夜の労使2
ガンコさんへの説明はかなりあっさりしたもので、実際に目で見ていた私からすると説明不足も甚だしかった。
もし自分が彼女の立場だったら、間違いなく納得できないだろう。
実際、ガンコさんは直前の記憶が無いみたいだったが、それでもなんとなく納得できていないような表情に見えた。
「猫猫ちゃんありがとう。覚えて無くてゴメンだけど、なんか助かった」
私に助けられたと知ったガンコさんが、私にお礼を言う。
「いえ、全然気にしないで下さい。私も無我夢中で全然覚えて無いので」
私は魔法少女管理課の話に乗る形で、そんな曖昧な返事をする。
それは何か、私が魔術師協会とやらの側になってしまったようで、非常に気持ちの悪い物だった。
それに、そもそも彼女は私の流れ弾に当たってしまった可能性が高い。
つまり、私のせいで……というか、相手のそもそもの標的が私だった場合、完全に彼女は巻き込まれた形になるのだ。
「本当に赤色先輩や後輩ちゃん達は大丈夫なんですよね?」
彼女が女性に尋ねるのを見て、ふと私は自分のスマホを取り出す。
これで連絡を取ってみればと思ってチャットアプリを開いてみると、そこで驚くべきものを見てしまった。
『スイ:猫猫殿なにがあったでゴザルか? だお丈夫でござるか??』
『スイ:大丈夫の五時でゴザル』
『スイ:誤字』
『スイ:もし気づいたら返信下さいでゴザル』
『スイ:赤色先輩もガンコさん殿から返信が無くて心配しているでゴザル』
『サン:猫猫タヒんだ。黄色のババアもタヒんだ・゜・(ノд<)・゜・ ウェーン』
『スイ:たひんだとはどういう意味でゴザルか?』
『サン:タヒの上に横棒を引いてみ?』
『スイ:そういう冗談は良くないでゴザル。実際はどうなんでゴザルか?』
『スイ:サン殿? 嘘でゴザルよね?』
『スイ:本当の事を教えるでゴザル!!』
『スイ:お願いでゴザル!! サン殿!!』
『サン:連投ウッザッ!! キモッ!! 嘘に決まってんだろハゲ!!』
……何をやってるんだこれは。
完全に存在を忘れていたが、ちらりと黄色の方を確認すると、確かに彼女はスマホを覗き込んでいる。
『スイ:流石にそうい冗談は看過できないでゴザル。サン殿はもう少し何か言う前に、本当にそれが他人を傷つけないか考えた方がいいでゴザル』
『サン:漢字ムズくて読めませーんヾ(≧▽≦)ノ』
『スイ:ついていいウソとわるいウソがあるでゴザル。あいてがどう思うかもっとよく考えてから話した方がいいでゴザル』
『サン:嘘に決まってんだろそれぐらい読めるわ説教ウザ』
『猫猫:ゴメン気づかなくて。私は大丈夫。ガンコさんも無事です』
『スイ:おお! 良かったでゴザル! 我々も全員無事でゴザル!』
これで双方の無事が確実に確認できた事になる。
「テルみん。これってもしかして戦闘中は通知が来ないのか?」
「正確にはゴーストフィルターオフ時は来ない設定になってるにゃ。その状態で通知が来るのは緊急アラートだけにゃ」
んもぉ……だーかーらぁ!!
「ガンコさん。もしかしたら赤色先輩から連絡が来てるかもしれません」
「あー。うん、ちょっと見て見るー」
これで赤色先輩のパーティーについては一件落着という事になるだろう。
しかし、こちら側はそうはいかない。
『サン:(この会話は削除されました)』
『サン:(この会話は削除されました)』
……って、これは一体何を送信したんだ?
「サンっ!! ダメだガウ!!」
「……チッ!!」
使い魔に注意された黄色が、大きな舌打ち……というか、なんか言葉でチッって言ったような気がする。
「そのチャット。使い魔がヤベーって判断したのは消されるからな?」
なるほど、そういうシステムになってるのか。
『猫猫:今度、何があったかは話すよ。』
『スイ:承知でゴザル! こっちはもう解散になる感じでゴザル!』
さて、こちらも解散になりそうな雰囲気ではあるが、私はどうしても確定させておかなければならない事がある。
「とりあえず私はどうすればいいんですか? こんな訳の分からない状態で学校とか行きたくないんですが?」
「ああ、そうよね。とりあえず明日中には対策を考えるから、明日は学校を休んでもらえないかしら?」
「どうしてもっていうならそうしますが……」
「申し訳ないけど、そうしてくれる?」
「一応私、皆勤賞なんですよね。内申点でマイナスになる分を保証してくれるなら休みますよ?」
私がこう言うと、女性がかなり複雑な表情をする。
「……ちょっと今は無理だから、少しだけ時間をもらえる? 登校時間までにはなんとかするから」
可哀想に。
これは残業確定だろう。
でも、私にとっては死活問題なので、何と思われてもこれは譲れない。
「猫猫ちゃん、めっちゃ頭いいらしいじゃん? 文武両道で才色兼備で、将来は一体何を目指してるんだ?」
「それもセクハラよ?」
「はぁ!? じゃあ何も聞けないじゃねぇかっ!!」
この男性は意図的なのか天然なのか分からない部分があるが、やはり私は少し苦手である。
「猫猫。もしこれから何か気づいた事があったら、些細な事でもいいから知らせて頂戴? 使い魔を通せばこちらに伝わる様にしておくから」
「分かりました。こちらからもどうか、私が健全な日常を送れるように宜しくお願いします」
しかし、これで彼らはどういった対策をして来るのであろうか。
まさか二十四時間監視が付くなんて事は無いと思うが、もしやっぱり無理だから休めと言われた場合、私はどう対応すればいいだろうか?
そんなの無視して学校に行きたい気持ちもあるが、彼らの心象を著しく損なう事になるし、何より万が一、死んでしまったら元も子もないだろう。
「女性はなにやら早速、どこかに連絡を取っているようで、スマホに指を滑らせていた」
時間は午前三時。
そう考えると、意外と時間は経っていないように感じた。
しかし、そろそろ家に帰りたい時間ではある。
そうなると、ここにいる大人は二人。
私は護衛が必須として、黄色とガンコさんはどうするのだろうか。
そして私は、ここである事に気づく。
「あれ? なんでガンコさんは変身が解除されて無いんだ?」
私の時は確か、変身が解除されてパジャマ姿になってしまっていた。
あれのせいで、パジャマが一枚ダメになってしまったが、その後すぐに使い魔が同じパジャマを持って来た。
……よく考えればあの転送の仕組みも中々謎が多いが、そこも後で聞いてみる必要があるな。
「それは猫猫の”魔導回路”がショックで一時的にクラッシュしたからだにゃ? これは一時的にスキルの出力が猫猫の持つ許容量をオーバーしたってことだにゃ?」
「そうならないために魔法少女のシステムとやらがあるんじゃないのか?」
「普通そうならないように設計されてるけどさ、いろんな状況が噛みあって魔力が限界突破することもあんのよ。猫猫ちゃんの場合は状況的に、自分の魔力が逆流してきた感じかな?」
「ボクが喋ってるんだから口を挟まないで欲しいにゃ」
まあ、捨て身で突っ込んで行ったんだから、そう言う事にもなるか。
私は自分の力を、かなり過信してしまっていたらしい。
「でも良かったわ。もう少し遅かったらあなた、死んでたわよ?」
「……え、私ってそんなにひどい感じだったんですか?」
「そりゃもう! オレは確実にもう駄目だと思ったね!」
「気になると思うけど、聞かない方がいいと思うにゃ」
「ちょっと、あなた達がそんな事言ったら逆に気にしちゃうでしょう?」
腸が出ていたとは聞いたが、まさかそんな大事になっているとは思いもしなかった。
そして奥で黄色がまたスマホをいじり始めたのが気になって、私はスマホに目をやる。
『サン:破裂したカエルみたいだったよ(ಠ益ಠ)』
『サン:腹から下痢みたいなの撒き散らしてたよクッサ!』
『サン:(この会話は削除されました)』
……おい、あいつの使い魔、フィルターガバガバじゃねーか。
てかあのライオン……絶対私の事嫌いだろ……。
「じゃあそろそろ、オレは猫猫ちゃんを送って行こうかな?」
「駄目。私が送って行くから、あなたは二人の事をお願い」
そう言って、また女性が私の事を送ってくれることになる。
「近づくなハゲッ!!」
「ま、まだ禿げてねーしっ!!」
そういえばこの人たちの名前を私は知らない。
尋ねたら教えてくれたりするのだろうか。
でも、あんまり事人達に深入りしない方がいい気がするので、もし次回合う事があれば尋ねてみる事にしよう。
まあ、会わないに越した事は無いのだが……。
気付けば曇っていた空に切れ間が出来て、そこからうっすらと月明かりが漏れて来ていた。
しかし、今日は明確に意味の分からない事が起きてしまった。
明日になったら、全部夢だったって事にならないかな?
・あとがき・
これにて三幕が閉幕です。
ここまで見て下さってありがとうございます。
可能であれば今週中に四幕の投稿を開始したいと思っております。
(確定ではありません)
これからも、当作品をよろしくお願いいたします。




