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悪逆非道の 《ユウト目線》

今回は長めです。切り上げるところが見つからなかった……

 路地を駆けて、それらしき人物を探す。時々見かける人達に話しかけてみるけれど、返ってくる答えは『〜をくれ』だ。きっとみんなそれだけ大変な状況に陥れられているんだ。


「こんなに辛い状態の人たちを見て…放っておけるはずが無いだろ!」


 さっきシュンに言われたことを思い出す。


『出来ないことはするな。勇気と無謀は違う』


 そんなこと、分かってるさ。俺はいつだって出来ないことに手を出してはシュンや他の人に助けられてきた。何度も何度も助けられたんだ。


 だから、だから……散々助けられてきた俺だからこそ、ここの人達を助けたいんだ。我儘でもいい。ちょっとでも変えたいんだ、現状を。


「考えろ…相手の立場になって考えるんだ。相手はここら一体を縄張りとする者。ならどこにいれば徴収しに来る? 違う、そうじゃない。どこにでも来るんだ。そして確実にお金を奪う」


 孤児院。そう、今まで取られてきたように孤児院に居ればそいつ等は来るだろう。待ち伏せだ。


 俺は来た道を逆走し、孤児院へと向かう。


「あ、これ飴ちゃんです。どうぞ」

「あ、ぁぁぁあぁ、ありがとう……」


 目に付く人に渡せるものを渡しながら。




ーーーーーーーーーー


「マリナさん、こんばんわ」

「あら? 帰ったんじゃなかったの? もしかしてお腹減っちゃった?」

「あはは、そんな感じです」


 辺りが暗くなってきたところで孤児院へと着いた。マリナさんは教会の前で後片付けをしてたみたいだけど、手に持ってたカレーを渡してくれる。


「ごめんね、もう時間が経っちゃってちょっと冷めちゃったけど、これで良かったら食べる?」

「ありがとうございます、頂きますね!」


 実は朝昼晩と1日カレーだった。いや、美味しいだけあって全然大丈夫なんだけど、これがずっと続くなら俺は耐えられないかもしれない。


「どうする? 教会の寝室が空いてるから、そこで寝るかしら?」

「あぁいえ、実はちょっと目的がありまして」


 ここへ戻ってきた理由と、ヤツらが来る時間帯を聞いてみる。が、マリナさんは驚いたような顔をして首を振る。


「ダメよ、あの人たちは1人や2人じゃないの。ユウト君がいくら強いからって、大勢を相手にするのは無理よ」

「大丈夫ですよ、マリナさん達に迷惑は掛けませんから」

「そんな……いえ、そうね。あの人たちは子どもたちが寝静まる頃にやってくるから、もう少し時間があるわ。それまで休んでて」

「分かりました、ありがとうございます」


 教会の中に入り、椅子に腰掛ける。ギシッと音が鳴るが体重をしっかり支えてくれるみたいだ。


「ユウト君は強い子なのね」

「はい?」


 隣に座ってくるマリナさんが呟きながらこちらを見る。


「そんな、僕は弱いですよ。いつも助けられてばかりで」

「助けられてばかりでも良いじゃない。それは人徳よ。れっきとした力だわ」

「人徳……ですか。ホントにそんなものあるんですかね」

「シュン君が言ってたわよ。ユウトは凄いやつだって。クラスメイト?から頼りにされて、いつも周りには人が沢山いるって」


 それは友達だからで、特別俺に人徳なんていう力があるわけじゃない。むしろ、俺が皆に頼ってるから皆が近くに居るだけで。


「人間ってね、不思議な生き物よ。寂しがり屋さんで、欲しがりで。人を蹴落すことすら(いと)わないときだってあるわ。ほんと、汚い生き物よね」

「……マリナさんの口からそんな言葉が出るとは思ってませんでした」

「幻滅した? でもね、必要以上の行動を出来るのは人間だけなのよ? 他の生物はなんだって生きるためで、必要なだけなの。でも人間は違う。善意や悪意、色々な感情を含めて、いつだって『それ以上』を目指すの」


 マリナさんは、まるで羨ましむような喋り方をする。少しの違和感を感じるが、マリナさんのその言葉に突っ込もうという気は起きない。


「だからこそ、汚い人間だからこそ、誰よりも強くなりたい、人よりも大きく偉大になりたい。そんな感情が集まって更なる力を生む。汚さの中にあるそれはとても美しいわ。泥中の蓮ってやつね」

「……」


 そう喋るマリナさんの身体に、教会の窓から月明かりが差し込む。ライトアップされたマリナさんは浮世離れした美しさだ。イルさんと同じくらいの綺麗さだな。


「英雄と言われる人達は、周りができないと言って諦めるようなことを諦め切れず、我儘を押し通した人達のこと。そこから伝説が生まれて、またその伝説に憧れ手を伸ばす者がいる」

「憧れ……ですか」

「貴方もそう。出来ないことをしようともがいて苦しんでる。本当にこれで良かったのかと不安になってる。でも、良いのよそれで。胸に手を当てて考えて。貴方の無茶や無謀に助けられた人は何人いる? その人たちが笑っていられるのは貴方のお陰なの。だから貴方という『英雄(ヒーロー)』に憧れて、惹かれている。側に沢山の人が居るのは、貴方がこれまで頑張ってきた結果であり、成果なの。胸を張って良いわ」


 ─────っ!


「もちろん、皆に迷惑を掛けたなら謝るべきよ。シュン君だって、きっと貴方を心配してる。だから、次会った時にはごめんって謝るの。そしたら元通りよ。しっかりと頭を下げて、心の底から謝れば、貴方を咎める人はいないわ」

「すいません……ちょっと…涙が……あはは、元気づけられちゃいましたね」

「良いのよ、子どもをあやすのは慣れてるから、うふふ」

「こ、子ども扱いしないでくださいよ! あはは!」


 なんだろうな、イルさんと似た母性を感じる。こっちは一言二言しか話してないのに、全てを知ってるかのように、何でも肯定してくれているような。安心感が不安を拭い、自信に変えてくれる。


「失礼しや〜す、お小遣いもらいに来ちゃいやした〜。マリナさーん?」


 ん、今来たのか。タイミング悪いなぁ。もう少しゆっくりさせてくれれば良かったのに。


「すいません、残念ながら今日からここに来ることは禁じさせてもらいます」

「あ? てめぇ、誰だよ? 舐めてんのかア゛ァ゛ッ!?」

「まずは手を出すことはしません。話し合いで解決しましょう。マリナさん、一応下がっておいて下さい」

「えぇ…」


 モヒカンの男が現れ、声を出して喋る。


「てめぇ…知らねえ顔だが、俺達が誰だか分かっていってるんだろうな!?」

「子どもたちが寝てるんです。静かにして貰えますか」

「あ゛ぁ゛!? てめぇ……ぶっ殺してやるっ!!」

「やっぱりこうなるのか!」


 振り上げられた拳を受け止め、そのまま背負い投げで吹き飛ばす。モヒカンの男は口から泡を吹き出して倒れる。


「ふぅ…危ない危ない」

「おい、まだ金取れねぇのか……って、おい! なんだこりゃぁ!」

「新手か」

「おい! てめぇら来い! 俺たちに逆らうアホがいるぞ!!」

「んだゴラァっ!」

「やっちまうぞコラ!」


 教会の中にゾロゾロと荒くれ者どもが入ってくる。最後に入ってきた大男はおっきな(まさかり)を担いでいて、他の手下らしき人たちもナイフを持っていた。


「俺たちゃ悪逆非道のリベンジャーズ! 国から見放されたこの街を仕切る復讐者よ!」

「天も怯える大男!」

「それがこの俺、ピッグボス!」

「地が震える大男!」

「それがこの俺、ピッグボス!」

「我ら無敵の!」

「リベンジャーズッッ!!」


  荒くれ者たちは決め顔でそう言った。ちょっと日本にいた頃に見た戦隊モノを思い出したのだった。


「マリナさん、ここは危ないです。子どもたちを連れて避難を」

「え、えぇ!」

「おいてめぇ無視かゴラァっ!? そんなことしたら頭が……っ!」

「おまえぇ……俺を無視したなぁ……?」


 大男がユラりと揺れてこちらへと目を向ける。次の瞬間っ!!


「うわぁぁぁんっ!! 折角徹夜で考えたのにぃぃぃっ!! うおおぉぉぉぉ!!」

「泣くの!?」

「やべぇっ! お頭が泣いちまった!」

「逃げろおまえら! こうなった頭は見境無しだぞ!」


 大男は泣きながら鉞を振り回し、教会中を傷つけて行く。


「ちょっ……! 俺が悪かった! ごめんって! 謝るから暴れるのは勘弁してくれ!」

「うぉぉぉぉぉおおおん!!」

「くっそ……ッッ!! エクスカリバーッ!」


 何も無いところから、光り輝く長剣が現れる。柄を手に取ると、その光が全身を包み、体が軽くなる。


「ぬぉぉおっ!! ばかやろぉぉっ!! お前なんて嫌いだァァァっ!!」

「ぐっっ!? 力が……っ! 強いっっ!」


 エクスカリバーを構え、振り下ろされる鉞を受け止める。が、その重さに身体が吹き飛びそうになり、地面に足がめり込む。


「うおぉぉっ!!」

「これじゃあっ! どうしようも! ない! 力が強すぎる!!」


 力強い割に素早い! ただでさえバカでかい鉞を振り回してるっていうのに、こんな速さだと受け止めるので精一杯ッッ!!


「あ! ゾーイちゃんっ!? ユウト君! そっちにゾーイちゃんが!」

「えっ」

「……許さない…ですっ」


 視界に入ってきたゾーイちゃんは反応すら難しいはずの鉞をかいくぐり、大男の顔を爪で引っ掻いた。


「ぐおぉぉっ!? な、なんだぁぁっ!?」

「っ! 今だっ!」

「ぐぁっ!? う、うぉぉぉ……ん」


 一瞬出来た隙に一太刀腹に抉り込む。エクスカリバーは切れ味が自由自在。切るも叩くも俺次第だ。大男の腹を全力で叩くと大男は白目を剥き倒れた。


「お、お頭がやられた!?」

「嘘だろっ!! あの泣きのお頭が!?」

「頭ぁッ! あんだが負けちまったら俺達はどうすりゃ良いんだよ!?」


 モヒカンの男達は口々に嘆く。ゾーイちゃんはこっちに戻ってくると、顔をこちらに向けて話しかけてくる。


「シュンの……友達……ゾーイが……守るっ」

「ぞ、ゾーイちゃん…っ!」


 ふんすー、と鼻息を出すゾーイちゃんはとても愛らしく、やっとのことで頭を触らせてもらえた。だが、触れて分かる。また震えている。恐怖もあるはずなのに助けてくれたのだ。


「よーしよしよし、ありがとなぁゾーイちゃん」

「……です」

「もう! 危ないから出ていっちゃダメでしょ! ゾーイちゃん!」

「……です」

「すいません、マリナさん」

「いいえ、ユウト君が謝ることじゃないわ。私も抑えられなくて。ゾーイちゃんも、無理しちゃダメよ?」

「……です」


 何気にあの攻撃を全て避けたゾーイちゃんが凄すぎる。俺ですら受け止め切れないかもしれなかったのに。


「か、頭ぁ……」

「お前ら…俺が倒れた時こそ、出番だろ?」

「そんなぁ…頭がやられたらどうしようも……」

「俺達のチーム名、忘れたのか? 悪逆非道のリベンジャーズだぞ? 復讐者だ。俺の復讐を……して……く…」

「「「頭ぁッ!!!」」」


 あ、敵の方が凄いドラマチックになってた。ごめん、こっちはこっちで話してた。


「お、おお、お前…許さないからなァっ! おまえら! 行くぞ! 頭の仇を討つんだ!」

「「「「おぉぉー!!!」」」」


 沢山の敵が押し寄せてくる。一人一人が武器を持っていて、油断したら刺されそうだ。


「はぁっ! やぁっ! 僕達にも守るべきものがあるんだ! 君たちの自由にはさせてやれない!」

「頭は! 俺達が安心できる唯一の家族みたいなもんだったんだ!」

「人を不幸にして得られる安心なんて、そんなのはただの優越感だろう!?」

「うるせぇうるせぇ! お前ら! 囲めぇ!」


 左右前後に敵、敵、敵、この状況はマジにヘビーだ。どうしよう、この数を相手にやれるか? いや、やるんだ。自信を持て、自信は力だ。


「うぉぉぉぉぉおおッッ!!」

「なんだっこいつはっ!」

「規格外の強さだっ! 頭がやられるだけある!」

「ひ、人の動きじゃねぇぞ!」


 先の先を読め。見えないところは予測で補え。足りない部分は速さで越えろ。限界は無い。


「はぁぁっ!!」

「嘘だろっ!? 背後の攻撃すら当たらねえ!」

「どころか誰か攻撃を当てられたか!?」

「う、うわぁぁっ!!」


 必要なのは情報だ。視覚だけじゃない、聴覚や触覚。嗅覚まで駆使して動け。



 ──そして、到達しろ。『第六感』へ。


「か、勝てねぇ!」

「バケモンかよ!? 攻撃を読まれるどころか、動きの一つ一つが読まれてやがる!」

「心を読むことが出来るのかコイツはっっ」

「も、もう数人しか残ってねぇよ!!」


 気が付いたら既に残ってる男達は10人も居ない。床を見れば気絶している人ばかりだ。


「もうそろそろ、退散した方が良いんじゃないか?」

「こ、こんなところで帰られるか! 俺達はリベンジャーズだぞ!」


 と、モヒカン男が叫んだ時、倒れていた男の1人が起き上がり、走って行く。


「あ! そっちは!」

「へへっ! 悪ぃな嬢ちゃん! こいつを見ろぉ! この女の子がどうなってもいいのかァっ!?」

「……う…うう……」

「ゾーイちゃん!」


 マリナさんが誘導していたのに、まだここに居たのか! くそっ、もう少しだったのに!


「武器を置いて手を上げろ。変な動きをするなよォっ!? もし何かしたらこのお嬢ちゃんの髪の毛を1本抜くからなぁっ!?」

「そこだけ地味だね!? い、いや! 分かった! 武器は捨てるからゾーイちゃんに手を出すな!」

「早くしろぉっ!」


 ダメだ! 集中しすぎて周辺にしか意識が無かった。遠くにいたゾーイちゃんに気付かなかったし、男達にした攻撃も浅過ぎて気絶から目を覚ましたのか……っ!


「さーて、どうしてやろうかなぁ…」

「頭を殺したんだからなぁ……? 極刑に決まってるだろぉっ!?」

「ぐっ…」


 死ぬ……のか? まだシュンと仲直りすら出来てないのに…そんな、嫌だ。やっぱり、俺一人じゃ何も出来ないのか……?


 視界の端にナイフを舐めている男が写る。男はひとしきり(ねぶ)った後に笑いながらナイフを振り上げた。


「ちょっとまったぁぁぁぁっ!!! 」


 瞬間、教会の扉が大きく開け放たられた。突然のことに誰しもそちらに意識が向く。


 そこに立っていたのはシュン───







 じゃなくて、俺のお付のメイド、アリナだった。


「私のユウトに、手を出さないでくれるッッ!?」


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