103 嵐の前の静けさ
何やら王宮で騒動があったらしく、『明日から暫く学園を休まなければならない』とアイザックから連絡があった。
翌朝、アイザックと会えない事を少し淋しく感じながら、学園に到着してAクラスの教室へ向かう途中、何となく視線を感じて振り返ったのだが───。
「どうして貴女がここに居るの?」
私が声を掛けると、廊下の柱の影から気まずそうに姿を現したのはユーニスだった。
学園の制服を着ているが、勿論彼女は在校生ではない。
「アイザック様に、不在中のオフィーリア様の護衛を命じられました」
やっぱり過保護だわ。
まあ、アイザックが学園に来られない間守ってくれる人が居るのは、私も心強いのだけど───。
「でも、校舎内は部外者立ち入り禁止よ?
見つかったらどうするの?」
そう。学園内には、特別な許可を得た場合や、何か催し物がある時以外、基本的には学生と職員しか入れない。
「だから、学生に変装する為にリーザさんが若く見えるメイクをしてくれたのですが……似合っていませんか?」
ニコニコと呑気に笑うユーニス。
実年齢は知らないが、確かに元々童顔のユーニスが若見えメイクをしていると、私と同じ年齢位にしか見えない。
しかも、ぱっと見は地味なのに、良く見ると可愛くてちょっとズルい。
「いや、似合ってるけど、そーゆー事ではなく……」
「大丈夫ですよ。
他人の目がある時には気配を消しますし、授業中は天井裏に身を隠しておきますから」
「天井裏……?」
どんな能力よ?
忍者なの?
風車の弥七なの?
「常に見られているのは少々息苦しいかもしれませんが、オフィーリア様の護衛をしないと私がアイザック様に叱られてしまいますから、我慢してくださいませんか?」
そんな風に言われたら、受け入れざるを得ないじゃないか。
「……分かったわ。
くれぐれも、見付からない様にね」
「はい。気を付けます」
実際、ユーニスは生徒に紛れたり上手く身を隠したりしながら、誰にも不信感を抱かれずに警護をしてくれているみたいだ。
しかも毎日メイクやウィッグを変えるので、まるで別人みたいに見える。
やっぱりリーザのメイク術も凄いわ。
アイザック不在の学園にも徐々に慣れてきた頃。
その日はお天気が良く、季節外れの暖かさだったので、私達は裏庭のガゼボでテイクアウトのサンドイッチを食べる事にした。
ベアトリスと一緒に楽しく食事をしていたのだが、視界の端にこちらへ向かって来るプリシラとクリスティアンの姿が映り、思わず顔が引き攣る。
(うわぁ、面倒臭いなぁ)
どうやって追い返すべきかと考えていたのだが、彼等が私達のもとへ辿り着く前に、どこからともなく現れたユーニスがにこやかにプリシラに話し掛けた。
「あのぉ、クリスティアン殿下とウェブスター男爵令嬢ですよね?
先程クラスメイトの方が、教室の方でお二人を探していらしたみたいですよ。
何か急ぎのご用事があるらしいので、直ぐに行かれた方がよろしいのでは?」
「え? あ、あぁ、そうですか……」
戸惑い気味のプリシラの背中を押しながら、『さあさあ、早く早く』と急かすユーニスは、こちらへチラリと顔を向けてウインクした。
それを見たベアトリスがフッと小さく笑う。
「もしかして彼女、オフィーリアの護衛?」
「実はそうなんですよ。
アイザック様がつけてくれている侍女なのですが、護衛も兼任していて、彼が不在の間は学園にも潜入してくれています」
「アイザック仕込みか……。
どうりで気配を消すのが上手い訳だわ」
呆れた様にそう呟いたベアトリスに、苦笑を返した。
そんな風にユーニスがブロックしてくれていたお陰か、アイザックが居なくても面倒な奴等に絡まれる事はなく、日々は平和に過ぎて行った。
こんな平穏な日がずっと続けば良いのに……。
なんて思っていたのだが、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。
事件が起こったのは、アイザックが王宮で起きた騒動の後処理を終えた後の事であった。




