2.担当者会議~事実の確認~(その2)
ここで取り分け重要な点が三つある。
第一は、何を以て〝神の恩寵〟の証とするかで……早い話が、〝当該スキルや魔道具を持っていないにも拘わらず、それ無くしては不可能な奇跡を為し得た事〟――がその証なのであった。豊富な魔力や特別なスキルを持つ事が聖女の資格であったラノベとは、まるで話が逆である。
第二に、〝「聖女」とは「修道女」ではない事〟――すなわち、仮令聖女が教会の保護下に入ったとしても入信は必要条件ではないし、戒律や節制とも無関係だという事である。
建前上は清貧な生活を送っているとされていても、「聖女」を繋ぎ止めておきたい教会の思惑もあって、中々に快適な生活を送っているのが実態なのであった。
そして第三には……「聖女」は教会が王国に対抗するためのカードであるが故に、婚姻という形で王家に取り込まれるのは好ましくない――という事である。
それを踏まえてサンドラの置かれた境遇を考えれば、先の上司とヘクトーの会話も頷けるであろう。
「そうすると……小娘を〝王子の婚約者〟から〝聖女〟へと路線変更させる筋はあり得るわけですか」
「偽の聖女をでっち上げる事はできまして?」
「お任せを。それこそ我らの得意とするところです」
「頼もしい事。ですがその前に……幾許かの問題点があるように思います。主に彼女の側に」
「問題点……」
「ですか?」
確かにサンドラ・デ・フォークスは問題点が具現化もしくは結晶化したような存在だが、聖女へのルート変更に関して、何か問題があっただろうか。……いや、聖女に相応しくないというのは今更だが、そこは悪魔たちの仕込みでどうにでもなる筈……
「えぇ。あのスナギツ……いえ……サンドラが、聖女について真っ当な知識を持っているかどうか」
「「……は?」」
「何しろ平民出の田舎者ですから……聖女とは――〝休む間も無く治癒魔法を使わせられたり、或いは結界を張るためにその魔力を吸い尽くされた挙げ句、異界から召喚された新たな聖女に取って代わられ、ボロ雑巾のように魔獣犇めく森へ捨てられる〟……そんな事を考えている可能性も無視できない……いえ、そう考えているに違いありません」
「「――はぁっ!?」」
シーラ嬢が淡々と述べた〝聖女〟の説明に、悪魔二名はドン引きであった。そんな理不尽で野蛮な振る舞いが、どこの蛮国で許されていると言うのだ?
「世界観の設定がいい加減な上に、解説も不充分だったのがいけないのです」
「……設定?」
「……解説?」
「お気になさらず。それより問題は、まず彼女が〝聖女〟に対して抱くイメージを確認する事。そして、それが実態と懸け離れている場合は、そのイメージを訂正する事――です」
「「はぁ……」」
疑わしげな悪魔二名に対して、シーラ嬢の方は確信ありげである。
「ヘクトー、貴方は彼女もしくは同席者たちの思考を誘導して、それとなく話題を聖女の事に持っていきなさい。そして彼女が誤ったイメージを抱いている事が確認できたら、同席者にそのイメージを訂正させるようし向けるのです。できまして?」
「多分……いえ、やってみせます」
「頼もしい事。今回の任務の要訣は、彼女に〝案外聖女も悪くないか〟――と思わせる事、そうなるように彼女の思考を誘導する事ですから、間違えないように」
「はっ! 諒解しました」
「その第一関門がクリアーできてから、初めて彼女の聖女就任に向けて動く事になります。具体的な動きは両親とも相談してからの事になりますが、少なくとも婚約の解消は既定の方針という事で」
「畏まりました。……何れにしてもこれは、対教会作戦局の方にも連絡を取って動きませんと……」
「そんな部署があるんですのね……」
・・・・・・・・・・
「いえ、それは違いますよ、サンディ」
姿を消して対象の教室に忍び込んだヘクトーが様子を窺っていると、上手い具合に話題が聖女の事になった。このところ〝サンドラ=聖女〟の噂が水面下で頻りに囁かれているので、当事者の方でも気になっていたらしい。
そこでサンドラが、シーラ嬢の指摘どおりの誤ったイメージを抱いている事が明らかとなる。ヘクトーはシーラ嬢の眼力に畏敬の念を抱くばかりであったが、居合わせた者たちはサンドラの誤解に仰天したようだ。
冷徹な政治家としての父・宰相への反感からか、信仰や教会に深い関心を寄せているシム・ウーゾリーが、この国における「聖女」の実像を噛んで含めるように説明する。その甲斐あってか、サンドラの持つ聖女のイメージは修正されたように見えた。
(なるほど……聖女っていうのも、そんなに悪いものじゃないのね)
これは、場合によっては進路変更もありか――と考え込んでいるサンドラに、呆れたようなシムの言葉が投げかけられる。
「それにしても……どこからそんな与太噺を拾ってきたんです?」
「え? あたしオタじゃないよ!?」
「いえ、与太噺と言ったんですが……」
――ともあれ、下準備は整ったようである。




