81 新たな侍女
公爵夫人とエイダに許可を得てから、私はパメラを抱っこしてソファーに座り直した。
愛らしい巻き毛の天使は今、わたしの膝の上で上機嫌にビスケットを食べている。
両手で持ったビスケットを小さな口でサクサクと齧っている様は、リスみたいでとても愛らしい。
「このビシュケットおいちいよ? フィーちゃんもたべゆ?」
『食べゆ?』が可愛過ぎないか?
可愛さを武器にする新手の暗殺者は、どうやらフレデリカだけではなかったらしい。
油断大敵である。
「まあ、ありがとう。パメラは優しいのね」
ニコニコと差し出されたお菓子を、内心悶絶しながらも笑顔で受け取ると、褒められたパメラはヘヘっと照れ臭そうに笑った。
二人の侍女は、私の目の前に座っている公爵夫人の背後に楚々とした立ち姿で控えながら、私とパメラの交流に微笑まし気な眼差しを向けている。
「では、今日は私にパメラを会わせてくださる為に、ご招待頂いたのでしょうか?」
パメラの頭を撫でながら私が問うと、公爵夫人は軽く首を左右に振った。
「それもあるけど、エイダとユーニスを改めて紹介したくて。
貴女の新しい専属侍女候補に推薦しようと思ってね」
「新しい侍女?」
思ってもみなかった提案に驚いていると、夫人がクスッと笑った。
「勿論、リーザさんを解任しろって意味ではないのよ?
オフィーリアは、嫁いでくる時にリーザさんを連れて来るのでしょう?」
「え? ええ、そうですね。
リーザが望んでくれればですが……」
まだ婚約が内定したばかりで、具体的な事を何も考えていなかった私は、少し戸惑いながらも頷いた。
「でも、筆頭公爵家の当主夫人としては、専属侍女が一人だけでは心許ないのよ。
少なくとも三人は必要だわ」
ウチは弱小伯爵家だから、使用人の数もヘーゼルダイン家と比べればかなり少ない。
だから私の専属侍女はリーザだけだ。
一人しか付けられないし、一人で充分だったから。
リーザが休暇を取る日は、手の空いたメイドか、お母様の侍女に身支度を手伝ってもらっている。
だが、筆頭公爵家の夫人ともなれば、そうもいかないのだろう。
機密情報を扱うこともあるだろうし、身の危険を感じることも多い立場なのだから、きっとセキュリティ面は重要だ。
常に側に置く者は、しっかりと教育された優秀な使用人達の中でも、特に信用出来る者でなければならないのかもしれない。
「お話は理解しましたが……、エイダとユーニスは、それで良いの?」
私がアイザックの妻となった後ならば、専属侍女の座を狙う者も多いだろう。
しかし、私達の婚約はまだ内定段階だ。
婚約の書類は既に王宮に提出済みだと聞くが、高位に位置する家ほど婚約や婚姻、爵位の相続などの届け出は、受理されるまでの審査に時間がかかるらしい。
しかも、実際に嫁いでくるのは早くても学園を卒業した後になる。
折角公爵家の侍女になったのに、今はまだ末端の伯爵家の小娘に過ぎない私に忠誠を誓わねばならないって、彼女達にとってメリットとデメリットどちらが大きいのだろう?
そう思って公爵夫人の後ろの二人に問い掛けると、二人は首が取れそうな位に勢い良く頷いた。
おおっ、圧が凄い。
「私達は、自ら『オフィーリア様にお仕えしたい』と、アイザック様にお願いしたのです!」
「そういう訳だから、受け入れてやってくれないかしら?」
「ええ、そういう事であれば、私に異論はありません」
「そうと決まれば、早速今日からユーニスを貴女に付かせようと思うのだけど。
エイダはまだ子供が小さいから、ウチに残って当主夫人の生活の流れや仕事について覚えてもらって、ユーニスには貴女の近くで貴女の趣味趣向や行動パターンなどを学んでもらいたいの。
既にエヴァレット伯爵には、話を通してあるわ」
oh……。
父よ、なぜ私にそれを報告しない?
いつの間にやら、外堀がすっかり埋まってしまっている。
そんなに囲い込まなくても、もう逃げたりしないよ?
「分かりました。よろしくお願いします」
「ユーニスにはアイザックが嬉々として色んな技術を教え込んでいたから、かなり優秀よ?
侍女の仕事は勿論、諜報活動も得意だし、体術も習得済みだし、暗器も扱えるから護衛も出来るわ。
好きなように使ってあげてね」
は? 諜報? 暗器?
アイザック、侍女に何仕込んでくれてるんすかっ!?
驚いて思わずユーニスを凝視する。
小柄でちょっと童顔な彼女は、とてもそんな荒事などとは無縁な存在に見えるが……。
「改めまして、ユーニスと申します。
得意な仕事は情報収集です。
オフィーリア様にお仕えする事が出来て、大変光栄です。
本日からよろしくお願い致しますっ!!」
満面の笑みで自己紹介をしたユーニスに苦笑を返す。
(お茶を淹れたり、髪を結ったり、ドレスを選んだりするよりも、情報収集が得意な侍女って一体……?)
因みに、エイダの方はデスクワーク系のスキルを磨かれているらしく、計略を図る事が得意らしい。
(私に仕える事になったのって、侍女だったよね?)




