第11話 二人で買い物へ行く(前)
「(ブル〜ン)」
「カズちゃん、ごめんね」
「いいよ、気にしないで良いから」
僕はカズちゃんに謝るが。
彼は、そう言って軽く笑ってくれた。
・・・
時計の針が、真上から下へと落ちて行こうとする時間。
二人は今、一緒にバスに乗っていた。
そろそろ、身の周りに必要になった物が出始めたので、お店に買い物に行っている所である。
この近辺には、少し離れた幹線道路にショッピングモールがあるので。
そこまで、買いに行こうとしている。
集落の近くには、お店などは無くて不便であるが。
車など交通手段があると、そこまで行けば、余程の物で無い限り大抵の物があるので、却って便利である。
叔母さんなどは、仕事帰りに車で行って、そこで買い物をするそうだ。
カズちゃんも、普段は自転車でそこまで行くのだが。
僕にはまだ足が無いので、モール行きのバスで行こうとしている。
しかし、そんな僕にカズちゃんが、案内と荷物持ちとして一緒に来てくれた。
僕が「悪いから・・・」と言うと。
カズちゃんが、「別に暇だからね」と笑いながら、そう言ってくれた。
「それに、可愛い女の子と一緒に行く訳だし」
「えっ?」
半ば冗談の様にして、彼が言った言葉だけど。
僕は顔が熱くなりながらも、心の中では嬉しくなった。
僕はあの日から、カズちゃんからそう言う風に言われても。
何の抵抗感も起こらず、自然に受け入れられる様になっていた。
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「へえ〜、結構大きいね、カズちゃん」
「そうだね」
「規模も、都会のと変わらない位の規模だね」
「そうなの?」
「うん♪」
そうやって、見えて来たショッピングモールを見ながら、お互いそう言い合っていたら。
モールの入り口近くにバスが止まり、二人はそこで降りた。
僕は、ボーダー柄のシャツと白のミニスカを翻して、周囲を見てみる。
この付近では唯一の施設なので、バスには数人もの人が乗っていて。
僕達が降りると同時に、その人達も続々と降りていた。
そして二人とも、その人達が作る流れに乗って、中へと入って行った。
「中は、結構涼しいねえ」
「そうなのミズキちゃん? なんか余り涼しくないよ〜」
「まあ、男の子には、まだ暑いかもしれないね」
中に入り、僕がそんな事を言うと、カズちゃんはそう愚痴った。
まあ、体温が高い、カズちゃんにはまだ暑いだろうね。
うん、僕も元男だから、そう言う事を大体分かるよ。
・・・
「ねえ、カズちゃん。ちょっと入って良い?」
「うん、良いよ」
二人でモールの中を歩いていたら。
ある、洋服屋さんの前で、カズちゃんにそう言った。
ショーウィンドウの前で、飾り付けられた服に目が止まったのである。
カズちゃんの許可も出たので、僕は彼と一緒に店に入っていった。
・・・
「ねえ、カズちゃん。これはどうかな?」
「うん、それも似合っているよ」
「そお〜♪」
「ねえ、ミズキちゃん。もうそろそろ行かない?」
僕は、ハンガーに掛けてあるワンピースを手に取り、体に当ててながらカズちゃんに聞いてみる。
そうすると、そう言って褒めてくれるけど、次に外に出ようと誘ってくる。
彼の態度から、店内にある時計を見てみると、入ってから既に一時間近く経っていた。
流石にカズちゃんは飽きたようだが、僕はもう少しだけ選んでいたかった。
「・・・ねえカズちゃん。もう少しだけ居ても良い?」
「うっ!」
「ねえ〜っ」
「はあ〜、仕方がないなあ。もう少しだけだよ」
「ふふふっ、カズちゃんありがとう♡」
そこで僕は、上目遣いで彼を見ながら手を合わせ、甘えるようにおねだりしてみる。
そんな僕を見て。
カズちゃんは溜め息を吐きつつ、再び許可してくれた。
少し卑怯だけど。
女の武器を使ってみると、思った通りカズちゃんは許してくれたのだ。
許可が出て所で、僕は服を選ぶのを再開し。
カズちゃんは、カックリした様子で僕を見ていた。
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「ふふ、ふんふん」
「はあ〜」
それからしばらくして、二人はお店を出たのだが。
お気に入りの服を見つけた僕は、上機嫌で鼻歌を歌い。
カズちゃんは、疲れた様子で歩いている。
「ごめんね、カズちゃんを置いてけぼりにして・・・」
「良いよ、良いよ」
そんな疲れた彼を見て、"ワガママな事をしたなあ"と、反省すると同時に、彼に謝った。
でも、そんな僕をカズちゃんは笑って許してくれた。
「(ギュッ)」
「あっ!」
そう言ってくれた、優しいカズちゃんに嬉しくなり。
衝動的に、右手で彼の左手を握ってしまう。
カズちゃんの左手を握ったのは、右手には僕の服が入った紙袋を持っているからだ。
そして、僕の突然の行為に、カズちゃんが小さく驚く。
「ミズキちゃん・・・」
「カズちゃん、ありがとう
ねえ、一緒に手を繋がない?」
「うん・・・」
僕は、優しいカズちゃんにお礼の意味も込めて、彼の右手を握った。
小さい頃はこうして、時々、手を繋いでいた。
彼の手は大きくて、僕の手が包み込まれる位だ。
昔は、僕の方が少し大きかったんだけども。
握っているカズちゃんの手は、大きいの上、ちょっと暖かい。
その暖かさは、冷房の利いた店内に居て、少し冷めた手には丁度いいくらいである。
「(チラッ、チラッ)」
そんな事を思っていると、周囲から二人を見る視線を感じる。
「(しまった!)」
そこでようやく僕は、自分がやっている事を理解して。
熱くなった顔を俯かせた。
勢いで、昔の様に手を出したけど。
自分が、今、どう言う姿なのかをスッカリ忘れていた・・・。
しかし、そんな恥ずかしい思いをしているのだが。
この握った手を離そうとは、全く思わなかった。
こうして僕達は、恥ずかしい思いをしながら、モールの中を歩いたのであった。




