↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く  作者: miniko


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/106

24 初恋は儘ならぬ《アイザック》

「お兄様は、オフィーリアに振られちゃったのね……」


 エヴァレット伯爵邸からの帰り道。

 馬車の中で俯いていたフレデリカが、唐突にポツリと呟いた。

 そんな妹の言葉に、アイザックは溜息を零す。


「兄の心の傷を抉るんじゃないよ。

 それに、まだ諦めていないから」


「じゃあ、死ぬ気で頑張って!」


「命懸けなきゃダメなのか?」


「そりゃあそうよ。だってまだ全然相手にされていないじゃない」


 フレデリカの鋭利な言葉のナイフは、アイザックの胸に容赦なく突き刺さる。

 こういう所は、母親にそっくりだ。

 痛む胸を押さえた彼は、小さな溜息を漏らす。


「はぁ……。

 それにしても、フレデリカは随分とオフィーリアに心酔してしまったみたいだな」


「あのね、さっき私オフィーリアに、お兄様をどう思うか聞いたの。

 そうしたらあの人───」


 アイザックはコクリと喉を鳴らし、緊張気味に次の言葉を待った。


「優しくて、聡明で努力家だって。

 お兄様、いつもご令嬢達を冷たくあしらっているのに、オフィーリアには優しいのね」


「当たり前だろ」


 思ったよりも好評価を貰えたアイザックは、無意識の内に頬を緩める。


「私達を評価する時に、家柄や容姿の事を言わない人って初めてかも。

 だから、なんだか嬉しかったの」


 そう言って、フレデリカは小さく笑った。


「……そうか」


 その気持ちは、同じ境遇に生まれたアイザックにもよく分かる。

 命を懸けるかどうかはともかく、妹の為にも、オフィーリアを振り向かせたいと思うアイザックだったが───。


 続くフレデリカの無邪気な言葉に、彼は俄かに落ち込んだ。


「でも、お兄様は大切な友人だとも言ってた」


「……………………そうか」





『オフィーリアと同性だったら困るクセに』


 オフィーリアとの初デートをベアトリスに邪魔されたあの日。

 揶揄う様に、アイザックの耳元でベアトリスが囁いた言葉だ。


 そう、自分と彼女が同性だったら困る。


 何故なら、オフィーリアはアイザックにとって、初恋の相手なのだから。


 友達でも良いからそばに居たいと思ったけれど、本音を言えば友達で終わりたい訳では無いのだ。


 だが、やっぱり、オフィーリアは一筋縄ではいかない。

 決して嫌われてはいないと思うし、彼女は情に脆いので一見チョロそうに見えるのだが、意外と頑固な面もあるのだ。


 彼女は一体、どんな男なら好きになるのだろう?

 いつかその相手が現れた時、自分は冷静でいられるのだろうか?






 しかし、その後も、恋を知ったばかりの彼は上手くオフィーリアの気を引く事が出来なかった。


 友達の域を超えられないままで、いつの間にやら多くの月日が流れ、なんと一年以上もの時間が過ぎ去ってしまった。




「今から出掛けるので、馬車の用意を」


 父から出されたその日の課題を超特急で終わらせたアイザックは、上着を羽織りながら侍従に指示を出した。


「どちらへ行かれるのです?」


「オフィーリアへのプレゼントを探しに街へ出る。

 最近は贈り物がマンネリ気味だったから、何か、こう……、彼女の役に立つ物とか、インパクトのある物を贈りたいんだよ」


 アイザックのプレゼント攻撃は、友人になった当初から、今でも断続的に行われていた。

 初期の頃は次々と贈りたいものが頭に浮かんだが、一年以上も続けていれば、流石にネタ切れになってくる。

 あまり高価な物だとオフィーリアが受け取ってくれない気がして、アイザックは何を贈るか常に頭を悩ませていた。


「それに、メッセージカードもそろそろ無くなるから、可愛らしいデザインの物が欲しい」


 アイザックは、プレゼントを贈る際、小さなカードに長いメッセージを書いて添えている。

 侍従は『何故手紙にしないのか?』と一度聞いてみたのだが、『手紙だと想いが溢れて更に長文になってしまう』と言われた。

 確かにアイザックがオフィーリアに手紙を送る時は、いつもかなりの超大作だ。

 あれが届く頻度が多くなるのかと思うと、毎回それを読まなければいけないオフィーリアに、侍従はちょっとだけ同情する。


「アピールの仕方が、どっかズレてるんだよなぁ」


「何か言ったか?」


 思わずボソッと呟いた侍従を、アイザックは軽く睨む。


「……いえ、何も」


 健気でヘタレで恋愛に関してだけ超ポンコツな主に、侍従は呆れた様な、憐れむ様な眼差しを向けた。


「まどろっこしい事してないで、もうサッサと告白しちまえば良いのでは?」


 彼の言葉遣いが、ちょっとばかり乱れてしまったのは大目に見てあげて欲しい。

 全く変化の無い二人の関係を、ず~~~っとジレジレしながら見守っているのだから。

 もう良い加減、面倒臭くなっているのだろう。


 一方、アイザックの頭の片隅には、常に、父から言われた『無理強いはするな』という言葉が残っていた。

 筆頭公爵家の嫡男である自分が望みさえすれば、大概の物は簡単に手に入ってしまう。

 だが、それは決してメリットばかりを産む物では無いのだと、最近になって気が付いた。

 自分ではそんなつもりが無かったとしても、アイザックの様に高い地位に立つ者が愛を伝えれば、命令と同じ意味を持ってしまう危険性を秘めているのだ。


 だからこそ、言葉ではなく態度で想いを伝えようと頑張っている。

 そして、彼女が同じ想いを抱いてくれた暁には───。


 残念ながら、その兆候は未だに全く見えていないけれど。



「……今はまだ、その時期じゃない」


「ずっとそう言ってますけど、一体いつなら良いんすか?」


「……」


 侍従のボヤきは完全に無視して、アイザックはいそいそと外出の支度を整えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。