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死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く  作者: miniko


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101/116

101 非常識なのは

 あのお茶会以降、私の目論見通りにプリシラの所業は多くの人に知られる事となり、彼女に侍る人間は格段に減った。




「差出人の許可も得ずに手紙を公開するなんて、非常識ですっ!!」


 放課後の図書室で勉強会をしていた私達の所へ突撃して来たプリシラは、大きな瞳に零れそうな涙を浮かべて猛然と抗議した。


(いや、どの口が言うんだ?)


 一緒に勉強していたアイザックとベアトリスも不快そうに瞳を細める。


「私に対して常識的な行動を取ってくださらない方に対して、こちらだけが常識を弁える必要がありますか?」


「私が悪いって言いたいのですか?」


「ええ、その通りですよ。

 当主同士が希望して王家も認可した婚約に、全く無関係な人間が異議を唱えるのが、常識的な行動だとでも仰るの?」


「……」


 絶句して固まったプリシラを、私は小さく鼻で笑った。


(ハッキリと指摘されて、やっと少しは自分の非常識さに気付いたのかしら?)


 確かに不特定多数の他人に手紙を読ませるなんて、褒められた行為ではない。

 だが、私はプリシラに対する事実無根の噂を広めた訳ではなく、本当にあった事柄をお茶会で集まった友人達に相(・)談(・)しただけに過ぎないのだ。

 それによってプリシラの周りから人が離れたのだとしたら、それは『プリシラの行いには問題がある』と多くの人が判断した結果である。


「しかも、ここは図書室だぞ。

 静かに本を読んだり勉強をしたりする為の場所で騒ぎを起こしている君と、オフィーリアのどちらが非常識か、周りの人間に聞いてみると良い」


 静かに窘めたアイザックの言葉に、キョロキョロと周囲を見回したプリシラは、漸く自分が図書室の利用者達から冷ややかな視線を向けられている事に気付いたらしい。


「……あの……、失礼しました」


 周囲の人々に小さく掠れた声で謝罪した彼女は、ソソクサと図書室を出て行った。


 私達も少し居辛くなってしまったので、カフェのテラス席に場所を移す事にした。



(それにしても、彼女、最後まで私への謝罪はしなかったわね……)


 まあ、それも当然なのかもしれない。

 彼女は自分が間違っているなんて夢にも思っていないのだから。

 あの手紙の内容も、全て真実だと思い込んでいるのだ。

 その証拠に、私が一人になる時を狙ったりせず、アイザックやベアトリスがいる時でもお構いなしに抗議してくる。

 自分の行動に後ろめたさが全くないからだろう。



 それにしても……、あの手紙の内容にはちょっと引っ掛かる部分があるのよね。


『傷痕が残った件でアイザックと無理矢理婚約した』と書かれていたけれど、ゲームの中と違ってそんな事実は無い。

 一時期『事故の責任を取って婚約するのでは?』と噂になった事はあったが、友人だと公言した事でそんな噂も直ぐに消えたし、入学してからは『傷痕なんて全然目立たない』と私自身がアピールした成果も出ている。

 未だに婚約と傷痕の件を結び付ける人なんて、殆どいないだろう。


 それに、もう一つ気になるのは『クレイグを見返す為にアイザックを利用している』という部分。


 前世の記憶が蘇って直ぐの頃は、それ以前の『オフィーリア』の好みや感情の影響を強く受けていた。

 例えば、前世の私が苦手としていた食材を美味しく感じたり、前世の私が好きじゃなかったタイプの人に好感を持ったり。

 時間が経つにつれて、前世の自分と今世の自分が自然に融合したけれど、アイザックと初めて会ったのは、まだ幼い頃のオフィーリアの部分が強く出ていた時期だ。


 それなのに……。

 一目惚れをしたと言う設定のアイザックに対して、私は特にトキメキを感じたりはしなかった。

 美しいとは思ったけどね。


 当時から微かな違和感を覚えていたのだが、今思うと、あれはもしかしたらアイザックが『オリジナルのオフィーリア』の好みでは無い事を意味していたのではないだろうか?

 その仮説が正しいのなら、『一目惚れ』よりも『クレイグを見返す為』という目的の方が、ゲームの中でオフィーリアがアイザックに執着していた心理の説明がつく気がする。


(もしかして……、私の他にも転生者が存在するとか?

 だとすると、その人は私よりもゲームの内容に詳しいみたいだから厄介だわ。

 プリシラの行動を見るに、彼女自身が転生者だとは思えないのだけど……)



「ねぇ、もうアレ、サクッとやっちゃえば良くない?」


 無意識の内に手紙の内容について考察をしていた私だったが、ベアトリスの不穏な発言を耳にして我に返った。


「ダメですよ。

 ああ見えても一応聖女候補なのですから、下手な事をすると私達の方にも火の粉が降り掛かりかねません。

 どうせ転落するしかない者の為に、態々私達の手を血で染める必要などないでしょう。

 ほんの少しだけ転げ落ちる速度が上がる様に誘導してあげるだけで充分ではないですか?」


 プリシラの相手をするのは面倒だが、教皇の保護下にある希少な魔力の持ち主に安易に手を出すのは危険だ。

 火あぶりエンドを知っている私としては、回りくどくても安全な方法を取りたい。


「ねぇ、オフィーリアの方がよっぽどえげつない事言ってると思うのは、私の気のせいなの?」


 私の発言を聞いたベアトリスがちょっと引いている。

 もしかして、うっかり悪役っぽい発言をしちゃった?


「今のは聞かなかった事にしてください」


「良いのよ。そういう所も貴女の魅力よね」


 そう言って私の頭をグリグリ撫でるベアトリスの手を、アイザックがペイッと跳ね除け、少し乱れた私の髪を手櫛で丁寧に整える。


「まあ、オフィーリアの言う事も一理あるよな。

 それに、腹立たしくはあるが、今の所あの女単体では危険性は感じない。

 聖女になる可能性が濃厚になってきたら話は別だが……。

 どちらかと言えば、クリスティアンの方を先に潰した方が良いだろう」


「そうなると、陛下が邪魔ね。

 後は、サディアス殿下の協力が得られるかどうか……」


 第二王子を『潰す』とか、国王陛下を『邪魔』とか、確実に不敬だよね?


 少し心配になって辺りを見回すが、幸いな事に私達の声が届く範囲には誰もいなかった。


「ちょっと時間はかかりそうだが、オフィーリアの事は絶対に守るから、心配しなくて良い」


 いや。

 ありがたいけど、私が心配しているのはそれじゃない。


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