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カレーは美味しい

 外へ出ると大きなレジャーシートがしかれていた。子どもたちはそれぞれ自分のカレーを鍋から取り分け、一人一人自由な場所へ座っていっている。


「はい、二人の分よ」

「ありがとうございます!」

「ども」

「一杯食べてね。おかわりもあるから」


 もらったカレーは芳ばしい香りを放つ普通に美味しそうなカレーだ。中には具はほとんどなく、ほぼカレーのルーだけだった。シンプルイズベストってか?


「ごめんね、お金がないから具はそんなにないの」

「いいえ! とても美味しそうな匂いですよ!」

「えぇ、ルーだけはこの辺りに群生してる香草を使って再現しているの。味も格別よ」

「香草っつーと、ハーブのことか。香辛料もそこから抽出してるんだろうな」

「そうなの。すごいすごい、良く分かったわね? すりつぶして粉状にして乾かすと出来るの」


 実はスパイスを自分で買ってオリジナルブレンドのカレーを作るの、ハマってたんだよな。あれほんとに楽しいからみんなやってみて。


「じゃあ、頂きます」

「皆もどうぞ」


「「「「「はーい!!」」」」」


 おぉー、そこら中からクチャクチャと……うん、鬱陶しい。


「これ美味しいですね!」

「本当? 良かった! 愛情もって作った料理だから、そう言ってもらえると私も嬉しいわ」

「すごい……分量とか、計ってないのにこのバランス、もしや名人様か?」

「あらあら、うふふ」


 本当に旨い。カレーの風味はもちろん、ピリッとする辛味が食欲を刺激する。辛いのに体が次のカレーを食そうと手を伸ばす。やばうまい。


「ゾーイも……食べる……です」

「お? しょうがねえな、ほら」

「ん……はむはむ………かりゃい……です」

「ははっ、そりゃあな。カレーだから辛いに決まってる。でも美味しいだろ?」

「……焼き鳥……食べたい……です」

「グルメなヤツだ、今度つれてってやるから今はこれで勘弁しな」

「はむはむ…かりゃい…」


 可愛い顔が辛味によって少し歪む。震えてるのが伝わってくるがこれは恐怖によるものじゃあねえな。


「凄いわ、シュンくん。その子、私以外には怯えてたのに」

「まぁ。色々ありまして」

「あれ、マリナさんは怯えられなかったんですか?」

「えぇ、不思議なことにね、うふふ」

「僕はまだ怖がられてるみたいで、触ろうとしたら避けられます」

「ゾーイに近付くな!」

「えっと、それはただシュンくんが防いでるからじゃない?」


 にしても、あんなに人を怖がってたゾーイが怯えないなんて、珍しい体質の人もいるもんだ。確かにマリナさんがゾーイの頭を撫でるが、ゾーイは気にせずカレーをちょっとずつ食べている。かわいい。


「これを食べ終わったあとは何をします? 出来ることがあればなんでもしますよ!」

「え、まだ帰らないの?」

「そうねぇ…子どもたちも喜んでるし、遊び相手になってくれたら助かるわぁ」

「分かりかねます」

「分かりました!」

「分かるな」


 最近俺の思った通りに進まないことが多すぎる。昨日も今日もツイてねえや。


「まぁ、俺はゾーイと寝てるからあとはよろしくな」

「分かった、ゆっくりしててくれ」

「良いんだ」


 とりあえず、今はカレーを食べ終わろう。俺の膝に座るゾーイにほとんど食われたけど。


「美味しかったか?」

「……でひゅ」

「辛くて舌が回ってねーぞ」


 口元が真っ赤じゃねえか。そら、ハンカチで拭いてやるよ。


「シュンは昔から子ども好きだよな」

「は? 誰がだよ。子どもなんか大っ嫌いだ。発言に容赦ないし、汚いし」

「ツンデレだもんな、シュンは」

「そろそろ口を閉じた方が身のためだぞ」

「待ってシュン。もう既に膝の裏を蹴ってる」

「仲いいのね、良いことだわ」


 なんでみんな俺たちの仲を勘違いするのか。俺とユウトは仲良くなければ、友達でもないんだからな。




 その後、ユウトは折り紙の続きをしたり、鬼ごっこをしたり、人を恐れてるって話だったのに子どもたちはみんなわーきゃーわーきゃー。うるさいったらありゃしない。


 俺はゾーイと二人木陰で休んでいた。


「みゅー…みゅー…」

「これぐらい静かだったら可愛いげがあるものを」

「みゅー…みゅっ…」

「腕枕って意外と疲れるんだよな。手の先が痺れてきた」

「シュンくん、ゾーイちゃんはどう?」

「マリナさんですか。眠ってるっすよ」


 時々鼻をつまんでは遊んでいると、マリナさんが近付いてきた。


「そういえば疑問だったんすけど」

「なにかしら?」

「教会の中って結構きれいにしてたのに、外観はボロボロのままっすよね。何でですか?」

「建物を直すのは素人には無理だから…」

「修理をお願いすればいいでしょう?」

「お金がないのよ…この辺りを縄張りにしてる人が居てね。あんまり言ったらいけないんだけど、そこから徴収されてるの」

「ほほー、それはまた…」


 楽しそうな話だな、なんて言ったら不謹慎なので言いませんが。縄張りにする、ね。ただの民家どころか孤児院にすら手を出すとは。


「暗い話は終わり! そういえば二人はどこから来たの? 見たところ綺麗な服をしてるし、まさか貴族の方?」

「いや、そんな大層なもんじゃないっすよ。俺はそんな興味なかったんすけど、アイツに連れられて」


 俺は子どもたちを腕に吊って走り回るユウトを指差す。楽しそうだなアイツも。


「良い子よね」

「まぁ、悪いやつじゃないっすよ」

「カリスマを感じるわ」

「勇者っすからね」

「……え?」


 そんな、眼を丸くしてこっちを見て…見つめられたら困っちゃう。


「アイツは勇者筆頭の光ヶ丘ユウト。俺はただの連れ」

「まぁ…それはそれは……」

「そんな気にしなくても良いっすよ、別にひけらかすつもりもないっすから」

「驚いたわ、ユウトくん。カッコいいものね」

「はぁ、そっすね」


 頼むから、惚れるとかそういう展開だけはやめてくれよな。


「もう夕方になってきたわ。そろそろ皆に夕食の準備してもらおうかしら」

「あ、俺帰りますよ」

「まぁ、そんなこと言わずにもう少し居てほしいわ。子どもたちもそう思ってるだろうし…」

「帰ってこいって言われてますから」

「そうなの? 誰にかしら?」

「んー…変態?」

「それはどういう……」


 俺は腕枕を外し、眠っていたゾーイを起こす。


「みゅん?」

「おはよう、俺帰るわ」

「っ!? シュン…またどこかへいく…です?」

「仕方ないだろ。ほら、お前も自分の部屋に帰りな」

「ゾーイは…………です」

「ん? あ、おい」


 行っちまった。最後なに言ったか分かんなかったわ。


「おーい、ユウト。帰るぞ」

「シュン! もう帰るのか!?」

「夕食には帰ってこいって言われたろ」

「そうだった! じゃ、僕も帰ります。また来ますね!」

「あらー、仕方ないわね。じゃあ、また来てちょうだいね」


 ヒラヒラと手を振るマリナさん。はぁ、ここから城まで30分以上掛かるからめんどくさい。来るのもだるい。




 歩いて数分。所々に座ってる人たちに話しかけまくるユウト。


「大丈夫? 俯いたままだよ」

「あぁ………うぅ…お腹が減って動けないよぉ」

「さっきもらったあめ玉をあげるよ! あんまりないけど、これで我慢してくれる?」

「あ、あぁ、ありがとう……ございます」

「ごめんね」


 あんまり良いことじゃねえけどな、そんな風にすんの。そういうことしたら、芋づる式で釣れるぞ。


「お、おぉ……ワシにも……」

「ボクにもください……お腹が減ってるんだ……」

「ま、待ってくれ。シュンもあめ玉とか持ってないか? 俺もそんなに持ってなくて」

「ほら、そういうことになる。行くぞ」

「あ、あぁぁあ、待ってくれぇ」

「お願い、お兄さん…ボクに恵んでください……」


 ユウトの手を引いて動かす。ユウトは少しだけ抵抗するが、しかし結局食べ物なんて持ってないのだから何もできない。


「あのな、あんなことすれば沢山の奴らに押し寄せられるに決まってるだろ。ここで困ってるのは一人二人じゃない。中途半端な同情は返って危険なんだよ」

「でも……だからといってあの人たちを置いていけないだろ!」

「やるんなら徹底的に救うつもりでしろ。ここはそれくらいやらなきゃどうにもならんだろ」


 王様に話つけるくらいすれば良いじゃないか。どうなるかは知らんが、マシになればいいな。


「そういや、ここらの人が貧乏なのはお金を徴収する番長みたいなやつがいるらしいぞ。まぁ、あくまで一因だけどな」

「なんだって!? じゃあそいつのところに行こう!」

「やめとけ、今はそれで均衡が保たれてんだ。一々手を出してちゃキリがない」

「シュンだってセルウスの町の奴隷を解放するために魔族まで巻き込んだろ!? あれと同じだ!」

「あれは……あれだけは譲れないからだ」

「俺だって譲れないよっ!」


 ユウトの形相は本気だ。いつもの、人を助けるときの必死の顔だ。


「シュンはいつも自分勝手にやるくせに! 俺がやろうとすると止めるじゃん!」

「は? それは出来ないことばっかやろうとするからだろ? 勇気と無謀は違うぞ!」

「シュンは頭が固い! もっと柔らかく考えるべきだ!」

「はぁ!? うっせバーカ!」

「バカって言った方がバカだもんね!」

「バカバーカ!」

「アホ!」

「三下ァッ!」

「アンポンタン!」

「アンパンマン!」

「それは悪口じゃないだろ!」

「「バーカバーカッ!!」」


 はぁ、めんどくせぇ。スイッチが入りやがった。コイツがそう考えるのは目に見えてた。なのに言っちまったのは俺が悪い。

 けど今からどうしようって話だろ。この貧民街全体をフォローするだと? それができたらこの闇の部分は出来てない。なんでもかんでも救えるほど人間は器用じゃないんだよ。


「出来ないことはするな、貧民街がどれだけ闇を抱えてるかも知らないくせに。それに王様が対処できてない物をどうやって対処するっていうんだ」

「違う! 俺が言いたいのはそういう理屈とか理由じゃないんだよ! 出来る出来ないじゃない! したいことをするんだ! シュンが来ないなら俺一人で行く!」

「あ、おい! バカあいつ……一人で行きやがった」


 はぁ……だからお前は嫌いなんだ。いつもそうやって無謀なことをする。出来もしないことを語るのは理想だ。詭弁だ。正気じゃない。狂気だ。


 そうやって巻き込まれてきた俺はいつだって苦労してきた。過労死するレベルだ。助けることは責務じゃない。見て見ぬふりをするのも勇気だ。それをアイツは知らない。


「あーっ! めんどくせーっっっ!! 俺は帰るからなッッ!!」


シリアスって……書いてると疲れるんですよねぇ。喧嘩しないでくれませんかねぇマジ。作者は大変ですよほんと。

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