夢で遭えたら 1
「キッショ!! 運営から優遇されていい気になってんじゃねぇぞメガネ!!」
「はぁ? それはサンさんも一緒だよね? あなたが自分でアクセサリーばっかり買ってたから負けたんでしょ?」
「ウッザッ!! そんなんだからモテねぇんだろこのクソ地味メガネ!! ババアみたいな服着やがって!!」
「これは目立ちたくないから、あえてこんな服を着てるんですー! それに私がモテないのは高根の花っぽい雰囲気だからですー!」
「どうしたんでゴザルか! いつもの猫猫殿はそんなこと言わないでゴザル!!」
「プッ。自分で高嶺の花とか、どんだけ自分に自信あんだよナルシストか?」
「あなたよりマシでしょ? それカワイ子ぶってるつもりなの? 言っとくけど普通にキモいからねそれ?」
「おめーもだろ! その口調、自分は大人ぶってるつもりなのかもしれないけど、ただのクソ生意気なマセガキにしか見えねぇからな? あとカワイ子ぶりっことかいつの時代だよババア!!」
「てめーがガキすぎるだけだろ? 本当に中学生?? イタすぎなんだけどぉ??」
「その言葉そっくりおめーに返してやるよ!!」
「喧嘩は駄目でゴザル!! 落ち着くでゴザル!!」
「お前もだぞスイクン!! ポケ〇ンみたいな名前しやがって!! 正義の味方ぶってる癖に、毎度先陣切ってんのは私なんだよ!! 言うだけなら誰でも出来るんだよザコ!!」
「ひ、酷いでゴザル猫猫殿……」
「ゴザルゴザルゴザル!! 何なんだよそのRPはっ!? 面白いと思ってやってんのか?? あぁ!?」
「…………」
「あー! また猫猫が女を泣かせたー!!」
「この程度で泣くのが悪いんだよ!!」
「わざと泣かせてるんだろ? 知ってんだよおめーが可愛い女の子が酷い目にあってる漫画が大好きなのをさ!!」
「……っ!! でもそれは二次元の中の事だからっ!!」
「更に百合好きでブラコン!!」
「べ、別にいいだろっ!! 人に迷惑かけてるわけじゃねんだから……!!」
「ふーん? でもあなたのお兄ちゃんが知ったらどうかなぁ?? 防音室のキャビネットの中、見せられるの??」
「はぁあっ!? ななな……何でそれを知って……」
「それ見て一体、何をして――」
「うぉおおおおおおおお!!!!」
バキッ!! ボコォ!! ドカッ!!
「きゃぁあ!! や、やめてっ!!」
ゴッ!! ゴッ!! バキャァッ!!
「ぐげっ! ぶぴぃっ! ぷぴっ!」
ピピピピッ ピピピピッ
「ままま、それはマズいでゴザルよ猫猫殿っ!!」
「うるせぇえ!! 放しやがれぇ!!」
「うわぁああッ!?」
ゴッ!! ゴッ!! ゴッ!!
「…………う」
ゴッ!! ゴッ!! ゴッ!!
「――――こ?」
ゴッ!! ゴッ!! ゴッ!!
「――猫猫!!」
――――――――
――――――――
ハッ!?
「猫猫っ!! もう起きる時間だにゃ!!」
…………ゆ、夢か……。
私の目の前に、目覚まし時計代わりのテルみんの黒い顔が見えた。
ピピピピッ! ピピピピッ!
そして、私の横ではスマホのアラームも鳴っていた。
「大丈夫にゃ?」
「……酷い……夢を見た」
朝まで仮眠を取るつもりだったのだが、どうやら目覚ましでも起きないくらい爆睡してしまっていたようだ。
「かなりうなされてたけど、どんな夢を見たにゃ?」
「……それを私がお前に話すと思うか?」
「使い魔は魔法少女のメンタルケアも担当してるにゃ? もしかしたら力になれるかもだから、気にせず話してみるにゃ」
「絶対嫌だ」
しかし、酷い夢を見た割には私は少しスッキリした気分だった。
それはおそらく、夢の中とは言え黄色をボコボコに殴る事が出来たからだろう。
現実では絶対に出来ないが、私が黄色を本気で殴りたいと思っている点において、それは間違いないのだろう。
何なら私は二度寝をして、またあの黄色の事を殴り続けてやりたい。
そんな事を考えながら、私は大きく伸びをした後、ようやくスマホのアラームを止める。
アラームが鳴った後に目が覚めたのは、一体いつぶりだろうか。
私はベッドから降りると、顔を洗いに洗面所に向かおうとする。
「……待てよ? テルみん。今日、私は結局どうすればいいんだ?」
そう言いながら、背後のテルみんを振り返る。
「まだ連絡。来てないにゃねぇ……」
マジかよ……ふざけんなよあいつ等……。
バタバタバタバタッ!!
私がどうすべきか考えていると、階段を駆け上がって来る足音が聞こえた。
この音は、恐らく母のものだろう。
私が起きてこないから呼びに来たのだろうか?
しかし、まだ投稿時間にはかなり余裕がある。
それに、なんだか普段より足音が慌ただしい気がする。
コンコン。
「彩芽ちゃん? 起きてるー!?」
いつもより少し焦った感じの母の声が、扉越しに聞こえる。
「うん! 起きてるよ?」
「開けるよ?」
「うん!」
私がベッドに腰掛けて待っていると、開いたドアの隙間から母が顔を覗かせる。
「あのね、今日の学校。お休みになったみたい」
……え?
「何かね、不審者が校内に侵入してたとかで、それを調べるために今日一日、学校を休校にするんだって?」
……マジか。
「分かった」
私はどう言えばいいか分からず、とりあえず適当な返事を母に返す。
「あ、あと、もうご飯できてるけど、どうする?」
「ああ、すぐに降りるね?」
母は頷いて扉を閉めると、階段を降りていく足音が聞こえた。
「まさか……そういうことか?」
そう呟いてテルみんの方を向くと、テルみんが首を傾げる。
「どうなのかにゃ? まあ、とりあえず休みになったんだからいいんじゃないかにゃ?」
とぼけているのか本当に分からないのかは分からないが、連絡が来ない事にはどうしようもないので、私は予定通り顔を洗いに一階を目指した。
――――――――
――――――――
顔を洗って食卓に着くと、既に父がそこでパンに齧りつこうとしていた。
「おはよう彩芽。学校、休みになったらしいな?」
「うんおはよう。なんかそうみたいだね」
朝の挨拶をしながら私は父の斜向かいの席に腰を下ろす。
「母さん? 学校って何か言ってた?」
「警察に届けて、ちゃんと調べてもらってるから安心してって言ってたよ?」
フライパンに目をやったまま、母が答える。
今の所、一切の情報が無い事になる。
「彩芽ちゃん? ちょっと菖太を起こして来てくれる?」
「うん。分かった……って、もう起きて来たわ」
「おはよー……」
欠伸をしながら、弟が廊下からダイニングに入って来た。
「おはよう」
「おはよう菖太。顔洗った?」
「……まだー」
そう言って洗面所に引き返していく弟。
私は母に配膳された食事を黙々と食べる。
『――昨日未明。H市H町の工場で爆発事故があり、そこで女性と見られる遺体が発見されました』
「またか……。どうしたんだ最近は一体……」
「えー? また誰か死んだの?」
弟がそう言いながら私の隣の席に座る。
『女性は持ち物から、市内の中学に通う生徒と見られ――』
…………。
「夜中に中学生が工場なんかで何をしてたんだ?」
「うーん……まだ何にも情報出て無いなぁ……」
「だから食事中にスマホいじるなって言ってるだろ?」
中学生……工場……。
……いや、まさかな。
魔法少女になってからと言う物、若い女性が死んだニュースを見る度に、私はそんな事を考えてしまうようになった。
ほとんどは全く関係がない物だとは思うが、もしかしたらこの中に、魔法少女として殉職してしまった人間が含まれているんじゃないだろうか。
他の魔法少女の反応を鑑みるに、恐らくそれは、私たちに知らされることはないだろう。
「えー!? 姉ーちゃん学校、休みになったのぉ!? ずっるぅー!!」
母から私の通う中学校が休校になった事を知らされた弟が、そんな事を言い出す。
「夏休みが減るだけで、休みの量は変わらんよ」
私がそう言っても、ブツブツと文句をたれる弟。
しかし、休みと言っても私にはやる事が幾つかあるんだよな。
あのボツになった曲の事もあるし、魔法少女の仕事や大会についても考えたい事がある。
あと、保留になっているスキルポイントも、使い切って置かないと、いざという時に後悔するかもしれない。
今日のあれも、ちゃんとスキルを取っていれば誰も怪我せずに済んだかもしれないのだ。
そう思うと、自分の貧乏性のせいであんなことになったのに、後悔の念が湧いて来る。
……よし、今日は思い切って、午前中は魔法少女の事に時間を割くことにしよう。




