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すいみん過多②

 どうやら私が家族にかけた心配は相当なものなようで、帰りの車の中と、そして帰宅後の家族の私に対する態度は、まるで腫れ物にでも触るかのようだった。


 考えてみれば、今まで大病を患ったことがない私が急に朝目覚めなかったのだから、そりゃ大層、慌てたことだろう。


「んで結局、何があったんだローレル?」


 家族には寝てろと言われたが、メールだけ確認すると言ってローレルの監視を条件に、かなり強引に防音室内までたどり着いた。


 しかし、あまり長居はできないため、私は単刀直入にそう彼女に切り出した。


「アヤメは”オーバードライブ”状態になった影響で、魔力を使い果たしてしまったんです」


 簡潔な言葉を求めたが、本当に簡潔な答えが帰ってきた。


「オーバードライブ?」


 私はとりあえず、そのネットでしか見ない言葉の意味を、彼女に尋ねる。


「何となくわかりませんか? オーバードライブは、リミッターを解除して危険域まで力を開放できる状態のことを指すんです」


 その説明は私の知っているゲームのそれと似たものであったが、それに対して新たに、いくつかの疑問が湧いた。


「そのオーバードライブは”決死機構”と何が違う? そして、何で私はそんな状態になったんだ?」


 今までの経験からして、また何か危険な目にあったであろうことは想像に固くなかったが、それにしても今まで私が現実世界にまで尾を引いた異常といえば強烈な腹痛くらいのものだ。


 しかし今回は、朝になっても目が覚めなかったほどに、強烈な負担が私の体にかかったということではないのだろうか。


「決死機構というのは、あくまで魔法少女自身の自衛のための物で、あくまで開放される力は限定的なものです。それと比べてオーバードライブというのは、魔法少女本人が持っている本来の力を極限まで引き出すことが出来ます。大雑把に言うと、決死機構はリミッターが働きますが、オーバードライブは踏めば踏むだけ力が出て、エンジンブローするか、ガス欠するまで続きます」


「それって要するに、やり過ぎるとぶっ壊れるって意味だろ? あとその言い方だと、今までの魔力の枯渇が、ガス欠とは違うみたいだな」


「御名答です。ガス欠とは言いましたが、現実的に魔力が枯渇するところまで行くことはありません。その前に、”魂”が崩壊してしまいますから」


 ……魂。


 そういえば、霊も魂が関係していると言っていたような気がするが、それは一体何なんだろうか。


 幽霊もそうだが、魂なんて科学的に証明されていないものが、どうやって現実世界に干渉してくると言うんだ?


 実際に魔法を使っている自分がそれを否定するのは滑稽なことだが、魔法の世界は知れば知るほど、次から次に謎が増えていく。


「私はどこまで踏み込んでいい? あんたらは私に聞くなと言っておきながら、魔法の世界に引き込もうとしているようにしか見えないんだが?」


「それはもう、アヤメさんの心配することではありませんよ?」


 ローレルのその言葉に、私は背筋に冷たい物を感じる。


「それは、どういう意味だ?」


「残念ながら、アヤメはもう普通の生活には戻れないにゃ」


 …………。


「いきなり出てきてそんな事を言って。アヤメが勘違いするでしょう?」


「ボクの言っていることのどこに間違いがあるにゃ? どうせアナタがこうなるようにシステムに細工したんだにゃ」


「あら、そんな人聞きの悪い。”オーバードライブモード”というのは、モードとはついていますが、実際のところそれは”もう魔法少女のシステムだけでは制御不能”の意味です。それくらいわかっているでしょうに」


「でも、普通は魔法少女のシステムの制御下でそこまで行くことは無いにゃ! あれの発動には、上位権限が必要なはずにゃ」


「それは決死機構を発動させすぎたからでしょうね。あの状態で無理をすると、魔力のコントロール機構がガバって暴走しやすくなります。管理課の方々はご存じなかったみたいですが、私が調べた限り、システムが力を抑えきれないと判断すると、魔法少女自身に警告が行くようになっています。そうなった時点で、高ぶった彼女たちの意思では冷静な判断が出来ず、もはや確定演出ですよ?」


「そこまで知ってて止めなかったのは、故意犯に違いないにゃ!」


「ちょちょちょっと待って! 毎度毎度、私を置き去りにして言い合いをするなよっ! オーバードライブとかいう決死機構はとりあえずいいから、何で私が普通の生活に戻れないのか教えてくれ!」


 妙に人間臭い人工生命体と神様の会話に困惑しつつも、これ以上私の理解できない話をされるのは本意では無かったので、私は二人の会話に割って入る。


「アヤメはちょっと黙っててにゃ! この邪神に魔法少女とは本来、どうあるべきかというのを叩き込んでやらなきゃならないにゃ!」


「へー。毎回毎回、担当魔法少女を危険な目に合わせるのは、この使い魔が思う魔法少女のあるべき姿ということらしいですよ? アヤメさん?」


 えぇ……何この人(?)たちぃ……。


「最初から彼女みたいな明確な転生候補者を魔法少女にするのは無理だったんですよ。だから仕方なく、わたしはあえて猫猫がオーバードライブをすることを止めませんでした」


「正体現したにゃ? やっぱり最初からそれが目的だったんだにゃ!」


 ああもう……なんだかコイツ等の会話を聞いていると、頭が痛くなってくる。


「私がオーバードライブしたから何がマズイんだ? それが私が戻れなくなるのと関係あるのか?」


 負けじと言葉を挟んだ事で、また何か言われるかと思ったが、二人の目が同時にこちらをみて止まる。


 少しきりっとした顔をしたローレルは、やはりとんでもない美人だ。


 一瞬、あのお風呂で見た彼女の裸体がフラッシュバックするが、私は首を振ってそれを振り払った。


「端的に言うと、オーバードライブをする事は、魔法の力に目覚める事ににほぼ等しいにゃ。つまりアヤメは今、魔法少女にならなくても魔法が使える状態になっているにゃ」


 え……それマ?


「ようするに、その状態になるとアヤメはもう、最初に話したような魔法の力を封印して普通の生活を送るということは困難になるにゃ。少なくとも、記憶を封印することは魔法の暴発に直結するから、実質的に不可能だにゃ」


「待てっ! それって今、私の魔法が暴走したらどうなるんだ!?」


 記憶の封印に関しても気になるのだが、もし私が何かのひょうしに意図せず魔法を発動させてしまったら、大事故に繋がるのではないだろうか。


「わたしがそばにいる間は、その危険性は無いと言っても過言ではありませんよ?」


「それにゃ! 最初からそれが目的で、アナタはアヤメに近づいたんだにゃ!」


 いや、テルみんはテルみんで、今まで私がどれだけ危険な目に会おうと知らんぷりしてたくせに、自分に実害が出始めた途端、こうやって必死になるのはちょっと違うくないか?


「そんな事をしてわたしに何のメリットがあると?」


「どうせアヤメの有用性に気づいて、自分たちのもとに引き込もうとしているんだにゃ!」


「じゃあ私が居なくてもアヤメさんを守れると言い切れますか? 言えませんよね? だって既に、何度もアヤメさんを危険な目に会わせていますものね?」


「ぐにゃにゃにゃにゃぁ……」


 痛いところを付かれて、テルみんがモゴモゴしながらようやく黙る。


「……気は済んだか? そろそろ私の質問に真面目に――」


 チカチカチカチカ。


 ようやく私のターンだと思った矢先、外から誰かが防音室のインターホンを鳴らして、室内の赤いランプがクルクルと点灯する。


 作曲中はチャイムに気づかない事も多いので、音の代わりにランプが点灯するしくみになっているのだ。


 残念ながら、どうやらここでタイムリミットのようだ。


 私はため息をつきながら、椅子から立ち上がった。


――――――――


――――――――


 黒色の天井をぼーっと見上げる。


 カーテンの隙間から街灯の光か何かがかすかに滲み出てくる以外は、部屋の中を照らすものは全く無い。


 丸一日近く寝てしまった影響か、自室のベットに入っても眠くなる気配は全く無く、むしろ目をつぶっている方がしんどいほどだった。


 結局あの後は家族で食事を取った以外はローレルと話す機会はなく、テルみんも出てくる気配はない。


 ちなみに性懲りもなくローレルが一緒にお風呂に入ろうと誘ってきて断固拒否したが、毎度トイレまでついて来ようとするのは何なのだろうか。


 まさか、マジでそういう性癖でもあるのか?


 ……いや何考えてるんだ、流石にそんなわけないだろう?


 ああダメだ、なんか睡眠過多のせいで、あたまが逆に働かない。


 どうせ寝れないのならと、私はスマホを取り出して画面を覗き込む。


 魔法少女の方のスマホだ。


 そこには、LEVEL51☆☆と表示されており、ポイントも既に使い切れないほどに溢れいている。


 レベル30からは殆どレベルが上がらなくなるとは何だったのか、そして、その隣についている☆は何だ?


 私の見立てだと、それは恐らくオーバードライブと関係がある気がしている。


 はたまた、レベル50を超えた証かもしれないが、表示されていると言うことは何かしら意味があるのだろう。


「テルみん。いるか?」


「もちろんにゃー」


 私が呼ぶと、耳元で使い魔の声が聞こえる。


「これ、説明してくれ」


 そう言いながら、顔の横にいるテルみんに、画面を見せる。


 これでとぼけたり見当違いなことを言うなら、今夜はもうコイツとは話をしない気でいる。


 ちなみに、昨夜のことを詳しく聞くのは、ローレルと一緒のときと決めている。


 なんか、双方の意見が微妙に食い違っていそうだからである。


「その(ほし)マークの事なら、一つは魔法少女が”オーバードライブ”をした証拠だにゃ。もう一つは50レベル突破で付与されているにゃ。まさか、この目で見ることになるとは思わなかったにゃ」


 どうやら私の推測は当たっていたらしい。


 そして、テルみんの様子では、魔法少女がオーバードライブするというのはかなり珍しい現象のようであるが、私が聞きたいのはそれだけではない。


「何で一気に20レベルも上がってるんだよ? それと、オーバードライブしたら魔法が暴走するとか言ってたけど、あれはヤバイんなじゃないか?」


「まずレベルが一気に上ってるのは、オーバードライブしたことに関連しているにゃ。あと、今はオーバードライブ状態では無いから、いきなり魔法を使ったら暴走するという話では無いにゃ」


 ようするに、一度オーバードライブ状態になったからと言って、それがそのまま、ずっと継続するわけではないという事らしい。


「だけど、オーバードライブした場合、既に魔法の力が完全に覚醒している事にもなるにゃ。と言うことはつまり、キミはもう、枠組みとしては魔法少女よりも上の立場になるにゃ」


「え? ってことはつまり、私は”魔女”か何かになったのか?」


「魔女って(笑)。いや、まだキミは魔法少女ではあるにゃ。それに一応、魔法少女のシステムは生きていて、キミが無理やり魔法を使うようなことをしなければ、事故でもない限り勝手に魔法が発動するようなことは無いにゃ」


 だったらローレルとの言い合いで、言い淀んでいたのはなんだったんだと言ってやりたい。


 つまり、その”事故”とかいうのが起こる可能性は、それなりに高いのではないだろうか。


「ちなみに、50レベルを超えたことで更に上位の魔法が開放されてるはずだけど、それは絶対に使わないようににゃ」


 そんな事を思った矢先、使い魔が、その事故につながりそうなことを被せて来る。


 しかしそれは、いわゆるフラグとかいう物なんじゃないか?

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