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第1話 迂闊な令嬢。

「まあ、このお部屋に?」


「そうです、レディ。いつも僕の歌声を聞いて下さるあなたの、かわいい歌声を聞かせていただけますか?」

「まあ、お上手!実は私、音痴なんですのよ?」


私の手を取ってくれているのは新進気鋭のオペラ歌手、ロイク。美しいバリトンボイスをお持ちです。声に惚れこんで、オペラに通い詰めた甲斐がございましたね。

ロイクに案内されて連れてこられたのは、普通のお部屋のドアに見えますが、音楽室なんでしょうかね?


「レディ、二人でセレナーデを歌いましょう?」


そう言って連れてこられました。ドアを開けると、やはりどう見ても普通のお部屋の様です。大きなベッドがどんとおかれていますね。ピアノがなくても歌えますかね?


「ロイクさんがここで歌って下さるんですのね?」

「いえ。レディが僕のためにね…僕が上手にレディを歌わせて差し上げますから。」


そう言ってロイクさんは、肩に回した手で、私の髪を直してくださっているようです。何の曲を歌って下さるのか、ワクワクです。個人的なリサイタルみたいな感じでしょうかね。


ロイクさんがドアを閉めようとして…閉まらないようで苦戦していますね?

振り返って見てみると、ドアの隙間に男の人が挟まっています。


「レディ・フランチェスカ?いい加減、学習しろ!」


ドアに挟まっていたのは、私がフール国に来てからコンサルタントをしてくださっているアカデミアの教授のアドリアン様。白の手袋をして、金髪を後ろに縛った見目麗しい方なんですが、ドアに挟まる趣味でもあるんでしょうか?この方は地方の音楽祭に行った時も楽屋のドアに挟まっていましたね。今日は随分とラフな格好をしていらっしゃいます。


「あ!わかりました!教授もロイクさんが歌うのをお聞きになりたいんですのね!」


ドアをはさんでロイクさんと教授が押し合っています。


「まあ、ロイクさん、個人リサイタルのお誘いでしたが、この方は音楽アカデミアの教授なんです。ぜひご一緒に聞かせてあげてください。あなたのセレナーデ。」


「は?」

ロイクさんが振り返って私を見ています。力が緩んだのか、ドアを蹴り上げて教授が中へ行ってきました。勢いとはいえ、うるさいですよ?教授。


「教授も、聞きたいなら聞きたいとおっしゃって下さればよろしいのに。この方のバリトンボイスは…本物でしてよ?ささ、椅子もございます。こちらに座って一緒に聞かせていただきましょう!」


「……」


通された部屋には、大きなベッドと、小さな応接セットがありましたので、部屋に入ってきた教授と並んで座る。ワクワクしますね。


「教授ももちろんご存じでしょう?今、上演中の【美女姫と狼】。この方は美女姫に恋をして狼に殺されてしまうちょい役なんですが、この声がものすごくいいんです。なびかない美女姫の窓の下で切なくセレナーデを歌うんですのよ~!その歌を聞きに、私、毎晩通っておりましたの!!!」


どうしたことか、半ば呆れた顔をしている教授とロイクさん。

…あら、私としたことが、前のめりすぎでしたでしょうか?でも、本当にいい声なんです。


チッ、と舌打ちしたのはロイクさんでしょうか?照れてるんでしょうか?うふふっ。


ロイクさんが私たちの正面に立ち、タイを緩めて…第一声…













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