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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第十章:「奮迅編」

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第五十八話「軍師、帝国戦略について語る:後編」

2月1日より、八代ちよ先生のコミック版の公開が始まります!

素晴らしい作品に仕上がっておりますので、ご興味のある方はマッグガーデン様のHPをご確認ください!

 統一暦一二一七年六月十七日。

 ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン、総督府軍兵舎内。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ伯爵


 対帝国戦略について話し合っている。

 その中で皇帝マクシミリアンが死んでいた場合を想定した対応について議論していた。


 次の皇帝候補だが、マクシミリアンの嫡男ディートヘルム皇子と弟のパトリック大公だが、いずれも政治的な能力については未知数だ。そのため、ジークフリート王が現皇帝の腹心ヨーゼフ・ペテルセン元帥が帝国を動かすのではないかと言ってきた。


「次期皇帝については陛下のご理解の通りですが、ペテルセン元帥が帝国を動かす黒幕となれるかは微妙なところだと考えています」


「それはなぜだろうか? あのマクシミリアン帝が懐刀に選んだ人物だ。卿も皇帝と共に警戒する人物だと言っていたはずだが」


 実際、私が警戒しているのはその二人で、国王にもそのことは口を酸っぱくして言っているため、疑問を持ったのだろう。


「ペテルセン元帥が有能かつ危険な人物であることはその通りですが、その前提はマクシミリアン帝の後ろ盾があるということです。彼は根っからの参謀タイプであり、その才能を生かすことができるだけの度量を持つトップがいなければ、その能力を十全に発揮できません。ディートヘルム皇子とパトリック大公が謀臣と呼ばれる彼を使いこなせるかは未知数ですし、武断的な成り立ちである帝国では彼のことを嫌う者も多いですから」


「卿よりも実行力において劣るということか」


 私自身、トップを無視して動くことはないので少し違うと思った。


「そうでもないと思いますが?」


 そう言うとラザファムが反論してきた。


「それは違うぞ。君は国政改革でも軍制改革でも先頭に立っているし、帝国への謀略は君の独壇場だ。策自体で優っていることはもちろん、実行力という点でも君の方が遥かに高いレベルにあると思っている」


 彼の言葉に全員が頷いた。

 納得はできないが、これ以上脱線しても仕方がないので国王を見る。


「ペテルセンが牛耳れないなら、集団指導体制になる可能性が高いということか」


「そうなると思いますが、誰が主体的な立場になるかが読めません。ペテルセン元帥が最有力候補ですが、先ほど申し上げた通り、支持する者は多くありません。第一軍団長のエルレバッハ元帥も候補ですが、内政や謀略の能力は未知数ですし、そもそも政治に口を出すタイプではありません。そして、文官には候補となり得る者がいません。そのため、皇帝が死んだ場合、どのような体制になるか読めないのです」


 そこでラザファムが笑いを堪えながら話す。


「君の謀略が上手くいきすぎた弊害か」


 その言葉に私は苦笑するしかない。


「そうとも言えますが、問題は交渉を始めてみないと読めないという点です。もっとも、マクシミリアン帝が死亡しているようなら、帝国で後継者争いを引き起こします。そして、旧リヒトロット皇国領の独立を条件に後ろ盾になると言って、更に混乱を引き起こし、我が国との間に緩衝地帯を作ることも考えられます」


 私の言葉に国王がふぅぅと息を吐き出す。


「そこまで考えているのか……」


「皇国の独立を条件といいましたが、本当に実行するつもりはありません」


「それはなぜだろうか? 帝国と我が国の間に緩衝地帯を作れば、より安全になると思うのだが」


 常識的な考えを示してきた。


「理由は二つあります。一つは皇国が独立すれば、我が国の負担が大きくなりすぎる点です」


「財政と軍事の両面で支援が必要なためか」


「それもあります。他にも行政機構が完全に崩壊していますから、内政面でも支援が必要です。国政改革に着手したばかりの我が国にとって大きな負担になるでしょう」


「確かにそうだな。では、二つ目は何だろうか?」


「軍事面の負担が大きくなることにも関係するのですが、皇国では盾にならないからです」


「陸続きではグリューン河の南は簡単に制圧されるからか」


「おっしゃる通りです。二十一年前のフェアラート会戦では北公路(ノルトシュトラーセ)沿いは皇国領でしたが、シュヴァーン河まで帝国軍は進軍してきました。草原の民との関係がどうなるかは分かりませんが、彼らという不確定要素がある状況で、旧皇国領を回復しても我が国の安全には繋がりませんし、より危険になる可能性すらあるのです」


「なるほど」


「言い方は悪いですが、旧皇国領は帝国の不安定要素として残しておいた方が我が国の安全に寄与します。もちろん、帝国が大きく力を落とすようなことがあれば、皇国領を回復した方が安全にはなりますが、その場合も我が国の属国という形になるでしょう」


「エルミラしか皇位継承権を持つ者がいないためか」


 国王の指摘に頷く。


「はい。皇国という体制を復活させるなら、陛下とエルミラ殿下のお子が次期皇王となられるか、エルミラ殿下が即位されるしかありません。いずれにしても属国か、それに近い形にならざるを得ないでしょう」


 そこでイリスが話に加わってきた。


「皇帝が死んでいた場合は考える時間はあります。今は皇帝が生きている前提に考えるべきではありませんか」


 議論が変な方向に向かったため、軌道修正をしてくれた。


「そうだな。先ほどは不可侵条約を皇帝に提案するという話になった。三ヶ国同盟がある中、我が国だけが条約を結ぶことはシュッツェハーゲン王国が不信感を持つのではないか。その辺りはどう考えているのだろうか」


 国王の問いに小さく頷く。


「もっともなご懸念ですね。ですので、ここでは皇帝が不可侵条約の締結に前向きになるように誘導し、実際の交渉はグランツフート共和国とシュッツェハーゲン王国を交えて行うべきでしょう。ここで交渉すべきは弔慰金についてです。一人当たり、十万組合(ツンフト)マルク、総額で約三億ツンフトマルクを請求します」


 三億マルクは日本円で三百億円に相当する。

 帝国の国家予算の四パーセント、軍事予算の五分の一に相当する金額だ。


「それだけの金を支払うだろうか?」


「その点も考えてあります。支払いを拒否すれば、次回の大陸会議で糾弾すると脅せばよいのです」


「大陸会議で脅す?」


 国王が首を傾げる。

 大陸会議を政治に利用することに疑問を持ったようだ。


「今回の戦いは世界を守るという大義に基づくもので、管理者(ヘルシャー)の代理でもある大賢者様の依頼を受けて我が国は軍を動かしました。帝国は民を守ってもらったにもかかわらず、弔慰金を支払わないというのであれば、大賢者様の依頼を利用し、我が国の軍事力を低下させようとしていると四聖獣様に訴えると脅すのです。今の皇帝には大賢者様や四聖獣様を敵に回す気概は残っていないでしょう」


「確かに。だが、四聖獣様の名を出して脅してもよいのだろうか? 政治に利用したとお怒りになるのではないか?」


「四聖獣様であっても、そのようなことは言わせません。死んでいった者たちの遺族の生活をよりよくするために、私にできることは何でもするつもりです」


 正義感の強い鷲獅子(グライフ)であっても、神狼(フェンリル)が暴走したこのタイミングで文句を言うことはないと思っている。万が一、何か言ってきたら、滾々と説教してやるつもりだ。

 私の怒りを感じたのか、国王はやや引き気味に頷いた。


「その点は理解した。だが、先ほど帝国マルクでの支払いになると言っていたと思うが、それでは我が国が手に入れても意味がないと思うが?」


「皇帝にはモーリス商会を通じて支払うことを提案するのです。モーリス商会には帝国マルクか、穀物や金属などの現物を渡すか、借金をし、商会がそれをツンフトマルクに替えて我が国に支払うとしておけば、認めやすくなります」


 そこでラザファムが大きく頷く。


「これだけの現金は持っていないだろうし、現物もそれほど用意はできまい。そうなると、借金しか選択肢はなくなる。経済的な困窮に拍車が掛かるということか。なかなか悪辣だな」


 私はその言葉に頷くだけで答え、更に国王に進言する。


「我々は大きな犠牲を払ってまで、敵国民である数万にも及ぶ帝国民を守ったのです。世界を守るという大義の下でのことではありますが、千数百キロ離れた都市を守りに来る義務はありません。対価を要求するのではなく、大義のために散っていった者に対する気持ちを示すべきと訴えましょう」


「そうだな。彼らの命はその程度の金で換えられるものではない」


 国王も分かってくれたようだ。

 その後、具体的な話について協議を進めていった。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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