第六十三話「ジークフリート、四聖獣に抗議する:前編」
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統一暦一二一七年六月十八日。
ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン、総督府前。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ伯爵
戦死した獣人族兵士たちの慰霊式とその後にやってきた鷲獅子の言葉で、兵士たちの気持ちは多少軽くなった。
「この後はどうするのかの? 皇帝とは連絡は取れたかの?」
大賢者の問いにジークフリート王が答える。
「マクシミリアン帝は明後日に到着するようです。その後、今後について皇帝と協議を行い、それから帰国する予定となっています。それでよかったな、マティアス卿?」
「はい。到着され次第、今回の我が軍の戦死者に対する弔慰金について交渉する予定です。その他にも不可侵条約締結について交渉の場を設けることを提案します」
私が答えると、大賢者は少し考えた上で確認してきた。
「うむ。ならば、この後には特に予定がないということでよいかの」
「はい」
「では、少し時間をくれぬか。王とマティアスに話したいことがある」
何となく言いづらそうにしている。恐らく四聖獣たちとの話し合いの結果を教えてくれるのだろう。
国王の執務室に指定されている総督府軍兵舎の一室に入る。
私と国王、大賢者の三人だけだ。護衛の影すら部屋の外にいる。
「鷲獅子の言葉を聞いたから分かると思うが、代行者には強く釘を刺しておいた。今回のことは代行者にあるまじき行為だと全員が認識しておる。王が管理者にならぬことも伝えた。残念がっておったが、皆納得しておる」
その言葉に国王は頷く。
「それはよかったです。このようなことは二度とごめんですから」
「その上で相談がある。代行者たちと一度、直接話をしてくれぬか。神狼は直接謝罪したいと申しておるし、他の者たちもそなたの思いを聞きたいと言っておる。それに納得したと言っておるが、王から直に聞いた方が諦めもつくじゃろう」
「神狼様が直接謝罪したいと……冷静でいられる自信がありませんが……」
国王は考え込んでいる。
会えば怒りをぶつけてしまうと思っているようだ。
「よいのではありませんか。今の陛下であれば、四聖獣様を前にしても委縮することもないでしょうし、思いの丈を直接ぶつけた方がしこりは残らないと思いますよ」
管理者としての力はまだ封印していない。
これは四聖獣たちがどのような反応をするか分からなかったためだ。納得せず強引に迫られた場合、力を失っていると押し切られるが、力を持ったままなら対等に話ができると考えたのだ。
「それは分かるのだが……」
「陛下のお気持ちはよく分かります。私も神狼様にお会いして冷静でいられる自信はありません。ヘクトールたちが命を落とす原因を作ったのですから。いつかきっちりと話を付けるつもりですが、四聖獣様にお会いできる機会は大陸会議だけです。ですので、私に代わってガツンと言ってほしいと思っています」
正直な思いを伝える。
「ならば、卿にも来てもらいたい。私では何を口走るのか全く自信がないのだ」
「それはできません」
私が明確に拒絶すると、国王は驚いたような表情を浮かべた。
「なぜだろうか? これまでも卿は私を助けてくれたと思うのだが」
「陛下が管理者にならないと決断したのですから、代行者である四聖獣様にご本人からきちんとお話しすべきだと思います。それに私がここで出しゃばれば、更に拗れることにもなりかねません」
今回の発端は私に対する不信感だと思っている。
私が国王を操っていると疑われたのだから、ここで彼の代弁者として話をすれば、更に不信感を募らせることになるだろう。
「マティアスの言うことが正しいの。言葉を飾ることも怒りを抑える必要もない。そなたの思いをぶつける方がよい結果になるのではないかの」
大賢者も私の意見に賛同する。
「分かりました」
国王は渋々だが了承した。
「では、このまま来てくれぬか。鷲獅子は少し離れた場所で待っておるのじゃ」
「これからツィーゲホルン山脈まで行くのですか!」
ツィーゲホルン山脈にある神霊の末裔の塔までは、直線距離で四百キロメートル以上ある。この世界の常識で言えば、二ヶ月くらい掛かる距離で、驚くのも無理はない。
もっとも鷲獅子は時速二百キロメートルを超えるスピードで飛べるらしいので、無理をすれば四時間で往復できる。
「うむ。明日の朝にはここに戻すと約束しよう。どうじゃ?」
敵地にいる一国の王が単独で行動することになる。そのため、国王は私に確認してきた。
「問題ないだろうか?」
「ラザファムには正直に伝えますが、他の者には大賢者様と明日の朝まで重要な協議を行っていると言っておけば、問題はないでしょう」
本当は問題だが、神の代理でもある大賢者からの要請を断ることは現実的ではない。
「分かった。大賢者殿、よろしくお願いします」
こうして国王は四聖獣と会うためにコッソリと町を出ていった。
■■■
統一暦一二一七年六月十八日。
ゾルダート帝国南東部、ツィーゲホルン山脈北側、森林地帯。国王ジークフリート
私は大賢者殿と共に鷲獅子様に乗り、神霊の末裔の塔があった場所にやってきた。
自分で飛んだ時には恐怖を感じなかったが、数百メートルという高さを飛ぶという経験に、歯の根が合わないほど恐怖を感じた。
(ここが神霊の末裔の塔があったところなのか? ほとんど何も残っていないが……)
到着を告げられたが、そこには荒れ果てた剥き出しの山肌しかない。グライフトゥルム市にある叡智の守護者の塔のイメージを持っていたので異様に感じたのだ。
聖竜様、鳳凰様、神狼様は並ぶようにして待っていた。
『よく来てくれたね』
鳳凰様が陽気な念話を送ってくるが、私は神狼様を見て顔が強張るのを感じていた。
「お話があるとのことですが、明日の朝には戻らなければなりません。本題に入っていただきたいのですが」
私に無駄話をする気がないと感じたようで、鳳凰様も何も言わなかった。
神狼様が一歩前に出る。
『此度のことは我の失態。目的を忘れ、そなたに辛い思いをさせたこと、謝罪したい』
そう言って大きく頭を下げる。
他の聖獣様も同じように頭を下げるが、あまり心に響かなかった。
「謝罪は受け取りました。今後はこのようなことが起きないと考えてよいということでしょうか」
『無論だ。我は管理者の定めを蔑ろにした。このようなことは二度とせぬ』
神狼様の言葉に怒りが湧き上がるのを感じた。
「禁忌を冒したマルシャルク白狼騎士団長は厳しく罰せられました。また、私を含めた各国の代表に対し、民が禁忌を冒すことのないよう徹底するように命じられました。あえて魔神を逃がしたことは禁忌に当たらないのでしょうか」
怒りを抑えて何とか言い切った。
私の問いに大賢者殿が答える。
「管理者の定めた禁忌に魔獣をあえて逃がすというものはなかった。当たり前すぎてそのような定めなど作る必要がなかったからじゃ」
「禁忌として定められていなければ、責任がないということですか! マクシミリアン帝は合理的な考えゆえ、知らず知らずのうちに禁忌を冒すかもしれないと警告されていました! 魔神を逃がす時、魔窟が生まれる可能性について考えなかったのでしょうか!」
怒りが爆発し声を荒げてしまうが、後悔はない。
『可能性を考えなかったといえば嘘になる。そなたの覚醒を優先したことは事実だ』
「その結果、我が軍では三千、帝国軍では二万近い数の兵が命を落としたんだ! 彼らに罪はない! そのことについてどう考えているのか!」
「王よ。そなたの怒りは理解するが、落ち着くのじゃ」
「大賢者殿の言葉でもそれは無理だ! 私は神の力など欲しくなかった! そんなもののために友が殺されたのだ! 彼らの家族にどう言い訳をしたらいいんだ! 私がいなければ死ななくてもよかったなどと言えるはずがない!」
これほどの怒りを感じたことはこれまでなかった気がする。
母が殺された時は幼過ぎて理解できなかったし、父が戦死したと聞いた時も寂しさはあったが怒りは強くなかった。
「あなた方はマティアス卿を危惧したと聞いた! 彼が自分の目的のために管理者や代行者の力を利用するのではないかと疑ったと! 私に言わせれば、あなた方の方がよほど信じられない! マティアス卿は世界を守るため、家族や愛する者を守るために命を賭けているんだ! 私はあなたたちより彼を信じる!」
子供っぽい怒りだと心のどこかで感じている。国のことや世界のことを考えれば、四聖獣と敵対してもいいことなど何もないからだ。
しかし、私は怒りを抑えることができなかった。
下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。
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