98 追撃のお茶会
その後、メルボーン子爵家のご子息はアイザックが紹介してくれた医師の診察を受けた。
特殊な風邪を拗らせていたらしいが、新たな医師に処方された薬の効果により緩やかに快方へ向かっていると聞いて、私はホッと胸を撫で下ろした。
『口は悪いけど子供には優しい、良い先生だった』と、メルボーン夫人には感謝された。
私は敢えて『プリシラから距離を取って欲しい』とお願いしたりはしなかったのだが、あれからメルボーン子爵夫人とプリシラが一緒にいる所は見掛けなくなった。
プリシラの悪評が流れていても、最近の彼女は我関せずと言った感じで無言を貫いており、今迄の様に取り成す事は無い。
それは私の意を汲み取っての行動かもしれないし、或いは彼女自身もプリシラの言動に何かしら思う所があったからかもしれない。
追い風が吹いている内に更なる策を実行したいと考えて、私はお茶会を開く事にした。
一応、婚約者として迷惑になってはいけないので、事前にアイザックの許可も取っている。
危険な作戦とかではないからか、休日に会えない事を淋しがられただけで、特に反対はされなかった。
『フレデリカとベアトリスにも協力してもらうと良い』
彼にそう勧められたので二人にも相談すると、嬉々としてお茶会への参加と協力を約束してくれた。
初めての私主催のお茶会という事で、リーザが中心となり、使用人全員が張り切って準備を進めてくれた。
ユーニスは招待客に関する情報の収集に忙しいので、代わりにエイダも臨時で公爵家から手伝いに来てくれている。
『オフィーリア様のお手伝いに行って来るね』と、パメラに言ったら、『パメラもフィーちゃんにあいたい』ってちょっと泣かれたらしい。
次の週末には会いに行って、グリングリンに撫で繰り回そうと思う。
皆んなの協力のお陰で、エヴァレット伯爵邸のささやかな庭が見違えるほどに素敵なお茶会会場へと変貌を遂げた。
そしてユーニスが集めてくれた情報は、招待客を選ぶ段階から非常に役に立った。
乗馬が趣味のご令嬢や、顧客のご息女を中心に、私に好意的なご令嬢が六割。後の四割はプリシラの取り巻きを招待した。
その中でもプリシラを盲目的に信奉している者と、何らかの政略的なメリットを期待してプリシラに侍っている者を半分ずつ選定する。
彼女達は決して一枚岩ではない。
一緒に行動していても、行動原理が全く違うのだから。
招待状を送ったほぼ全てのご令嬢から、早い段階で参加の返事が届いた。
おそらくプリシラ側の人達は、彼女と敵対する私を貶めたり、内情を探ったりするチャンスだとでも思っているのだろう。
招待客全員の食に関する好みやアレルギーは勿論、趣味や特技、実家の領地の特産品などについても、ユーニスの調査によって把握済み。
最初は『侍女に諜報能力って必要なの?』と、疑問に思ったけど……。
いや、めっちゃ便利だわ。
当日は天候にも恵まれて、絶好のお茶会日和となった。
(私って、結構強運じゃない?)
そんな風に楽観的な考えが一瞬だけ頭をよぎったけど、直ぐに矛盾に気が付いた。
そもそも強運の持ち主は、悪役令嬢に転生したりしないよね。
「ご招待頂きありがとうございます」
「ようこそお越しくださいました。ブライス伯爵令嬢。
本日のドレスもとてもお似合いで素敵ですね。もしかして、ブライス領で作られたシルクでしょうか?」
私が指摘すると、ブライス伯爵令嬢は誇らしそうに微笑んだ。
「ええ、良くお分かりになりましたわね」
「高品質で有名ですもの。
私も何着か持っていますが、上品な光沢で美しいドレープが出るので、とてもお気に入りなのです」
……とまあ、こんな感じで続々と到着する招待客を笑顔で迎え入れ、一人一人と丁寧に挨拶を交わす。
掴みは上々。やっぱり社交は事前の準備が大事だね。
プリシラに近しい令嬢達も、フレデリカやベアトリスの目が気になるのか、今の所大人しくしている。
招待客全員が揃い、お茶会は比較的和やかなムードでスタートした。
天候の話や話題のカフェについてなど、暫くは当たり障りのない会話が続く。
「───そう言えば、オフィーリア様とヘーゼルダイン様もご婚約が成立なさったのですよね?
おめでとうございます!」
場が温まって来た所で、誰かが婚約者についての話題に触れた。すると、待ってましたとばかりに話の流れは私の婚約の件へと移る。
社交界では今一番ホットな話題である。この話を聞きたくてお茶会に参加した令嬢も、きっと多いのだろう。
「ありがとうございます」
控えめな笑みを浮かべ、少し照れたように両手で頬を隠した。
「普段お二人の時はどの様に過ごしていらっしゃるの?」
「それを聞くなら、甘過ぎて胸焼けするのを覚悟した方が良いですわ。
お兄様なんて、最近は口を開けばオフィーリアの話ばかりですのよ」
私が答える前にフレデリカがそう忠告すると、キャッと黄色い歓声があがった。
「ヘーゼルダイン様が溺愛していらっしゃるという噂は本当なのですね」
「お二人はとってもお似合いだと、前々から思ってましたの」
私に好意的な令嬢達は夢見る乙女の様に瞳をキラキラと輝かせながら、話に花を咲かせる。
やっぱりこの世界でも、恋バナが好きな女性は多いらしい。
「そう言って頂けると嬉しいですわ。でも───」
私はここで表情を曇らせ、少しだけ口籠もってから言葉を続ける。
「どうやら、私達の婚約の経緯を悪い方へ誤解なさっている方々もいらっしゃるみたいで……」




