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70話 囮になって

「国……? プロジェクト……? 一体何を──」


 その言葉の真意を問いただそうとしたが、赤鬼が再びズシンズシンと大きな足音を立てながらこちらに向かってゆらりと歩いてくるのを見て言葉を切る。


「とにかく今はあれを何とかしないと……」


 この空間は朧ではなく現、つまり現実の世界だ。さっさと倒さないとどのような影響が出てしまうのかわからない。


「やるしかねぇか」


 灯が再び刀を構える。


「でもどうするの? アイツめちゃくちゃしぶとそうだし……」


 赤鬼の胴体に走る紅の傷、灯の一閃により付けられた傷は残ったままだ。しかしヤツはそれを痛がっている様子すらない。


「どうしよっか?」


『私に聞いてるの灯?』


 と、霧。


「そりゃ、こういう時の為のポジションだろ」


 ……なんとも丸投げ。まあでもこういう時は彼女の分析やアドバイスが一番役に立つ。


『あげはが、影霊の力を借りて使えるようになったっていうレーザーは?』


 彼女は思い出したようにそうあの必殺技について言及する霧。


「あー、あれ威力抑えきれなくて……この空間ごとぶち抜いちゃいそう」


『崩落の危険性もあるね、まあでも最悪それに頼るしかないのかな』


 そんな会話をしている間にも、赤鬼は余裕そうな雰囲気を漂わせながらズンズンと歩いてくる。その顔は若干笑っているようにも見えた。


「ちっ、とにかく!」


 そう言って灯は、首に下げていた紅色の勾玉を握る。そうして巻き上がる炎と共に彼女の姫神である少女、コンちゃんが現れた。


「相手がタフならそれ以上に強い攻撃を入れまくればいい! 火狐(コン)!!」


「合点承知!」


 灯の呼びかけに呼応する彼女、紅色の刀身に再び炎が収束する。


『同意、よしあげは。灯が力をチャージし終わるまで囮になって』


 どうやら何か大技を使う様だ、そして私は囮役と。


「オッケー、任せて」


 私はセレクターを「1」の位置に切り替えたVz61を構えて赤鬼の元に。赤鬼とは一定の距離を保ちつつ、のそのそと近寄ってくる赤鬼に向けてとにかく退魔弾をセミオートでパンパンとばら撒く。地下空間に響き渡る短い発砲音。


 ぴょんぴょんと、位置を変えながら退魔弾をその巨体に撃ち込みジリジリとダメージを蓄積させていく。


 赤鬼は鬱陶しそうにしながら、私と灯交互に目配せをする。どちらを先に襲うべきか思案しているのだろうか。


「鬼さんこちら、手の鳴る方へ……」


 ボソッとそう呟く私、空になったマガジンを引き抜き予備のマガジンに交換。


 いい加減イライラがマックスになったのだろうか。赤鬼が棍棒を振り上げながら走り出してきた。


「き、来た……!」


 Vz61のセレクターを「20」の位置に切り替える。私に向かって振り下ろされる棍棒。防ぎ切れるだろうか──


 鼓膜が破れるかと思うほどの大きな衝突音が響く。振り下ろされた棍棒は私が展開した透明な防壁により防がれた。


 ピシッと、湾曲したバリアに走るヒビ。私はすぐにVz61の銃口を赤鬼の頭に向け、弾が通れる分だけの空間をバリアに開ける。


「この距離ならッ……!」


 引き金を引き絞る。パラララララ……と響き渡る乾いた音。交換したばかりの新鮮なマガジンから放たれる弾丸のほぼ全ては赤鬼の頭部に命中した。


 赤鬼が顔を押さえて後ろによろける、幾らタフであろうとも二十発もの退魔弾をもろに頭部に食らって平気なはずがないだろう。


「灯……! もういいでしょ!!」


 十分時間稼ぎは出来たはずだ。


「任せろ!!」


 彼女の返答。私は後ろに下がり赤鬼とは距離を取る。そうして入れ替わる様に、力を溜めていたであろう灯が勢いよく赤鬼の元に跳躍する。


 繰り出される灯の一太刀、爆炎を纏った紅色の刃が赤鬼の身体を斬る。一撃だけではない、何回も何回も……連続して繰り出される斬撃。


「オオォォォ……!」


 先程の余裕のある咆哮から一転、断末魔の様な叫びを上げる赤鬼。


「────終わりだッ!!」


 そうして……最後に繰り出された斬撃。シュッと赤鬼の首元に火花が散る。


 ズドンと、地面に落ちる赤鬼の首。そうしてそのままサラサラと黒い粒子となって赤鬼は消えていった。


「終わった……」


 緊張感が途切れたからか、力が抜け地面にへたり込んでしまう私。随分と面倒な相手だったが、何とか片付ける事ができた。


 灯が刀を鞘にしまい。私の元にやってくる。


「ご苦労さん」


「灯もね……」


 私は差し出された彼女の手を取り立ち上がる。


『いや〜、お見事お見事。流石退魔巫女だねぇ、失敗作程度じゃ相手にもならなかったかぁ、アハハ。今度はもっと強いのを用意しておくよ』


 と、聞いてて不愉快になるテンションの声が響く。


「何が面白いんですか?」


 何故そんなにも楽しそうなのか。私にはわからなかった。


『いやぁ、これほど面白い事なんてないでしょ。"混沌の姫"の戦いをこの目で見れたんだから』


「ちっ……つくづくイラつく野郎だな」


 乱暴な口調の灯。彼女に同意だ、ホントに天空橋明乃という人物は人をイラつかせる天才だと思う。


『もっと楽しみたかったけど、もう時間切れかなぁ。上には紫電や真鶴のお仲間が集まってるみたいだし、じゃ。みんなまたね〜』


 そうして、彼女の声は聞こえなくなった。


「首を洗って待ってろよ悪党!!!」


 何処にいるかもわからない天空橋明乃に向かってそう怒鳴る灯。



 ……天空橋明乃か、彼女は一体何がしたいのだろうか。そうして一体何を知っているのだろうか。


 "混沌の姫"ってなんなんだろう──

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