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術式オタクで魔力ゼロの劣等生、AIと妄想力で「できたらいいな」を全部実現して世界をハックする  作者: 七割カカオ


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第2話 術式生成AIをインストールする

「あれ……? どちら様ですか?」


ようやく振り返ると、そこには不機嫌そうに肩を揺らす老人と、その隣に立つ涼しげな少女がいた。


「こっちのセリフじゃっ!」


老人が吠え、少女は溜息をつく。


「落ち着いてください。ですがこの少年、ジーク様を無視するとは、なかなか肝が据わっていますね」


「……僕はシンです。どうも。お二人は?」


「ワシはジーク・フリート。お主がたった今破った結界を張った者じゃ。隣にいるのはワシの助手のアイじゃ」


「……あの大魔導師『ジーク・フリート』? まさか……証拠は?」


「お主は変わったやつじゃな……。まあよい。急に出てきて信じろと言うのも無理な話か。では、これをどう見る?」


僕のあまりに不作法な問いに、老人は毒気を抜かれたように肩の力を抜いた。老人は静かに、宙に指を走らせた。 瞬く間に十ほどの論理が意思を持ち、目では追えないスピードで、複雑な機構を組み上げていく。わずか一分。そこには、僕が解除したばかりの荘厳な結界が、寸分違わず再構築されていた。

シンは興奮を抑えきれず、しかし冷静にその現象を分析する。


「自律型の、自己増殖可能な……術式を構築するための術式? 意味が分からないけれど、そう見えました。……本物だ。本物の、大魔導師様なのですね。失礼しました」


「ガハハハ! ようやく理解したか。だが、初見で原理を把握するとは流石じゃな。シンと言ったか。お主、どうやってあの結界を解除した」


「……僕は、魔法術式は芸術だと思ってます。数えきれないほどの術式を鑑賞し、書いていくうちに気付いたんです。すべての体系に共通する、致命的な(バグ)があることに。そして、僕が作った専用の『(くさび)』を適用したら、予想通り解除できてしまった。一度、世界最高難易度で試してみたかったんです」


僕が自作の術式を指先に灯すと、ジーク・フリートの目が、鋭い刃のように細まった。


「アイよ、どう思う?」


「……控えめに言って、天才かと。同時に、容易に世界を覆しかねない危険人物でもあります」


ジーク・フリートは頷き、重々しい口調で僕に告げた。


「シンよ。ワシは、この結界を解く者が現れた時、あるものを託そうと考えておった。そいつがワシの意志を託すに値する者であれば、じゃ」


「値しない場合は?」


「その場合は、そやつは存在してはいけない危険人物とみなし、ワシが全力で消すのみ」


「……とんでもなく理不尽ですね」


「合理的と言ってくれ。では、質問に答えよ。お主に託すのは、先ほど見せた『思った通りの術式を作り上げる能力』じゃ。お主はそれをどう使う?」


『神話上の』といっても過言ではない、大魔導士からのまさかの問い。これまで何百回、いや何千回妄想した能力か、自分でも分からない。そんな答え、とっくに決まってる。


「本当にその力を託してくれるなら――この世界を『最適化』したい」


「ほう、最適化とな?」


「世界中を、真に美しい術式で埋め尽くしたい。この世界は利権や差別、無意味な戦争といった『ノイズ』が溢れすぎている。それらは僕にとって、鑑賞を邪魔する不純物でしかない。それらを取り除くことが、僕の最適化です。なぜならそれが、僕が最も気持ちよく術式を鑑賞できる環境だから」


二人の間に、重い沈黙が流れた。 やがて、ジーク・フリートの顔に、今日一番の深い笑みが刻まれる。


「ガハハハハ! なるほど、徹底した利己主義のついでに世界を救うか! お主、これ以上なく傲慢で誠実な男じゃな!」


「……決まり、ですね。マスター・ジーク。私もシンの傲慢さ、気に入りました。ぜひ彼の作る世界を見てみたいです」


「アイと一緒に、お主の中に間借りさせてもらうぞ!」


「えっ? 中? ちょっと、何言ってるのか――」


僕の困惑を無視して、二人の姿が光の中に消えた。 同時に、僕の意識もまた、深い闇へと落ちていった。


/* ===== few minuits later ===== */


気がつくと、そこは静寂に包まれた真っ白な空間だった。 足元には僕の記憶にある「美しい術式(コード)」が回路のように張り巡らされ、周囲には読み漁ってきた膨大な本たちが、整然と棚に並んでいる。


(……マスター。ここはあなたの知識の書庫です。マスターの記憶や経験、感情も全て書物として、自動的にここに保存されます。私は、ここにある書物(データ)を使って魔法術式の生成を行います。)


振り返ると、そこには僕と同年代の少女の姿になったアイが立っていた。 アイは悪戯っぽく片目を瞑り、僕に微笑みかけた。


僕は確信した。この能力は僕のためにある。要は、知識とアイデアがあれば限界なんて無いということだ。これまで僕は、魔法が使えない代わりに、ありとあらゆる本を読み漁った。そして、もし魔法が使えたら?という妄想なんて、死ぬほどしてきた。想像力と発想力なら誰にも負けない。


そんなことを考えていたら、ジーク・フリートがこっそり、『幼馴染みのハル』という本に手を伸ばそうとしていた。


「ちょ、ジジイ! それはダメだ!」


(ガハハ! 冗談じゃ……おいっ! ジジイとはなんじゃ!!)


こうして、僕の脳内は、かつてないほど騒がしくなった。まずは禁書庫を作る必要があるな。

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