☆05-2.1stキス
本編の私が振ってる番号で124・125話の風天視点バージョンです。
※本編を125話まで読んでいない人は目次にあるリンクから本編に入ってください
第一声は単刀直入だった。彼女のことを思ったら自然と口に出していた。もしこの場に他の誰かがいたら言えなかっただろう。そのまますぎて恥ずかしい。真夜が人のいない旧校舎に行ってくれたことには本当に感謝したい。まぁ、彼女の場合、人に泣き顔を見られたくなかったからだろが。
「・・・・・・、分かってます。だから、行ってください。」
「・・・・・・・。」
(はぁ?)
「先輩は先輩で、私は後輩なんですから当然じゃないですか・・・・・。」
どういうことなんだ?と一瞬思った。いや、だまされかけた。嘘が苦手な彼女にしては上手くやったものだ。いつもだったら、俺も騙されていただろう。だが、彼女が珍しく上手に嘘をつけたのと同じように、今日の俺は珍しく察しがよかった。
「じゃあ、何で泣いてるんだ・・・・・・・・?」
「そ、それは・・・・・・・。」
彼女は多分、気のせいだ、と言おうと思ったのだろう。だがあいにく、現在は夏服で半袖だ。腕に直接当る滴の感覚は誤魔化せない。
「て、天井に雨漏りが・・・・・・・・。」
「ここ、2,3日はこの辺で雨なんて降ってないよ。」
「っう・・・・・・・!め、目の前に、おいしそうなお菓子!涎が・・・・・・」
「そんなところに落ちてるはずがないし、拾い食いしたらお腹壊すよ。・・・・・・いや、それ以前に、言い換えてる時点でそれ、嘘でしょ。」
「じ、実は汗っかきで・・・・・・・・。」
「1番、常識的にありそうだな。だけど、違う。ずっと見てきたから、違うことぐらい知ってる。」
「・・・・。」
彼女は反論するのをやめた。そう、本来彼女はこんな風に、嘘をつくのが下手なのだ。
「俺がが何を言ってるか、分かってるんだろ?勘違いしてふりをしたって無駄。」
「・・・・・・、放してください。」
「放したら、また逃げるだろ。やめておいた方が良いよ。またすぐに、転ぶのが落ちだ。」
「に、逃げません!逃げませんから、放してください。」
「駄目」
「放してーー!!」
彼女が再びもがき始める。小柄な彼女にもがかれたところで放すほどのダメージは喰らわない。むしろ、かわいいくらいだ。
「じゃあ、ちゃんと、俺に返して。真夜の気持ち。」
彼女の抵抗が止まった。
「・・・・・・・・先輩は、あ、あくまでも、先輩です・・・・・・!た、ただの、せ、先輩で」
「嘘。嘘つき。」
ここで、いつもみたいに弱腰になっては負けだ。自分でも、いつもと性格が違うだろ、と思うくらい、強気に出る。だってこれは俺が自分の人生を彼女とずっと過ごせるかどうかがかかっているのだから。
「・・・・・・・、でも、狂結先輩と、キ、キ」
「お嬢と?してない。したくもないし、不快なだけだよ。」
「でも・・・・・・・」
「信じられない?」
「・・・・・・・・・。」
「でも本当。されかけたけど、その前に、真夜を追いかけたから。信じられないなら、精霊を使って、その場にいた魔元素に聞けばいいよ。」
「・・・・・・・・・。」
彼女はそこまで人を疑えなかったようだ。
「ちなみに、ファーストキスもまだ。相手は、真夜が良いなぁ・・・・・。」
「!!?」
俺の遠まわしぽいけど直接的な「キスがしたい」発言に、彼女は耳まで真っ赤になる。見たい。今、彼女がしている表情を正面から見たい。
「1stだけじゃない。2ndも3rdも4thも5thも・・・・・・・・、俺が生きている間にするキスの相手は真夜が良い。真夜じゃなきゃ、嫌だ。」
半、・・・・・・・いや、ほぼプロポーズっぽいことを、俺は恥ずかしげもなく言った。自分でも驚いた。まぁ、それだけ彼女のことが好きで、本当にほしいと思っているからなんだけどさ。
そんなとき、黙っていた彼女が口を開く。
「・・・・・・い、いいん、ですか・・・・・・?私でなんかで・・・・・・・・。」
(何言ってるんだか。)
「いいんじゃない。」
俺の腕に落ちる彼女の滴の感覚がどんどん短くなっていく。
「真夜じゃなくちゃ、駄目なんだ。」
俺のその言葉を聞くと彼女は、自分の体をひねり俺の腕の中で自分の体ごと半回転をし、俺の胸に顔をうずめて「・・・・・きです。」と声をこぼす。俺がよく聞こえなくて聞き返そうかと思ったとき、真夜は顔を上げ、
「好きです。風天先輩のことが大好きです!!」
と言った。涙をボロボロとこぼし、頬を赤くしたとびっきりの笑顔で言ってくれた。その笑顔とかわいい声に、今まで少しだけドキドキしていた心臓が一気に大きく脈を打った。
「真夜・・・・・・・!」
俺が再び強く抱きしめると、真夜は「先輩・・・・・」と言いながら抱きしめ返してくれた。
しばらく強く抱きしめあった後、少し体を離すと、真夜は顔を上げ俺を見上げ微笑んでくれた。まだ、瞳が少し潤んでいる。
(か、かわいすぎだろ・・・・・・!!)
いや、知ってたよ。知ってたさぁ、真夜が世界で一番かわいいことくらい。で、でも・・・・・・・・、でもさぁ、潤んだ瞳でこんなかわいい子に見上げられて、しかも、好きって言ってくれたんだよ?これは何も思わない方ががおかしいだろ!
俺は真夜に視線を絡ませて「キスがしたい」と目で訴える。真夜は、了承の証に目を閉じてくれた。それをしっかり確認した俺は、どんな味がするのだろう、と胸をときめかせながら、真夜の顔にゆっくりと顔を近づけ、――――唇を重ねた。優しく、だけど真夜に俺の思いがしっかり届くように重ねた。
(甘い・・・・・・。)
すごく激甘なのに吐き気が出るような甘さではない。
俺はする前はそんなつもりなかったのに、もっとほしくなって、角度を変えて濃く深く深く・・・・、真夜にキスをした。隙間から漏れる真夜の吐息。それさえものがさまいと、また深く、口付けをする。
真夜の感じから言って、そろそろgive upしそうなので、その前に唇をゆっくり、俺のなおごり惜しさを真夜に感じてもらえるように、放した。
真夜は、まだボーとして、頬を赤く染めながら俺を見上げている。すっかり体の力が抜けてしまったようで、多分、今抱きしめている腕を放したら倒れてしまいそうだ。すごくかわいい。
(ヤバイ・・・・。はまりそう・・・・・・。)
これがファーストキスの感想だ。
同時にさらに真夜のことが好きになった、手放したくなくなった。真夜がかわいくてかわいくて堪らない。
俺は片方の手を真夜の頬に添え、
「真夜・・・・・・。」
と愛しさを込めて呼ぼうとした。が、その前に、
「先輩!」
と真夜が言った。
「ん?何?」
話しかけられたのがうれしくて、思わずにやけてしまった。
「・・・・・、私もですから。」
「え?」
何のこと?俺がそういう前に、俺の事をまっすぐ見ながら真夜が言う。
「私も。私が生きている間にするキスの相手は風天先輩が良いです。風天先輩じゃなきゃ、嫌です。」
「・・・・・・・・!?」
俺は目を見張った。ほぼポロポーズっぽいことに、OKっぽい返しをしてきた!!?嘘、嘘だろ!?まさかここで起こってることは・・・・・・、
「夢・・・・・・・、かな・・・・・・?」
俺が言う前に真夜は俺が思っていたことと同じことを口にする。
「風天先輩が私のことを好きって言ってくれて、夢かと思うくらい幸せ・・・・・・・・。」
頬を赤く染め、とろけそう、かつ、幸せそうに笑う、真夜。
俺は真夜の頬に当てていた手を滑らせ、真夜のあごをクイッと持ち上げ、自分の顔を真夜に近づけて何回も何回も唇を重ねた。
「ほら、夢じゃないだろ?」
と言う。いくら夢でもこの甘さは感じられない。真夜に言い聞かせると同時に俺自身も夢ではないことを確かめる。
そう、お嬢と総務会メンバーに見られていたことも知らずに。