために神殿が禁断の扉から魔獣を呼び出していたことが明るみになり騒然となった。
神官長ラング及び神殿は断罪され、禁断の扉は魔導師らによって永遠に封鎖された。
中央神殿の度重なる失態に、神殿の権威は失墜した。
「今後一切の召喚を禁じる。禁を破った者は極刑に処す。召喚された者も同様とする」
事実上、これでアララート王国における聖女の召喚は全面禁止となった。




