13.聖女嫌いの王
第二部スタートです。
新生アララート王国は、二年前に王太子アルベルトが即位した。
神殿の聖女召喚制度を快く思っていなかった彼は、弟ダレルの婚約者になった聖女玲奈(桐野)を毛嫌いしていた。
玲奈の聖女とは言い難い醜悪な専横を見るにつけ反吐が出た。
神殿に逆らえない父王に失望し、自分が父を退け王位につくチャンスを窺っていた。
神官ヘイルの失脚で、その時がやって来た。
玲奈から聖女の位を剥奪したのもアルベルトだった。
「私は聖女が嫌いだが、嘘つきはもっと嫌いだ」
「わ、私は嘘つきではありません!私はダレル様と、この国も民もちゃんと愛しております」
元聖女の玲奈の頭上に浮かぶ「嘘です」「嘘だよ」という吹き出しを見るにつけアルベルトは顔をしかめた。
即位してすぐに神官ヘイルを処刑したばかりだったため、聖女まで処刑するのは幸先が悪いと判断し、生涯地下牢へ幽閉することに仕方なく切り替えた。
聖女の村、黒髪村へ追放することも考えたが、玲奈は犯罪者だったのでそれもできなかったのを忌々しく思っていた。
アルベルトは弟ダレルの婚儀を急がせて、新王のイメージ回復に努めた。
「聖女制度など、いっそなくなれば良いのだ」
金の髪に黒い瞳の王は嘆息した。
ヘイル卿亡き後、以前程ではないがまだ神殿の勢力は衰えていない。
神殿とのパワーバランスを保つために、アルベルトは遷都も視野に入れていた。
西部寄りの王都ポーヌを東部の都、加藤男爵領に近いリベトに移すことを考えた。
自分の新たな側近として加藤男爵を迎えてはどうかという思惑があったからだ。
神殿の悪しき者から神を救った勇者は欲が無く、没収された男爵位と領地の返還だけで満足した。
「そなたは騎士ではないのに、誰よりも騎士道精神があるのだな」
「私のいた国では騎士道ではなくて、武士道と呼ぶものに近いですね」
「武士とは何だ?」
加藤は武士についての説明を真剣にさせられることになった。
本当に要望は無いのか尋ねると、それでしたら黒髪村を領地に加えて欲しいと回答した。
引退後の聖女と、巻き込まれて召喚された者の待遇の改善の嘆願を了承したのもアルベルトだった。
それ以来加藤男爵を高く評価していた。
これはごく一部の人間にしか知られていないが、アルベルトの母は黒髪村の出身だったのだ。
王族と婚姻を結んだ聖女との間に子が生まれると、黒髪であれば黒髪村へ里子に出されるのが常であり、貴族の中でも時々遺伝によって黒髪で生まれる子も同様だった。
アルベルトの祖母は聖女の子孫でありつつ黒髪ゆえに捨てられた貴族の娘で、彼女が産んだアルベルトの母は栗色の髪だったために、祖母の実家へ戻されていた。
黒髪は聖女のみが許されるとしたのは、聖女を囲い権力を握るため神殿がそのようにしたのだ。
アルベルトが聖女制度を嫌うのは、黒髪村の存在を誰よりも知っていたがらだ。
「加藤男爵を呼べ」
「畏まりました」
勇者は王宮魔導師同様に転移魔法を使えるため、呼ばれれば遠い領地からでも、伝令を受ければ瞬時に馳せ参じることが可能だ。それも彼にとっては都合よく心強くもあった。
「久しいな」
「はっ、ダレル殿下の婚礼の儀以来で、ご無沙汰致して申し訳ございません」
先の王よりも覇気の強いアルベルトに加藤は咄嗟に配下の礼を取った。
「細君らは息災か?」
「はい、お陰様で」
昨年加藤男爵夫人の美帆は、好物の鰻重を食べている際に産気づき、早産で双子を産んでいた。
双子達はつたい歩きの真っ盛りで目が離せない。
「加藤、そなたは聖女召喚制度をどう思っている?忌憚なき意見を聞かせてくれ」
加藤洵は、新王アルベルトが聖女嫌いなのを知っていた。
桐野を本当は処刑したかったということも。
「聖女という存在自体はいても構わないと思いますが、異世界からわざわざ召喚する程のものではないと存じます。それは勇者も同様でございます」
「国内で賄えと?」
「無礼は承知しておりますが、左様でございます」
アルベルトは高らかに笑い、加藤をしばし震え上がらせた。
「うむ、よく言った。そなたとは気が合いそうだ」
満足げにアルベルトは相好を崩した。




