21 邪魔な王子
私達の目の前で立ち止まったクリスティアンは、アイザックとベアトリスを交互に睨み付ける。
「私の側近候補と私の婚約者が、何故二人で出掛けているのだ?」
往来で声を荒げる横柄な態度は、ベアトリスから聞いていた彼の性格そのものだった。
アイザックも公爵夫人もベアトリスも、みんな良い人ばっかりだったから、『もしかしたら優しくて平和な世界なのかも』なんて、ちょっと油断していたのだが……。
クリスティアンだけは典型的なダメ王子の臭いがする。
まあ、仲間はずれにされた気がして苛立ったのかもしれないけど。それにしても、幼馴染の二人が一緒にいるからって、いきなり怒鳴りつけるなんて……。
嫉妬なの? 本当はベアトリスが好きとか?
ってゆーか、二人の真ん中に挟まれた私の存在は見えてないのかしら?
透明人間にでもなった気分。
視界の真ん中が認識出来ないなんて、何らかの目の病気としか思えない。
眼科を受診した方が良いのでは?
「「二人ではありません。
どちらかと言えば、僕(私)は、オフィーリアと出掛けているのです!!」」
結構な長台詞なのに、アイザックとベアトリスの声が綺麗に揃った。
君達、息ピッタリだね。
仲良しさんだなぁと、ほっこりする。
「そう言えば、見た事の無いヤツがいるな。侍女か何かか?」
ほっこりの邪魔すんなや。
つーか、侍女が侯爵令嬢と公爵令息に挟まれて、手を繋がれてるって、一体どんな状況よ!?
明らかにおかしいでしょうが。
「彼女は僕達の友人ですよ」
不機嫌そうなアイザックからそう紹介された。
カーテシーをしなければと、二人に握られた手を離そうとしたのだが……。
なんだろう? 全然離してもらえないんだけど。
仕方なく、両手を繋がれたままで膝を落とす。
「初めまして、王子殿下。
オフィーリア・エヴァレットと申します」
なんとか挨拶だけはしてみたけど……。
ねぇ、カーテンコールみたいになってない? 大丈夫?
「エヴァレット……? 確か、男爵家だったか?」
自国の貴族の家名を聞いても、ピンと来ていない様子のクリスティアン。
うん。やっぱりダメ王子だわ。
そんな彼に、ベアトリスがうんざり顔で訂正を入れる。
「伯爵家ですよ」
「伯爵令嬢? この貧相なのが?」
そーゆーのは、思ったとしても心の中にとどめておけよ。
クリスティアンの失礼な発言を受け、アイザックとベアトリスが同時に低い声を上げた。
「「は!?」」
いやぁ、やっぱり息ピッタリ……とか思ってる場合じゃなかったわ。
私は繋がれたままの二人の手を引き、小さく被りを振って見せる。
アイザックは不服そうに顔を顰め、ベアトリスは諦めた様に溜息をついた。
「ところで、クリスティアン殿下。
確か、今は歴史のお勉強の時間ではなかったでしょうか?」
態とらしいくらいにニッコリと微笑んだベアトリスに指摘されると、クリスティアンはサッと顔色を変える。
「こ、これから行く所だ!!」
言い訳じみた言葉を残し、クリスティアンは慌ただしく去って行った。
好きでもない婚約者のスケジュールを把握しているベアトリスが有能過ぎる。
王家の皆さん、ダメ王子をベアトリスに任せ過ぎじゃない?
ゲームの中のクリスティアンはとても素敵な王子様として描かれていたのに……。
予想以上の残念さだったな。
ベアトリスと初めて会った時にも思ったけど、それってやっぱり、ゲームの中ではヒロイン視点のみで話が進むからなのかな?
クリスティアン以外のルートでは、ヒロインとクリスティアンは友人になる。
という事は、クリスティアンルートではヒロインは彼に恋愛感情を持ち、その他の場合でも友愛は持っていたという事だ。
恋は盲目という言葉がある様に、人は好意を持つ相手に対しての評価が甘くなる。
ヒロインの目を通せば、王子は素敵に見えていたけど……。
いや。だとしたら、ヒロイン盲目過ぎだろ。
とにかく、誰の立場から見るかによって、世界は全く違う物に見えるのかもしれない。
その後、気分直しにと訪れたカフェでは、急遽、クリスティアンの悪口大会が開催された。
人の悪口を言うのは褒められた行いじゃないけど、この状況なので大目に見て欲しい。
個室だったから、不敬罪になる心配は無いだろう。……多分。
お店お勧めの焼き立てワッフルとハーブティーを楽しみながらお喋りをしていたら、いつの間にか日が落ちてきた。
夕暮れに染まる街並みを馬車の窓から眺めながら、私達は帰路に着いた。
それから数日後、アイザックから私宛に、大きな包みが届いた。
ピンク色の包み紙の中から出て来たのは……、
「ミッ○ィーちゃん!?」
そう、バツ印のお口でお馴染みの白ウサギ、○ッフィーちゃんにそっくりな、大きなぬいぐるみだ。
街歩きの最中に、つい私が注目してしまったウインドウに飾ってあった物。
欲しくて見ていた訳ではないのだが、私が欲しがってると思って態々贈ってくれたのだとしたら、その気持ちは嬉しく思う。
しかも、添えられていたメッセージカードによれば、魔道具の湯たんぽが内蔵された特注品らしい。
『これがあれば、弟君に添い寝をして貰わなくても、きっと良く眠れるだろう』とも書かれていた。
言われてみれば、以前チラッとそんな話をしたかもしれない。
その日からミッ○ィーちゃんを抱いて寝るのが習慣になった。
フワフワの感触で人肌に温まるそれは、アイザックの狙い通り、私に快適な睡眠を齎してくれた。




