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死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く  作者: miniko


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8 体調不良の原因は

 現実逃避も兼ねて、脳内でお父様に悪態をついていると、目の前のイケメンが「ねぇ」と私に呼び掛けた。


「はい、何でしょう?」


「オフィーリア嬢は、もしかして、僕の事が嫌いなのかな?」


 突然そう言われて、ヒクリと口の端が引き攣る。


「滅相もございませんわ。何故その様な事を?」


「自分で言うのも変だけど、一般的には、筆頭公爵家の嫡男との縁談って良縁だろう?

 大抵の人には喜んで貰えると思うんだけど、君は本当に全く興味が無さそうだし……、寧ろ、少し困っている様に見えるから」


 顔には出していないつもりだったのに、なかなか鋭いな。


「興味が無いだなんて……。勿論、とても光栄だと思っていますわ。

 ただ、私の様な立場の者にとっては、あまりにも身に余るお話でして、とても恐縮しておりますの」


 扇子で口元を隠しながらホホホと笑う。


 彼は、自分のせいで私が怪我をした訳でも無いのに、責任を取ろうとしてくれている優しい人だ。

 十八歳の記憶を持つ私から見たら、今のアイザックは幼さの残る可愛らしい男の子だけれど、同年代のご令嬢達がキャアキャア言うのは分かる気がする。


 だけど……、残念ながら今の私はアイザックを弟の様にしか思えないし、そうじゃなかったとしても、自分の命を賭けてまで恋をするほどの情熱は持てない。


「そう?

 嫌われてないなら良かったけど……。

 でも、婚約は望んでいないって事かな?」


 透明な水色の瞳に見詰められると、心の奥まで見透かされてしまいそうで、なんとも居心地が悪い。


「本当に残念ですが、私では相応しくありませんから」


「残念に思っている様には見えないんだよなぁ……」


 瞳を伏せた私に、アイザックが苦笑しながら呟いた時、背後から「ウッ……」と微かな呻き声が聞こえた。


 反射的に振り返ると、先程お茶を淹れてくれた公爵家の侍女が、片手で口元を覆いティーワゴンにもう片方の手をついた状態で辛うじて立っていた。

 彼女は微かに震える声で「失礼いたしました」と謝罪の言葉を吐き出す。


 一瞬だけ毒を警戒したが、来客対応中の侍女が飲食をする事は考えられない。

 それにスプレー噴霧式や毒針なども、厳重に警備された公爵邸で使用できるとは思えない。

 だとすれば、単なる体調不良か?

 伝染病だと厄介だけど、咳とか発疹とかも出てないし、どうだろう?

 いくつかの可能性を頭に浮かべながら、席を立つ。


「ちょっと、貴女!」


 声を掛けながら近寄った私に叱責されると思ったのか、彼女は大きく肩を震わせた。

 緩慢な動作で上げられた顔は、可哀想なくらいに青褪めている。


「申し訳……」


「謝らなくて良いのよ。

 怒っている訳では無いのだから。

 そんな事よりも、貴女、顔が真っ青になっているわ。

 もしかして、体調が悪いの?」


「申し……、あ、いえ、今朝は普通だったのですが、急に気持ちが悪く……」


 彼女は再び謝罪を口にしようとしたが、『謝らなくて良い』と言われたのを思い出したらしく、少し口籠もりながらも聞かれた事にだけ答えた。


「まあ、それはいけないわ。

 これまでも、急に体調を崩す事があったの?」


「いえ、大丈夫…、です。

 ユーニス、新しいお茶を……」


 ユーニスというのは、もう一人の侍女の名前らしい。

 どうやら冷めてしまったお茶を淹れ直そうとしているみたい。


「今はそんな事はどうでも良いわ。

 ねぇ、もしかして、浮腫みが酷かったり、強い眠気に襲われたり、いつもより体が怠かったりしない?」


 私の質問に、侍女は瞠目した。


「……何故それを?」


(やっぱり、これは多分……)


 前世でバイト先の女性社員が、同じ様な症状になったことがあった。


 でも、もしかしたら私の勘違いかもしれないし、センシティブな話でもある。

 他の人に聞かれない様に、彼女の耳元に口を寄せてコッソリと囁いた。


「直ぐにお医者様に診ていただいた方が良いわ。

 もしかしたら貴女、妊娠しているかもしれないから」


「……えっ!?」


 心当たりがあったのか、彼女は青かった顔を真っ赤にさせて視線を泳がせた。


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