3.暗躍する者たち(その1)
色々と理解の埒外にあるサンドラが、「聖女」についてもトンチキな勘違いをしていた事が確認できた後、シーラ嬢をはじめとする三名の暗躍者たちは、再び集まって密議を凝らしていた。
「まず、当家の方針が固まりましたので、それについてお伝えします」
シーラ嬢は一旦言葉を切ると、聴衆である「上司」氏とヘクトーを交互に見遣った。
「まず、ボンク……レクサンド殿下と私との婚約は解消の方向に持っていく事が、改めて確認されました。元々当家としては不満の残る婚約を、王家の嘆願に負けて承知させられたようなものでしたから、これに関してはすんなりと意見が纏まりました。できれば王家の有責という事で解消に持ち込みたいところですが、現状を見る限りでは、それも難しくはなさそうだとの見解が主流を占めております」
「まぁ、確かに……」
「婚約中にも拘わらず他の女に現を抜かすなど、不誠実を誹られるのに充分な不行跡ですよね」
この件に関しては、悪魔二人の意見も同じらしい。愛情とか誠意とか言う以前に、婚約という「契約」を蔑ろにする行為自体が、彼らの矜恃を逆撫でしたらしい。
「今のままでも充分婚約解消に持ち込めるでしょうし、それだけの証言も証拠も確保してあります。こちらに関しましては、放って置いても勝手に自滅してくれるであろうとの考えから、特段に動く必要はないという意見が支配的です」
「……お嬢様はそうお考えではないのですか?」
「いえ、私も基本的には同意見です。だた、それとは別にとある懸念も持っております。ですが、その懸念についてお話しする前に、あの元凶への対処について、当家の方針をお伝えします」
彼女こそが或る意味で最大の懸念事項であるからして、聞いている悪魔二人も肩に力が入る。サンドラへの対処の如何によっては、今後の任務の難易度が激変しかねない。身も入ろうというものだ。
「あの二人は混ぜると危険という事で、別々にしておくのが一番……というところまでは意見の一致を見たのですが……では、当家として何か積極的に打てる手があるかという事になると……」
「あぁ……」
「確かに……」
デュモア家として何らかの行動を起こす事は可能だろうが、そうすると否応無しに世間の耳目を集める事になるだろう。他家の足を引っ張るのが貴族の習い性である以上、面倒に巻き込まれるのは避けられない。
「彼女が聖女に就任してしまえば、必然的にバカ殿下との縁も切れる。なら、このまま聖女への就任ルートに乗せてしまえばいい――という事ですか」
「えぇ。既に教会はそのつもりで動いていますし、ここは静観の一手だろうという事に」
なるほど。それなりに筋の通った見解ではある。……だが、
「……お嬢様はそれが最善手だとはお考えでない?」
「と言いますか、小さな懸念がありますの」
先ほどシーラ嬢が漏らした〝とある懸念〟というやつか。それは一体?
「あの馬k……レクサンド殿下のご気性を考えると、卒業式後のパーティで、派手に婚約破棄を宣言する可能性を捨てきれません」
「……は?」
「パーティの場で婚約破棄?」
シーラ嬢が予言した内容の非良識ぶりに、理知を以て鳴る悪魔二名は戸惑いを隠せない。それに何の意味があるのだ?
「……件の婚約は、飽くまで王家と公爵家の間の問題でしょう。卒業パーティとは無関係では?」
「無関係です」
落ち着き払って答えるシーラ嬢とは対照的に、悪魔二名は困惑の色を深めていく。
――レクサンド王子の思考回路が理解できない。これは人の心に付け込む悪魔として、致命的な問題ではなかろうか。……いや……理解できたらできたで、何か大事なものを喪うような気もするが。
……シーラ嬢は理解できるのだろうか。
「理解ではなく推測――いえ、憶測とか妄想になりますが……恐らくあのトンチk……レクサンド殿下は、大勢の前で婚約破棄を宣言する事で、済し崩しにそれを認めさせようと謀っているのではないかと」
「済し崩しに……」
「……認めさせる?」




