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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第十章:「奮迅編」

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第五十七話「軍師、帝国戦略について語る:前編」

 統一暦一二一七年六月十七日。

 ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン、総督府軍兵舎内。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ伯爵


 妻のイリスと二人だけでいろいろと話をしていたが、午前八時頃にラザファムから呼び出しがあった。


 兵舎内の会議室に入ると、ラザファムの他にジークフリート王とハルトムート、アレクサンダーら主要なメンバーが揃っていた。


「体調の方はどうだ?」


 ラザファムが気遣ってくれる。

 昨夜の私は自分が思っていた以上に精神的に参っていたらしい。


「問題ないよ。兵たちは休ませているかな」


「先ほどすべての遺体の安置が終わったから近衛連隊以外を休ませている。近衛連隊も休ませたかったが、陛下をお守りすると言ってこの建物の周囲で警戒に当たってくれている」


 連隊長のアレクサンダーを見ると、小さく頷いた。


「我々は悪魔(デーモン)相手に弩で攻撃していただけで、大物と戦っていませんから」


 近衛連隊は北地区を担当していた。

 敵が町の中に侵入してきたら攻撃に回る予定だったが、グレゴリウス王子に憑依した魔神の動きが早く、ほとんど出番がなかった。


「了解。ところで帝国軍の動向が分かったのかな?」


「いや、まだ情報はない。だが、総督から今後について協議したいと申し出があった。そのことについて話し合いたいと思って呼び出したんだ」


「あの総督にしては思ったより早かったね。あと半日は屋敷に篭って出てこないと思ったんだけど」


 南部総督のアンドレ・セイツは無能な官僚で、私が行った情報操作で総督になった人物だ。

 我々がここに来た時も協力体制の協議をすることなく、防衛責任者のエリク・プレヴィン護民官に丸投げしたほどで、これほど早く動くとは思っていなかったのだ。


「護民官は安全になったと聞いたからではないかと呆れ顔で言っていたな。それはともかく、ここの責任者から協議したいという申し出があったことは事実だ。協議自体は十時からだが、その前に我が国の方針を確認しておきたい」


 総督は上に阿るタイプだから、皇帝が来る前に自分の失点を取り戻そうとしたのだろう。


「了解」とラザファムに答え、国王に視線を向ける。


「ちょうどいいタイミングですので、帝国との交渉方針についても話し合いましょう。まず陛下のご存念をお聞かせください」


「今回の戦いで我が軍は三千名近い戦死者を出し、魔神を倒すために重要な役割を果たした。その一方、本来戦うべきである帝国軍はほとんど何もしていない。世界を守る戦いとはいえ、我が国は帝国に大きな貸しを作った。このことを使い、得られるだけの利益を獲得すべきだと思う」


 国王も休んだことで気持ちの整理ができたのか、冷静に国益を考えられるようになったようだ。


「陛下のお考えは理解できました。私もその方針でよいと思います。エッフェンベルク侯爵、総司令官としての意見があれば、発言してください」


 ラザファムに話を振るが、小さく首を横に振る。


「軍としては戦死者及び負傷者への弔慰金と掛かった費用の回収は最低限要求したいが、それ以上のことは管轄外だ。陛下と国王特別顧問の考えを聞いてからコメントしたい」


「了解しました。他に発言したい者がいれば挙手をお願いします」


 私がそう言っても誰も手を上げない。ラザファムと同じように最初に私の意見を聞きたいようだ。


「では、私から提案させていただきます。まず要求として考えられるのは、金銭及び物資などの資産の獲得と領土の譲渡になります。本来なら港湾や鉱山などの権益も要求項目にできますが、資産価値がある権益は少ないですし、早期に反故にされる可能性が高く、利益を得るという点では現実的ではありません」


 私の言葉に全員が頷く。


「また領土ですが、これも現実的とは言えません。我が国が得るとすれば、国境を接するシュヴァーン河の東岸となりますが、その地を得ることによる利益より維持するための費用の方が大きく、これも現実的とは言えないでしょう」


 フェアラート市などの帝国西部の領土を得ると、当然地続きになる。そのため、防衛軍を駐留させる必要があるが、帝国軍に対するためには数万という大軍になる。二、三十万人の住民から得る税収では到底賄えない大きな負担になることは目に見えていた。


「そうなると金銭などの資産になりますが、残念ながら帝国の貨幣で支払われても価値は低く、あまり有効ではありません。もちろん、弔慰金などは受け取りますが、帝国から目に見える利益を得ることは難しいということになります」


「旧皇国領の穀物などの食料ならどうだろうか」


 国王が提案してきた。


「我が国の食料自給率は高く、大規模な軍事作戦でもない限り、輸入の必要性はありません。また、自給率が低いシュッツェハーゲン王国に売るにしても距離が離れておりコスト的に割に合わないと考えます」


「なるほど……では、何を得るというのだろうか」


「我が国の安全です。我が国、グランツフート共和国、シュッツェハーゲン王国の三国と帝国の間で不可侵条約を締結する提案を行います。また、条約締結の条件として、国境の帝国側五十キロ以内は非武装地帯とすることを明記します」


「不可侵条約の締結といっても、帝国が破れば意味がないと思うが、その点についてはどう考えているのだろうか」


 ラザファムが疑問を口にした。

 既に話してあるイリス以外の他の出席者も同じ思いなのか、頷いている。


「今回の作戦で我が軍は驚異的な移動速度でエーデルシュタインに到着しています。また、我が軍はあの魔神を相手に僅か三千の戦死者しか出さずに大賢者様の来援を待つことができました……」


 “僅か三千”という言葉を言うのは辛かったが、それを隠して話を続ける。


「一方、帝国軍はなすすべもなく半数以上が戦死しているはずです。そして重要なことは我が国には数万の獣人族が住み、更に法国から十万人が移住してくるのです。帝国が不可侵条約を破棄する場合、標的となるのはシュッツェハーゲン王国でしょう……」


 今回の作戦でラウシェンバッハ師団はこれまでの軍事常識を覆す速度で移動した。また、災厄級と呼ばれる強力な魔獣(ウンティーア)も倒し、その力を大いに示している。


「その侵攻作戦には少なくとも二個軍団六万を投入しますから、帝国西部から南部に掛けて守りにつけるのは二個軍団しかありません。我が軍が本気になれば、旧リヒトロット皇国領を占領することは難しくないのです」


「それは理解している。だが、三ヶ国同盟を締結している以上、帝国と不可侵条約を結んでも抑止力になるとは思えない。締結する意味がないように思えるのだが」


「エッフェンベルク侯爵のおっしゃる通り、皇帝の野心が勝れば抑止力とはなり得ません。ですが、第三軍団が壊滅的な状況で、更に経済的にも厳しい帝国としては不可侵条約の締結は渡りに船でしょう。そして、停戦に至れば国交が回復します。その状況で経済的に侵略するのです。穀物の供給を我が国が握ってしまえば、野心家であるマクシミリアン帝が条約を破棄して侵攻作戦の発動を考えても民が必ず反発します」


「なるほど。不可侵条約は国交を回復して経済的に支配することが目的か……ならば、皇帝が生きている方が望ましいということだな」


 ラザファムは私の考えを正確に洞察した。


「その通りです。皇帝が生き残っていれば、魔神たちの攻撃で強い衝撃を受けているでしょう。そして、そんな相手に対し、我が軍が善戦したと知れば、今まで以上に強く脅威に感じるはずです。そんな時に不可侵条約の話をすれば、皇帝の方が乗り気になります。一方、皇帝が死んでいた場合、後継者が誰になるのかで対応が大きく変わります」


「マクシミリアン帝の嫡男はディートヘルム皇子だったな。どんな評判なんだ?」


 ハルトムートが質問してきた。

 その問いに私は冷静に答えていく。


「今のところ真面目な少年という評判しかない。しかし問題は次期皇帝というより、誰が帝国を動かしていくかという点なんだ」


 そこでジークフリート王が話に加わってきた。


「今の段階でマクシミリアン帝が死ねば、ディートヘルム皇子か、弟のパトリック大公になると聞いている。どちらも政治的な指導力は未知数だから、ペテルセン元帥が帝国の舵取りをするのではないのか?」


 国際情勢についても教えているため、なかなか鋭いところを突いてきた。

 しかし、まだ深くは理解しておらず、私は今後の方針を含め、説明を始めた。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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