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死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く  作者: miniko


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110 妄想による断罪

 クリスティアンに名を呼ばれたベアトリスは、先程までの柔らかな表情を一変させ、冷たい微笑みの仮面を装備する。

 友人と弟とのほのぼのタイムを台無しにされた彼女は、かなりご立腹の様子。


 怒りで顔を真っ赤に染めたクリスティアンは、私達のテーブルの前でピタリと足を止めた。

 その背後から、怯えるプリシラがおずおずと顔を出す。

 私達の視線から守る様に、そんなプリシラの肩をクリスティアンが抱き寄せた。


 人波に阻まれて少し遅れたニコラスが、焦った様子で二人の後を追って来る。


 明らかな恋情を滲ませつつも、ずっと適切な距離を保っていたプリシラとクリスティアン。

 だが、今日はいつになく距離が近い。


 寄り添う二人を目にして、ベアトリスの瞳が冷ややかな光を放ち、唇が綺麗に弧を描いた。



「あらあら、第二王子殿下ともあろうお方がそんなに大声を出すなんて……、一体何事ですの?」


 扇を広げて口元を隠し、徐に立ち上がったベアトリスは鋭い眼差しをクリスティアンに向けた。

 元々女性にしては少し背が高いベアトリスだが、こういう時の彼女は更に大きく見える。


 ベアトリスの迫力に押されたのか、クリスティアンは微かに視線を泳がせた。


 この程度でビビるなら最初から絡んで来んなや。


「……ベ、ベアトリス!

 いくら私の寵愛が受けられないからといって、醜い嫉妬をするのは良い加減にしろ!」


「はあ?」


 あまりにも意味の分からないクリスティアンの主張に、ベアトリスはポカンとした顔で淑女らしくない声を漏らした。

 だが、直ぐに我に返った彼女は、慌てて表情を引き締める。


「コホンッ……。何のお話でしょう?」


「とぼけるな。流石に今日の暴挙は許されないぞ!」


「殿下、ですからきちんと調査をした上で……」


 ニコラスがクリスティアンの腕を掴んで執り成そうとするが、「煩い!」と振り払われてしまう。

 クリスティアンに比べれば、ニコラスには幾分冷静さが残っているらしいけど、残念ながら彼は暴走中の主を止める事が出来なかった。



「プリシラに卵を投げ付けたのは、お前だろう!!」


『犯人はお前だっ!』という探偵映画のワンシーンみたいに、ベアトリスに向けてビシッと人差し指を突き付けるクリスティアン。

 人を指差すなよ。失礼な奴だな。


「はあっ??」


 とんでもない濡れ衣を着せられ、ベアトリスはまたもや淑女らしくない声を上げた。


 プリシラの肩にはクリスティアンの物らしき男子生徒の制服の上着が掛けられており、青い顔をした彼女はそれを胸の辺りでギュッと手繰り寄せて小さく震えていた。

 良く見れば、上着の下から覗くスカートにまでネットリとした黄色の液体が流れ落ちているのが分かる。


(ああ、この事件知ってるわ。

 でも、これはクリスティアンルートのイベントじゃなかったはずなのに……)


「ベアトリスはずっとこのテーブルで僕達と一緒にいた。

 その女には近付いてもいない」


 アイザックがゆったりと紅茶に口を付けながら、クリスティアンに反論する。


「ベアトリスの味方であるお前達の証言など、信用ならん」


 運悪く、騒ぎが起きたのは、私達のテーブルへ挨拶に来る人達が居なくなったタイミングだった。

 それでもベアトリスが席に着いていたのを目撃した人は大勢いると思うのだけど、皆んな巻き込まれたくないせいか、遠巻きに事の成り行きを見守るばかりで名乗り出てはくれない。

 そりゃあこんな厄介な王子に目をつけられたくはないよね。


「あの……」


「オフィーリア!?」


 声を上げようとする私の手首を、アイザックが慌てて掴む。


「大丈夫ですよ。心配なら近くで見ていてください」


 そう言って宥めると、彼は渋々ながらも手を離してくれた。



「王子殿下、直答をお許し頂けますか?」


 私は立ち上がり、スッと手を上げて発言の許可を求める。

 一応、相手は王子だ。

 いくら向こうが礼儀知らずだからといって、こちらも礼を欠く訳にはいかない。

 揚げ足をとられたくはないからね。


 アイザックも立ち上がり、私の隣に寄り添ってくれた。


「良いだろう」


 偉そうな顔で頷いたクリスティアンに少しイラっとしながら一歩近付くと、覚えのある香りがした。


(あれ? コレって……)


「どうした? オフィーリア」


 眉根を寄せた私を心配してくれたのか、アイザックが声を掛けてくる。


「あ、いえ。何でもありません」


 アイザックの問いに短く答え、クリスティアンに向き直った。


「発言をお許し頂きありがとうございます。

 ……では、お伺いしたいのですが、王子殿下は何故ベアトリス様が犯人だと思われたのですか?」


「プリシラが赤い髪で長身の女性が逃げ去るのを目撃している」


「それは本当に女性だったのですか?

 この学園には長髪の男性も大勢いらっしゃいます。

 例えば少し背の低い男性だった可能性は?」


「私が嘘をついていると言うのですか?

 酷いっっ!!」


 口を開けば『酷い酷い』って、なんとかの一つ覚えかよ。


「嘘だとは申しておりません。

 見間違えの可能性を伺っているのです」


「プリシラが目撃した人物は女生徒の制服を着ていたそうだ」


 酷いしか言わないプリシラに代わって、クリスティアンが私の疑問に答えた。


 やはり犯人はゲームと同じ人物で間違いない様だ。

 しかし、思い込みの激しいコイツらをどう納得させるべきかが問題である。


「高身長で赤い髪をお持ちの女性だとしても、ベアトリス様以外にもいらっしゃいますよね」


「だが、条件に合っていて、尚且つプリシラを虐げる動機を持つ者はいないだろう」


 その動機とやらは、お前の妄想でしかないけどな。


「ですが、ベアトリス様には不可能ですよ」


「お前達の証言は認めないと言ったはずだが」


「いえ、ベアトリス様がずっとこちらにいらしたのは事実ですが、それを別にしても物理的に無理なのです。

 証明して見せましょうか?」


 私がそう提案すると、クリスティアンが馬鹿にした様にフンッと鼻を鳴らした。


「やれるもんならやってみろ」


 クリスティアンの言葉に私はニッコリと微笑みながら頷いた。

 衆目を集めるこんな場所で私の友人を貶めた事、存分に後悔させて差し上げましょう。


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