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黄金色の髪の乙女 4

 やっべー……緊張して来た。


 私はあまり人前で裸になるのが好きじゃない。


 それは別に変な意味ではなく、単純に銭湯とか温泉とか、そういう所で同性に自分の裸を見られるのが嫌だからと言う理由である。


 しかし……。


「ああ、畳まないでもそのまま入れてくれればいいよ」


 下着姿になったローレルが、自分のワンピースを畳んで入れようとしていたので、私はそう声をかけた。


「逆に洗わないで欲しいものは、そこに掛けて置いてくれれば大丈夫」


「わかりました」


 そう言いながら躊躇なくブラジャーのホックを外すローレル。


 私は見ないようにと思いながらも、どうしても彼女の……裸が気になってしまう。


 もしからたら生傷だらけだったり……とか思っていたが、彼女の体は傷ひとつ無く、むしろムダ毛の一本も生えていないのではと言うぐらいスベスベだった。


「ふふふ、ワタシの体に興味があります?」


「うぇえ!?」


 気付かれないようにしていたつもりが、めちゃくちゃバレていた。


「ご、ゴメン。キレイな肌だったからつい……」


「ふふっ、アヤメだってキレイな肌じゃないですか?」


 彼女はパンツも脱ぎ、ついにすっぽんぽんになる。


 このまま彼女だけを裸で放置するわけにはいかないので、私は思い切って服を脱ぐ。


 しかし、どうしても恥ずかしい気持ちを隠すことが出来ない……。


「? Dですよ? アヤメはEってところデスか?」


 マズい……あたしの視線がどこに言っているか、彼女に完全に把握されている。


 心臓がドキドキと高鳴り、さっきの菖太みたいに目が泳いでしまう。


「ゴメン……わ、私あんまりこういうの慣れてなくて……」


「あははっ! なんデスかその言い方。アヤメ、ワタシとこれから何をしようって言うんデスか?」


 顔に血が上って、少し涙が出そうになる。


 は……恥ずかしすぎるっ!


「私は下着をカゴに投げ込むと、急いで脱衣所から風呂場に入って行く」


「多分知ってると思うけど、ここを捻るとお湯が出るから。温度調整はパネルで、優先ってなってるときにここを押すと……」


 ガチャン。


 後ろで風呂場の折戸を閉める音がする。


「お風呂もリフォームなさったんデスか?」


「ああ、うん。私の小さい頃に浴槽が割れちゃったみたいで、その時に……」


 あ、しまったな……よく考えると、彼女が風呂に入っている間が、テルみんに話しかける絶好の機会だった。


 ザーー!!


 !?


「わぁ! 冷たいっ!!」


 彼女が蛇口をひねった瞬間、冷水がシャワーから噴射されてそれをローレルがもろに被っていた。


「ああもう菖太め……洗い終わったら下にしとけって言ってるのに……」


 私は急いでシャワーから蛇口に切り替えて、風呂の蓋を外す。


「ほらローレルさん。これ」


 私は湯船から手桶に汲んだお湯を、ローレルに手渡す。


「ああ……あったかい」


 それを受け取ったローレルが、ゆっくりと自分の体にお湯をかける。


 白肌が水をはじいて、それが彼女の体を伝う。


 私の目が、吸い寄せられるようにそれを追って行く。


 ……ホントに下も同じ色なんだ。


「……あら? もしかしてアヤメて、そういうのでした?」


「……うぇ!?」


 私は我に返って、その瞬間、素っ頓狂な声を出してりまう。


「ごごごゴメンっ! そういう訳ではっ!」


「きゃぁっ! アヤメに襲われるっ!」


 ザバーー!


「うあっぷっ!?」


 ローレルが温かくなったシャワーをこっちに向けて噴射する。


「違う違うっ! 誤解だって!」


「このへんたーいっ!」


 そう言いながら執拗にお湯をかけて来るローレル。


「おちょちょちょっ! だから違うってっ!」


「もんどーむよーだー!」


 ん?

 

 ……さてはコイツ、遊んでるなぁ?


「……おりゃぁ!」


 ザバーー!!


「ひゃぁあっ!?」


 私は仕返しに、彼女目掛け洗面器に汲んだ水をぶっかけた!


「やったなぁー! それっ!」


「ごぼごぼぼぼっ!? おっぼっ……それはちょっと流石にっ!!」


 至近距離で私の顔にシャワーを噴射して来たローレルを、私は押しのけようと慌てててを伸ばす。


 ふにゅっ。


 ……あっ、柔らかい。


「ひゃぁあんっ!」


 !?


「ごごごゴメンっ!!」


 ラッキースケベ!!


「ううぅ……やっぱりアヤメ……ワタシのカラダ……」


「たまたまっ! たまたまだって! ゴメンゴメンゴメンっ!」


 私はこの短い間に、何度ゴメンという単語を発しただろうか。


「……もう、どさくさに紛れてどこを触ってるんデスか!」


「だからゴメンて、もう触らないから……」


「……本当ですか?」


「本当です!」


 そう言って彼女は、湯煙の中、大きな瞳でじっと私の顔を見る。


 …………きゃわわぁ。


「じゃあ、バツとしてワタシの背中を流して下さい!」


「ほっ!?」


 虚を突かれた私の顔を見て、ローレルが意地悪く笑う。


「さあほらっ。お願いしマス」


 彼女は私に白い背中を見せ、長い髪を顔の横にまとめる。


 ……この女、どこまで計算でやってるんだ!?


――――――――


――――――――


「なあローレルさん?」


「呼び捨てでかまいませんよ?」


 私は言われるがまま彼女の背中をスポンジで洗わせられている。


 沈黙が耐えられなかったので、そう声をかけたのだが、何を聞くのかを全く考えていなかった。


 ……まずい、このまま何も言わないのは、明らかに不自然だ。


「……アヤメは、お風呂でおしっこをするタイプですか?」


「んぇえ!?」


「ワタシはするタイプなので、ここでしてもいいデスか?」


「え……いや別にいいけど?」


「ふふふっ……冗談です」


 …………。


「ゴメンナサイ。ワタシ、変な人ですよね?」


「は、ははは。そんな事無いですよ」


 ……何この人、すごく変な人だ。


「でもこうやってアヤメと裸の付き合いが出来て良かったです。お近づきになれて、少し緊張がほぐれました」


 私は逆に、緊張感が増した気がするがな。


「さあ、前も洗って下さいアヤメ?」


「え……背中だけのはずでは?」


「洗いたくありませんか?」


「…………」


「ふふっ……アヤメは結構、欲望に忠実ですよね?」


「そ……そういう訳では……」


 ヤバイ……このままでは完全に彼女のペースに飲まれてしまう。


「私をお風呂に誘って、何か言いたいことがあったとかじゃないのか?」


 私は少しヤケ気味で、彼女にそう問いかける。


「ん? いえ、アヤメさんと仲良くなりたかっただけデスよ?」


 そう答える彼女に、とぼけた様子は無い。


「ローレル。実は日本けっこう長いよね?」


「そうでデスね。長いと言えば長いデスが、やっぱり気になりマス?」


「気になる」


「残念。秘密なんデスねー」


 かなり率直に聞いた私に、彼女は顔色一つ変えずにそう言った。


「別に意地悪をしている訳じゃないんデスよ? ワタシも言えるものなら言いたいんデスが……」


「じゃあ言える事を何か聞いてもいい?」


「うーん……言えることデスかぁ。改めてそう言われると、何を言えばいいのか困りますねぇ……」


 私に体を洗われながら、彼女が上を見ながら何かを考える。


「あっ」


「?」


 私がその手を止めると、急に彼女が何かを思いついたように声を出す。


「ここも洗って下さい」


「えっ? いや流石にそこは……」


「冗談ですよ」


 …………。


「ほら交代しましょう、こんどはワタシがアヤメを洗って差し上げます」


「い、いや私は……」


「いいからいいから」


 ローレルは私から強引にスポンジをひったくると、立ち上がってバスチェアに私を無理やり座らせる。


「お客さん、かゆい所はありませんかー?」


「それは美容院な?」


 お風呂でそれを聞くと、いけないお店にいるような感じになるだろ。


 ……いや知らんけど。


「アヤメさんは運動部ですか? 筋肉ついてマスね?」


「筋トレしてるからね」


 ……あれ?


「お姉さん美人ですよね? モデルとかなさってマス?」


「いや、だから何で美容院……」


 まて、これ勝手に私が彼女の事を敵認定して会話してないか?


 よく考えたら、彼女は私の護衛のためにここに来ているはずで、そんな人に対してこの対応は、ただただ失礼なのでは?


 そもそも同い年の中二の少女が護衛っておかしくないか?


 ……まさか、これって完全に別件か?


「お、おおお姉さん……おおおっぱい大きいですよね?」


「いや、突然どうした?」


「すす少し、ももも揉んでも――」


「ダメです」


「あら残念」


 ……何なんだよホント。


 それはそうと、やっぱりこの場で少し鎌をかけて置くべきか?


 いや、この場で無くても、後で防音室に呼んで話した方が危険は無いか?


 そんな事を考えつつ、私達は二人で髪を洗い始める。


「このシャンプーお高いんじゃないデスか?」


「いや、知り合いの美容院で安く売ってもらってるやつだから、そうでもないよ」


「やっぱりアヤメのような美人ともなると、行きつけの美容院があるんデスね」


「……誰でもあるんじゃないかな?」


 この会話……。


 ……何か私、めっちゃコミュ障の人みたいになってね?


「じゃあ、いっしょに湯船につかりましょうアヤメ!」


 そしてトリートメントを終えるなり、そんな事を言ってくる。


「じゃあって、唐突だなぁ……てか、やっぱりローレルは日本の事めっちゃ知ってるよね?」


「ふふふっ」


 不敵な笑みを浮かべて、彼女が湯船の仕切りを跨ぐ。


 ……足なっが!?


「ほらアヤメもこっちへ」


「はぁ……」


 そう言って手招きする彼女に吸い寄せられるように、私は同じように湯船に片足を突っ込む。


 ……あれ、こう見ると私も足長いな。


「いっせーので浸かりましょう!」


「はぁ……」


 無邪気な彼女を見て、なんか今まで私が悪い事をしていたような気分になって来た。


「じゃあ行くよ猫猫? いっせーのっせっ!」


 ザバーー!!


 私達が同時に湯船につかると、お湯が溢れて洗い場へと流れる。


「うふふ……これ、やってみたかったんですよねー」


「はぁ……」


 ちょっとノリが悪かった気もするが、今更ここでウフフフフとか言い始めるのもキモいだろう。


「……あっ。ローレル、髪」


 ローレルの長い金髪が湯船に浮いているのを見て、私は母の使っているヘアコームを手に取る。


「あらアヤメさん。優しいっ!」


 そう言いながら髪をまとめるローレル。


「そのままじっとしてて」


 私はローレルの髪をコームで束ねようと、彼女に顔を近づける。


 近くで見ると、なお更、同じ生き物とは思えない様な造形をしている。


「ふふふっ」


 私が髪に手をかけると、何故か彼女が小さく笑う。


 そんなに私の顔がおかしかっただろうか。


 ぎゅっ。


 !?


 急に彼女が私に抱き着く。


「え? ……は?」


「ふふふっ……猫猫ちゃんカワイイ」


 はわわわわわわわっ!!


「ちょ……まさか、あんたの方がそう言う……」


「? それはどっちの意味かなぁ?」


 いいい……意味が分からない。


「い、いいぃい!?」


「ううん? 何? もしかして期待させちゃった?」


 私は今、どんな顔をしている!?


「うふふっ。真っ赤になって、ちゅーしちゃおっかなぁー?」


 そう言いながら、どんどん彼女の顔が私に近づいて来る。


「や……やみぴっ!」


 やみぴって何語だよ私は!


「ぶちゅちゅちゅちゅー!」


 ローレルの艶やかな唇が目の前にっ!


 私は思わず目を閉じる。


「ちゅっ!」


 ビクッ!


 おでこに柔らかい感触があり、私は肩を震わす。


「…………?」


「なるほどね……話には聞いてたけど、なかなかだね」


 急にトーンが少し低くなったローレルの言葉に、私はゾッとする。


「……ん……待て、あんたさっき私を何て呼んでた??」


「ね・こ・ね・こ……ちゃんっ!」


 私は驚いて、咄嗟に彼女を突き飛ばす。


 ゴンッ!!


 その反動で私は思い切り後頭部を壁にぶつける。


「痛ってぇええ……」


 クソ……またかよコレぇ……。


「ゴメンゴメン! ちょっと意地悪しすぎちゃったっ!」


「お前ぇ……何者だっ!?」


 私は彼女を睨みつけるが、彼女は私を拝むようにして、てへぺろとあざとく舌を出して謝っていた。


「ちょっと大丈夫!? すっごい音したけど!?」


「スミマセン大丈夫デス!! ワタシがこけて尻もちついちゃって!」


 外から聞こえた声に、ローレルが答えた。


「ええっ……本当に大丈夫? ケガ無い?」


「無いです! ちょっとはしゃぎすぎちゃって、本当にスミマセン!」


「そう……仲良くなってくれたのはいいけど、ほどほどにね?」


 そのまま母の気配は消えていく。


 私は逃げられぬことを悟り、湯船の中で体育座りで丸くなった。

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