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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第十章:「奮迅編」

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第五十三話「軍師、被害の大きさに愕然とする」

 統一暦一二一七年六月十七日。

 ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン、総督府軍兵舎内。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ伯爵


 兵たちへの演説が終わった後、国王らと共に町の西側にある総督府軍の兵舎に入った。

 既にラザファムら総司令部の面々も兵舎に入っており、情報の収集も終わっていた。


「今回の作戦での損害が判明しました。戦死者は合計二千八百十一名。四肢の欠損など障害が残る負傷者は百二十四名。僅か三十分の戦いで全軍の三分の一を失いました」


 ラザファムが感情を排した声で報告するが、私には血を吐くような苦痛に満ちた声に聞こえていた。


「三千も……」


 ジークフリート王も愕然としている。

 ある程度予想はしていたのだろうが、その数の多さに言葉を失ったのだ。


 私も同じだ。大きな損害を受けることは覚悟していたが、その数字の大きさに言葉を失っている。


 二週間にわたる激戦であったグラオザント会戦でも、獣人族兵士の戦死者は二千人に届いていない。それが僅か三十分の戦いでそれ以上の戦死者を出している。


(私が彼らを戦場に駆り出さなければ、このようなことにはならなかった……必要な戦いだったが、他に方法はなかったのだろうか……)


 後悔の念が頭を占めるが、ラザファムは冷静に報告を続けていた。


「戦死者数の内訳ですが、ラウシェンバッハ師団の第一連隊が約二百、第二連隊が約六百、第三連隊が約五百、第四連隊が約二百で計約千五百。突撃兵旅団が約千二百、近衛連隊が約百です。最前線で戦っていた兵たちに多くの犠牲者が出ています……」


 城壁を守っていた第二、第三連隊と城門の内側にいた突撃兵旅団では半数以上が戦死という異常な数字だった。


「第二連隊と第三連隊では連隊長が戦死しています。城壁の上ということで避けようがなかったようです」


「ヘクトールとヴィルギルが……」


 黒獣猟兵団時代から付き合いのある第二連隊長のヘクトール・シーレと第三連隊長のヴィルギル・ベーアを失ったことに強い衝撃を受け、それ以上言葉が出ない。


(他にも多くの知っている者が命を落としたんだろうな……すべて私のせいだ……)


 全身から血の気が引き、身体が一気に冷たくなっていく気がしていた。

 しかし、今は状況を把握することを優先すべきだと悲しみを無理やり心から追い出して冷静に質問する。


「住民の被害について報告は?」


「火災によって死傷者が出ている。死者は約二百、負傷者約五十。負傷者はすべて治癒済みだ。全焼した家屋は確認できただけで百五十。死傷者の多くが地下室で煙に巻かれたようだ」


 こちらは予想よりかなり少ない。


「我々は住民を守ったということだね。これは誇っていいことだよ」


 私の言葉にラザファムは渋々と言う感じで頷く。

 帝国民を守るために三千人近い死者を出したことに、理性では納得できても感情では納得できなかったようだ。


 もちろん私も同じ気持ちだ。しかし、こうでも言わないと、私自身が感情を爆発させそうだったのだ。


「北地区の確認や被災住宅の後始末などは総督府軍に任せました。現在、こちらに向かっています」


「よくやってくれた。南側の警備も総督府軍に任せ、兵たちを早めに休ませてやってくれ」


 国王の命令にラザファムが頷く。


「承知いたしました。遺体の安置が終われば、順次休息させます」


 現在の時刻は午前二時半頃。戦闘開始が零時過ぎだったから、まだ二時間くらいしか経っていない。


 報告は終わったが、全員が沈黙し立ち尽くしている。

 そこに(シャッテン)のカルラが現れた。彼女は魔導師隊の一隊を指揮し、町の北部で消火活動などに当たっていたのだ。


「マグダ様がご帰還されるようです」


「大賢者殿が……ちょうどよい。ラザファム卿、マティアス卿、イリス卿、ハルトムート卿、シドニウス殿。大賢者殿に報告することがある。卿らにも立ち会ってもらいたい」


 私とシドニウス以外は何を報告するのか分かっていないが、ラザファムとイリスは何となく察しているのか緊張した面持ちだ。


「まずは大賢者様とお二人の方がよいのではありませんか?」


 私がそう言うと、国王は(かぶり)を振る。


「師である卿ら四人と我が王家を陰ながら守ってくれている叡智の守護者(ヴァイスヴァッヘ)の大導師殿にはぜひとも聞いてもらいたい」


「承知いたしました」


 何を言うつもりか何となく分かるが、覚悟を決めたようなので何も言わなかった。


 兵舎にある会議室に入る。

 カルラたち(シャッテン)が会議室の周囲を固める。


 これは私が指示したことだ。

 管理者(ヘルシャー)に関することが話されることは間違いないため、万が一漏れて変な形で広まることを恐れたためだ。


 大賢者が会議室に入ってきた。


「皆には世話になった。この通りじゃ」


 入ってくるなり、大賢者が頭を大きく下げる。


「大賢者殿にも助けていただきました。感謝いたします」


 国王も同じように大きく頭を下げ、我々も一緒に頭を下げる。


「王よ、そなたは新たな力を得たようじゃが、どうかの?」


「はい。マティアス卿から聞いたのですが、管理者(ヘルシャー)の力を得たようです。彼のお陰で兵たちを治癒し、魔神たちを倒すことができました」


 その言葉に私と大賢者、シドニウス以外が驚く。

 しかし、誰も疑問を口にしなかった。今は話を聞くべきだと考えたようだ。


「マティアスからの……儂が最後に見た時には本部の下で気を失っておったはずじゃが?」


 大賢者は私が関与したことに疑問を持ったようだ。

 そこで国王が説明を始める。


「私にはよく分かっていなかったのですが、無意識のうちに管理者として覚醒していたようです。そして、そのことすら自覚しておらず、助言を求めて彼の魂を引き寄せました。それから彼の助言に従い、力を行使したのです」


「なるほど。マティアスが助言しておったのであれば納得できるの。魔導の心得のない王が歴代の管理者でも難しい奇跡を起こしたことに違和感があったのじゃ。マティアスの柔軟な発想を素直に具現化したのであれば、魔導師(マギーア)であった歴代の管理者より的確に対処できたのも納得じゃ」


 私は管理者というのは神に近い全能な存在で、ジークフリート王が行ったような奇跡を簡単に起こせると思っていたが、どうやら違っていたようだ。


「この力を得たことで大賢者殿に話があります」


 本題に入るようだ。

 大賢者も「うむ」と頷くだけで国王の言葉を待つ。


「私は管理者の力を得ましたが、その任に耐えられるとは思えません。ですので、管理者にはなれません」


「理由を教えてくれぬか?」


「その責任に耐えられるような強い心を、私は持っていません。責任に圧し潰されるか、力に溺れて世界に仇なす存在となってしまうのではないかとそれが不安なのです。それに今回のことでも分かりましたが、知識もありません。もし、マティアス卿が来てくれなければ、ここに戻ることすら叶わなかったでしょう」


「うむ。そなたはまだ若い。それは仕方がないのではないかの」


「知識は学べば身に着くでしょう。ですが、心は違うと思います」


 大賢者は「うむ」と頷き、先を促す。


「マティアス卿から何度も覚悟を問われましたし、力を得た者の責任についても言及されています。私も世界を良い方向に進められる力を得たのに、それを放棄していいのかと悩みました。ですが、私には無理です。この力を封印し、私の後の世代に期待したいと思います」


 国王は悔しげな表情を浮かべている。

 自分に神となる覚悟がないことを不甲斐なく思っているのだろう。


「王の言いたいことは分かった。残念じゃが、此度の王の判断は妥当じゃと思う。準備もなく管理者となれば、大いなる禍になりかねぬからの」


 内心では大きく落胆してるのだろうが、大賢者は表情を変えずにそう言った。

 横にいるシドニウスは僅かに落胆の表情を浮かべている。彼らの組織にとっても悲願だが、それ以上に大賢者の心中を慮ったためだろう。


 私も国王の判断は妥当だと思っているし、大賢者が無理強いしなかったことも評価している。


 今回は神狼(フェンリル)が暴走し、無理やり国王を覚醒させた。

 本来なら十年、二十年と掛けて、国王として経験を積みつつ、世界の行く末を考えさせてから覚醒させるべきだった。


 そのために大陸会議で発言させ、数十年先の大陸のことを考えさせたのだ。

 但し、一つだけ思ったことがある。


「発言してもよいでしょうか」


 私の言葉に国王と大賢者が同時に頷く。


「陛下のご判断は正しいと思います。現時点では、という但し書きは付きますが」


「どういうことだろうか? 考え抜いて出した結論なのだが」


 国王が聞いてきた。


「陛下が考え抜かれて出された結論だということは重々承知しています。ですが、早急に結論を出す必要はないのではないかとも思います。最後の管理者が亡くなられてから千五百年。あと数十年不在でもそれほど影響はないでしょう」


「つまり、その数十年で私が成長すればよいと」


 私は(かぶり)を振る。


「いいえ。数十年という時間を掛けて考えてはどうかと提案しているのです。それだけ考えても、どうしても受け入れられないのであれば、そのまま辞退されればよいのです。逆に世界のために必要だとお考えになられたのであれば、管理者となればよいのです」


「なるほどの。確かに急いで決めることではないの」


 大賢者が満足そうに頷くが、国王は納得した様子がない。


「確かにそうだが、結論が変わることはないと思うのだが……」


「それでもよいのです。ですが、可能性だけは残しておくべきだと思います。この先、どのような未来が待っているのか分からないのですから」


 今回のようなことが起きた場合、力を持つ者が一人でも多い方がいいと思ったのだ。


千里眼(アルヴィスンハイト)殿でも分からないのか……では、我が軍師殿の意見を採用しよう。大賢者殿、保留とさせていただきたい。但し、この力は封印する。これを持ったままでは、私が暴走しないとも限らないからな」


「それがよいの」


 大賢者が満足そうにしているが、私は釘を刺すことにした。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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