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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第十章:「奮迅編」

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第五十四話「国王、真実を知り不信感を抱く」

 統一暦一二一七年六月十七日。

 ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン、総督府軍兵舎内。国王ジークフリート


 大賢者殿、マティアス卿、ラザファム卿、イリス卿、ハルトムート卿、叡智の守護者(ヴァイスヴァッヘ)のシドニウス・フェルケ大導師と共に、私が得た管理者(ヘルシャー)の力について話し合っている。


 私は神である管理者になることはできないと断ったが、マティアス卿が保留してはどうかと提案してきたため、それを了承した。


「大賢者様にお願いがあります」


 マティアス卿は厳しい表情で、大賢者殿に話しかけた。


「怖い顔をしてどうしたのじゃ?」


 大賢者殿は私が管理者になるかもしれないと安堵の表情を浮かべていたが、厳しい表情の彼に声を掛けられ、僅かに驚いている。


「陛下が管理者としての力に目覚めたものの、管理者になることはないとおっしゃったと、四聖獣様にはお伝えください」


「どういうことかの? 神狼(フェンリル)の暴走が発端じゃが、それを認めるなといいたいのかの?」


 何の話か分からず、頭の中に疑問が浮かんでいる。ラザファム卿らも同じように疑問を感じているようだ。

 そのことを感じたのか、マティアス卿が説明を始めた。


「今回のことは神霊の末裔(エオンナーハ)の失敗が直接の原因ですが、神狼様があえて魔神を見逃し、陛下が管理者として覚醒するように誘導したことが、事態を悪化させました。大賢者様、神狼様はそのことをお認めになったと聞きましたが、間違いありませんか」


 マティアス卿は怒りを抑えているという感じで平板な声で質問した。

 大賢者殿の顔が歪む。


「間違いない。神狼も認めておる」


 その言葉に衝撃を受ける。


(私を覚醒させるために数万の人の命を賭けたというのか? その結果が三千近い戦死者……マティアス卿が本気で怒っている理由も納得できる。いや、私も認めたくない! 私のために数千の兵が死に、多くの罪のない民が死ぬところだったのだから!)


 拳に力が入るのを感じた。

 しかし、ここはマティアス卿の話を聞くべきだと口を挟むのを我慢する。


「陛下が判断を保留したと聞けば、神狼様は更に強引な方法を採らないとも限りません。その場合、陛下は歪な形で管理者となる決断をされることになります。そのような方法では誰も幸せになりません。ですので、陛下は今回の神狼様の行いに大いに失望し、怒りを覚えて辞退したと伝えるのです。そうすれば、これ以上干渉してくることはないでしょうから」


「そうじゃの……」


 そこで私も話に加わる。


「今の話は本当のことなのだろうか! 事実であるなら、神狼様の思惑に乗るなどありえない!」


 そう言って吐き捨てる。


「事実じゃ」


「大陸会議では大陸に住む者が手を取り合うことになったはず! それを蔑ろにするなど、神の代行者たる資格はない! そのような考えの者に担がれるなどごめんだ!」


 怒りに打ち震え、言葉が荒くなる。

 大賢者殿は苦渋に満ちた表情のままで何も言えずにいた。

 そんな中、マティアス卿がいつもの笑みを浮かべ、私に話し掛けてきた。


「陛下のお怒りはごもっともですが、今は冷静になりましょう。怒りで判断を誤るなどあってはなりませんから」


「確かにそうだが、死んでいった者たちのことを考えたら冷静になどなれない! これは卿も同じだろう!」


 マティアス卿は表情を悲しげなものに変える。


「そうですね。ヘクトールとヴィルギルは十年以上の付き合いがありました。彼らと二度と話ができないと思うと、怒りを抑えることは難しいです……」


 第二連隊長のヘクトール・シーレと第三連隊長のヴィルギル・ベーアは、マティアス卿の護衛として屋敷で一緒に過ごしていた仲だと聞いている。

 私より遥かに強い怒りを覚え、辛い思いをしていると今更ながらに気づく。


「ですが、あえてこの話を出したのは、神狼様に怒りをぶつけるためではありません」


「どういうことだろうか」


「もし陛下がすんなり管理者になることを受け入れられたのでしたら、この話をするつもりはありませんでした。大賢者様には未来永劫隠し続けてくださいとお願いしていたのですから」


 彼の言いたいことがよく分からない。


「陛下が管理者となられれば、四聖獣様との関係は重要です。そこに齟齬があれば、それこそ世界の存続に大きな影響が出るからです。しかし、陛下は辞退されるとおっしゃり、私の提案を受けて保留とされました。つまり、管理者候補である陛下と代行者である四聖獣様の関係をよりよいものにする時間が得られたということです。ヘクトールたちの死を無駄にしないためにも、世界にとって最善の方法を採るために、あえて話したのです」


「つまり私が受諾したら四聖獣様との関係が壊れるようなことは隠し通せ、騙し通せと依頼したということか……だが、そんな歪な関係では長続きしない。だから、保留している間に神狼様に意識を変えてもらえと言いたいのか」


「その通りです。神狼様が変わらなければ、陛下はもちろん、後の世代で管理者候補が現れても真の意味での信頼関係を築くことができないでしょう。そうなれば、世界はいずれ消えてしまいます。ならば、自らの責任を感じて変わってもらう。そうすることで、死んでいった者の命に意味を持たせることができるのです。これは大賢者様にも手伝っていただきます。助言者(ベラーター)たる大賢者様が代行者(プロコンスル)の暴走を防げなかったのですから」


 神の側近に対して非常に厳しい言葉だが、間違ったことは言っていない。


「もちろん私にも責任はあります。もっと積極的に関与しておけば、防ぎ得たのですから」


 その言葉に疑問を持つ。

 いくらマティアス卿でも今回のような突発的な事態が起きることや、神狼様が暴挙に出ることなどを予想することも防ぐことも難しいと思ったからだ。


「それは難しかったのではないか?」


「いいえ。ある程度予想できたはずです。もう少しきちんと考えていれば……」


 その表情は寂しげだった。


「神狼様がこのようなことをされるとは、誰も予想できなかったのではないか?」


 世界を守る四聖獣様が世界の存続が危ぶむようなことをされた。事前に聞かされても信じなかったはずだ。


「今回の神狼様の行いの根底には、私が別の目的のために管理者や四聖獣様たちの力を利用するつもりではないかというという不信感があったはずです。そして、そんな私が陛下を適切に導けるのかという疑念が生じ、強引にでも覚醒していただくように画策したのでしょう」


「私を導く? 卿は私が管理者となるために指導していたということなのか?」


 その言葉に私は驚いた。

 イリス卿たちも知らなかったようで、私と同じように驚いている。


「それは違います。私に管理者になるために指導することなどできないと大賢者様にはっきりと断っていますから。私にそんな知識も能力もありませんよ」


 そこで大賢者殿の方を見ると、肯定するように小さく頷く。


「但し、陛下が君主として人々の上に立てるように、私にできることはさせていただくとはお伝えしました。組織の長として何をなすべきかということなら、多少はお話しすることができますので。しかし、神狼様は卑小な人族の長では、管理者となるには不充分であるとお考えになったようです」


「言わんとすることは分かるが……」


「それに私は管理者になることが陛下にとって最善なのかと、常に疑念を抱いていました。そのような重荷を負わせるようなことは、私にはできないと考えていたのです」


 それでようやく腑に落ちた。


「だから卿は何度も覚悟を聞いてきたのだな。大賢者殿や四聖獣様たちの願いを叶えることを、世界の存続を最優先するなら、私が管理者になるように誘導したはずだ。しかし、卿はそれをしなかった」


「はい。こうなることを神狼様は何となく感じ取っていたのかもしれません。そして、私はそのことに薄々気づいていながら適切な手を打ちませんでした。気づいていたのなら、四聖獣様が干渉しないように手を打つべきだったのです。それを怠った結果が今回のことだと思っています」


「だから辞退したことにして干渉を防げと卿は言うのだな。しかし、このようなことは誰も想像できない。卿に責任があるとは思えないが」


 そこでマティアス卿は首を横に振る。その表情はとても悲しそうに見えた。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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