第二十三話「軍師、エーデルシュタインを救援する」
統一暦一二一七年六月十二日。
ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン西、森林地帯。第一連隊長エレン・ヴォルフ少将
エーデルシュタインの西の森で魔獣の集団と戦った。
敵の数は六十体ほどだが、災害級と準災害級の組み合わせだから、数千の軍より強力だ。その強力な敵の多くを討ち取り、撤退に追い込んでいる。
二十八人の戦死者を出したものの、一千名の第一連隊で撃退できたのは敵が想定より弱かったためだ。
(マティアス様のおっしゃった魔素の供給が絶たれた影響はあるかもしれない。だとすると、天災級でも何とかなる……)
しかし、楽観できないことも事実だ。
(指揮官らしき上級悪魔も気になるな。はっきり見えなかったが、遠くからこちらを探るように見ていたような気がする。我々の力を計っていたのだとすると、この先の戦いがどうなるのか全く想像できないな……)
この懸念はマティアス様、イリス様にも伝えているが、お二人も厳しい表情をされていた。
行軍再開の準備を始めたところで、偵察小隊を先行させた。
エーデルシュタインが襲われている可能性があると、マティアス様がおっしゃったためだ。
「偵察小隊から連絡が入りました。エーデルシュタインが魔獣の襲撃を受けているとのこと。確認できる範囲では合成獣十、一つ目巨人十、悪魔三十、悪魔の中には上級悪魔も数体確認したとのことです」
災害級の魔獣だけで二十体以上だ。
その事実に溜息が出そうになる。
「エーデルシュタインの防衛の状況は?」
マティアス様が冷静に確認された。
「城壁の上から散発的に矢を射かけているだけとのことです」
その報告にイリス様が顔をしかめられた。
「全然対応できていないってことじゃない。これはまずい状況よ。絶対に悪魔たちが城内に入っているわ」
「そうだね」
マティアス様はいつもの優しい笑みで頷かれるが、すぐに命令を出された。
「これよりエーデルシュタインの救援に向かう。エレン、一個大隊を率い、前線で指揮を執れ。第一目標は城外の大型魔獣。第二目標は飛翔型。但し、最初は敵の注意を引き付けるだけでいい。イリスは本隊の指揮だ。本隊は迂回しつつ、敵の後方に回り、奇襲を仕掛ける」
「「「はっ!」」」
その命令に全員が敬礼をもって応える。
「第二大隊は俺と共に先行するぞ! 第一大隊、第三大隊はイリス様の指揮下に入れ! 出発!」
最前線での指揮を任していただけたことに気持ちが昂る。
(ご信頼に応えなければ……だが、慎重さを忘れるな。マティアス様が最も嫌われることは無謀な戦闘だ。俺ならそんなことはしないと信じてくださったのだから……)
自らに言い聞かせながら第二大隊と共に走っていく。
僅か十キロメートルということで、三十分ほどでエーデルシュタインの城壁が見えてきた。
森が切れる前に俺は声を出すことなく、手を上げて停止を命じた。
城壁までの距離は五百メートルほど。全力で走れば一分ほどだが、奇襲は不可能だ。
偵察兵が静かに近づいてきた。
「南側から攻撃していますが、そろそろ城門がヤバいです」
携帯用の小型望遠鏡で確認すると、一つ目巨人が城門を巨大な拳で叩いていた。そのため、一番外側にある木製の門扉が外れかかっている。
更に見ていくと、合成獣と悪魔たちが城壁の上にいる兵士に向けて炎の魔導を打ち出していた。
「そのようだな。上級悪魔はどこにいる」
「あの辺りです」
そう言って左手側の上空を指差す。城壁を攻撃している悪魔たちの後方に三体ほどが浮かんでいる。
望遠鏡で見ると、他の悪魔より一回り大きく、一段と禍々しい姿だ。
「第一中隊は門を攻撃する一つ目巨人を、第二中隊は合成獣を牽制しろ。第三中隊は弓と弩で上空にいる悪魔たちを牽制するんだ。倒す必要はない。敵の注意を引きつつ、城壁から引き離せ」
一個大隊三百人では圧倒的に戦力が足りない。
そのことはマティアス様も十分に分かっておられるので、派手に攻撃を仕掛けて注意を引く。
「攻撃開始!」
俺は愛用の剣を振り下ろしながら叫んだ。
■■■
統一暦一二一七年六月十二日。
ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン郊外。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ伯爵
帝国南部の都市エーデルシュタインが魔獣の攻撃を受けている。
ラウシェンバッハ師団副師団長兼第一連隊長のエレン・ヴォルフ少将は第二大隊を率いて敵の注意を引くべく突撃した。
本隊である我々は、彼らより少し南側を進み、敵の後方に出る。
「敵が第二大隊に意識を向けたら後方から攻撃を仕掛ける。第一目標は上空の悪魔。特に上位種を集中的に狙え。偵察隊の報告にない魔獣がいることも頭に入れておくんだ。人型の上位種がいる場合は集中的に攻撃してほしい」
それだけ言うと、イリスに場所を譲る。輿に乗っている私では前線に近い場所に行くわけにはいかないため、彼女が指揮を執るからだ。
「敵に気づかれないように静かに接近します。ラッパによる合図を聞き逃さないように。では出発します」
混戦になることは必至であり、通信の魔導具による命令伝達ではなく、ラッパを使うことになるからだ。
彼女はそれだけ言うと、部隊と共にゆっくりと前進していく。
「私たちも出発しよう。グントラム、よろしく頼む」
私を運ぶ特別分隊の分隊長、犀人族のグントラム・ナスホルン少尉に命令する。
グントラムは大きく頷くと命令を出した。
「りょ、了解。しゅ、出発せよ」
どもる癖があるが、行動は迅速で判断も的確だ。
輿の上から護衛騎士の格好をした影、ユーダ・カーンに指示を出す。
「ユーダさん、敵の種族や能力をできるだけ客観的に観察してください。今後の作戦に役立てたいと思いますので」
「承知いたしました」
ユーダは長命種である闇森人であるため、これまで多くの魔獣と戦った経験がある。その経験から敵の能力を計ろうと考えていた。
私たちはエーデルシュタインの南五百メートルほどの場所まで迂回する。
この辺りは燃料となる薪を得るための雑木林が広がっており、迷彩柄のマントを纏った兵士を隠してくれた。
望遠鏡で見ると、エレンが指揮する第二大隊が散開して、一つ目巨人などに攻撃を加えている。上空にいる悪魔から散発的に炎の球の魔導が放たれるが、悪魔たちは矢を恐れているのか遠距離から攻撃しており、ほとんど当たっていない。
「見事な指揮だな。そろそろイリスも突撃を開始するつもりかな」
そう呟いた直後、第一大隊と第三大隊が静かに飛び出していく。そして、北側に意識を向けている上級悪魔らしき六体に向けて一斉に矢や太矢を放った。
五百近い矢や太矢が集中し、上級悪魔たちを針鼠のようにした。
どのくらいの矢が当たったのかは分からないが、三体がフラフラと墜落していった。
「残ったのは死霊魔導師のようです」
望遠鏡で見ると、確かに蝙蝠のような翼はなく、ボロボロになったローブが翼のようにはためいていた。
「やはり死霊魔導師には、通常の矢では効果がありませんね」
死霊魔導師は物理攻撃に強く、十本以上の矢が当たったにもかかわらず、逃げることもなく攻撃の意思を見せている。
死霊魔導師が魔導を放とうと杖らしきものを振り上げた。
しかし、イリス隊の攻撃の方が速い。
再び、数百本の矢が放たれた。
三体の死霊魔導師は自分たちに効かないと思っているのか、避けることなく、魔導の発動に集中しているように見えた。
矢が死霊魔導師たちに集中する。そして、三体は力を失って落ちていった。
「さすがはイリス様です。ミスリルの矢を使うように予め命じていたようですね」
その言葉に頷きながら、全体を見ていった。
下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。
また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。
感想、レビュー、ブックマーク及び評価(広告下の【☆☆☆☆☆】)をいただけましたら幸いです。




