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夜の労使1

 私が見上げた先から、二人の人影が降って来た。


 その二人は無言で、私達を挟むように地面に着地する。


「また会ったな猫猫ちゃん?」


 そう言って挨拶してくる男は、先日トンネルで私と会話した男と同一人物だった。


「こんばんは。こんなに早く会えるとは思いませんでした」


「オレもだよ。何か、運命を感じるねぇ?」


 相手はそう言っているが、私としてはあまり会いたい人物では無かった。


 それはこの人たちが現れる時は私が危機に瀕しているからと言うのもあるが、この感情の大部分は、私がこの男に下着姿をモロに見られたと言う理由からだった。


「何があったの?」


 そう私に尋ねるの女性も、やはりあの時、私を治療してくれた女性だ。


「何かに狙撃されたにゃ。森の中から猫猫を的確に狙って来たにゃ」


 私が答えようとすると、それよりも先にテルみんがその質問に答えた。


「……それ、私宛に文章で送ってくれる?」


「おーけーにゃ」


 彼女は驚いた顔でそう言うと、スマホらしきものを取り出す。


 それは魔法少女の物と違って普通のスマホの様に見えるが、よく見るとカメラらしきものが見当たら無いので、おそらくあれも専用の特殊な物だと思われる。


「おーい、お前がやらないなら俺が治療するぞ?」


「ちょっと待ちなさい、まあ猫猫がいいならそれでもいいけど、嫌よね猫猫?」


「はい……いや、別にちゃんと直るなら何でも……」


「んじゃっ! 直しちゃおっ!」


「あんた、猫猫の最初の一言を聞いてなかったの?」


 女性にそうつっこまれるが、男性はそんなもの意に返さずに私の横でしゃがみ込む。


「ほらっ、腕見せてみ?」


「はぁ……」


 男性は見るだけではなく、私の腕を勝手に持ち上げる。


 私の抉れた手は、まるで寝る時に体の下敷きになっていた時の様に感覚が無かった。


「災難だねぇ猫猫ちゃん。仕事の度にこんな事になってさ?」


「全くですよ。何でこんな事になるのか、納得いく説明はしていただけるんでしょうね?」


「それは何があったのかはっきり分かってからよ。私達も救難信号を追ってここに来ただけだから」


 それに答えたのは男性ではなく女性の方だった。


 女性はどうやら、ガンコさんの事を治療しているようだった。


「前も思ったけど、猫猫ちゃん結構、筋肉ついてるよね?」


「だから止めなさい? あなた中学生相手にセクハラはシャレにならないわよ?」


「いや見たままを言っただけだって。そんなつもりねぇよ」


「世間ではそれをセクハラって言うのよ!」


 前も思ったが、二人はやり取りから、かなり仲が良いように見える。


 一体、どういった仲なのだろうか?


「ほうらこんな感じか? 猫猫ちゃん確認してみてくれ」


「ちょっと早くない? 本当にちゃんと直してあげたんでしょうね?」


 私はだいぶ気分が回復したので、上体を起こして建物に背中を持たれる。


 右腕は相変わらず粘土のような感覚だが、そこに目をやると傷はきれいさっぱり元通りになっていた。


「ありがとうございます。大丈夫です」


「ちゃんと確認した方がいいよ? 傷とか残ってない?」


 女性が、ガンコさんの方を見たまま私にそう言ってくる。


「少々、傷が残っててもいいですよ。見苦しくない程度であれば」


「何言ってるの。女の子なんだからそう言うのは気を使わないと!」


「心配しなくてもキレイに直ってるよ。オレが女の子をキズ物なんかにするわけ無いだろ?」


 そう言って男性は私の腕をさすって来るが、率直に気持ちが悪いのでやめて欲しい。


「あの、それはいいんですが、私たち以外がどうなったのかって分かります?」


「アカイロ達のパーティーは無事に離脱できたことが確認できてるから、心配はいらないよ」


 その女性の言葉を聞いて、私は一安心する。


 しかし、まさか私を安心させる嘘だとは思わないが、私の中でこの人たちの信頼度が低すぎて、どうしても少しの疑念が残ってしまう。


「今回はついに幽霊じゃないも(・)の(・)から攻撃されたんですが、あれに関して少しでも心当たりは無いんですか?」


 使い魔の話を聞く限り、彼女達にも期待は出来ないが、私はダメもとでそれを尋ねてみる。


「さっきも言ったけど、情報がまだ全然ないのよ。気持ちは分かるけど、情報は追って知らせることになると思う」


「あれがもし”人間”だとしたら、私はおちおち外にも出られないと思うんですが、どうすればいいんですか?」


 私の言葉で驚いたように、二人が顔を見合わせる。


「人間ってマ?」


 男が私に尋ねる表情は、本当にそれを知らなかった人の顔だった。


「……一番最悪なやつね」


 どうやら彼らが状況を把握していなかったのは事実みたいだが、何やら心当たりはありそうだった。


 私は彼らが素直に顔に出したのが、かなり以外で驚いた。


「よし、ひとまず治療は大丈夫」


 女性はそう言うと、急いで自分のスマホを確認する。


「あなたにも送っておくから、目を通しておいて?」


 男性はそれを聞いて、自分のスマホを取り出す。


「そんな大した内容じゃないにゃ?」


 その大したと言うのは、事の重大性ではなく情報量の意味だろう。


「なるほどね、確かにこれは……」


「人(・)っぽいねぇ」


 二人は誤魔化すこともせず、そう口にした。


「でも、動(・)画(・)だと完全に不意打ちをしたように見えるが、良く反応できたな猫猫ちゃん?」


「はあっ!? 動画??」


 そのワードが聞こえて、私はテルみんの方を見る。


「動画って言っても、見たまんまじゃなくて相手と自分の位置情報を知らせるような簡易的な物にゃ」


 コイツ、そんな事が出来たのか……。


「本当にこれ……何で気づいたの?」


「何か一瞬、寒気のようなものを感じたんですよ。殺気って言うんですか?」


「あーなるほど。魔法少女のシステムが相手の魔力に反応したのか」


「それでもすごいよ。それが反応するのかは、猫猫自身がそれを警戒してるかどうかだもの。テルミドール、ちょっとその時の猫猫の感知情報をくれる?」


 確かにあの時、再三の災難を受けてまた悪霊の襲撃を受ける可能性を警戒していたが、それが功を奏したのだろうか。


 もしあそこで私が気を抜いていたと考えるとゾッとしない事だ。


「テルみん。そういう機能があるなら予め教えといてっていっつも言ってるよな?」


「細かい機能をいきなり全部説明しても混乱するだけにゃ?」


「それでも知ってるか知らないかだと大違いだろ?」


「選択肢を増やす事が必ずしも正しい判断に繋がるとは思わないにゃ?」


 何でこの猫は毎度毎度、私の言う事に反発してくるんだ?


 本人が教えろと言ってるんだから、素直に教えてくれればいいのにさぁ……。


「使い魔と口論なんて不毛な事だぜ?」


「最初も言ってたけど、それ、あなたが言うの?」


 これは設計者に私からもクレームとやらを付けたい物である。


「まあでも、使い魔は一応、意地悪ではそう言う事をしないはずだから、端から全否定するようなものでもないよ?」


「そうだにゃ! もっと言ってくれにゃ!」


 いや、それはぜってー嘘だね!


「でもどうすんの? 猫猫ちゃんを襲ったのが人間だったら、かなりマズい事になると思うけど?」


「逆にあれが人為的じゃない何て事あります? どう考えても遠距離から私を狙撃して来ましたよ?」


 テルミンにははぐらかされたが、そもそもはぐらかしている時点で私に隠している事があるという訳だ。


 今回はどんな手段を使ってでも、絶対に情報を聞き出してやる。


 全く、なんでもう魔法少女について深堀しないと決めた端から、こんな事になるのだろうか。


「実はね……あるんだよねその可能性」


 あれー??


「まずキミ等が相手にしてる幽霊って存在なんだけど、あれって人間の魂が上手く浄化されずにこの世に留まってるものなんよね」


 なんか講義が始まりそうな予感がするが、その辺も興味があったので私は男性の次の言葉を待った。


「理屈は置いて置いて、その魂の強度や何か強い執念みたいのがあると、それが悪霊になったりするんだけど、ごく稀にそれが”精霊化”することがあるんよ」


 また聞き慣れない単語が出て来たな……。


「幽霊と精霊の区別って、正直めちゃ曖昧ではあるんだけど、オレ達の言葉では、ある程度人間と意思疎通が可能な程度に明確な意思を持った霊の事を”精霊”って呼ぶ事になってる」


「例外もあるから、話半分にでも聞いておいて?」


 なんか今回は、妙に親切にそれを教えてくれているが、それは私が知ってもいい情報なんだろうか。


「んで、その精霊とか強力な悪霊って、ある段階になると”実体化”して、まるで生物の様に振舞う事があるんだわ」


「まさかそれが、今回私を襲ったって言うんですか?」


「可能性はゼロじゃないってだけで、ぶっちゃけその可能性は低いと思うけどね?」


「そう言うのを”妖怪”とか”大精霊”って言ったりするんだけど、実はこの世界って幽霊がそこまで成長しにくいように対策がされているのよ」


「ただその弊害として、弱い幽霊自体は発生しやすいから、魔法少女がそれを掃除するような仕組みになってるんだなー」


 ついに私達が幽霊退治をさせられている理由が判明した。


 一体どういう理屈で、私達がそれをやらされているのかは理解できないが……。


「だったら、最初からそう教えてくれればいいじゃないですか……」


「キミはもうだいぶ知ってしまってるからここで言ったけど、普通は魔法少女にこんな話せんのよ? しょっぱなこんな話したら、普通の女の子は混乱するだろ?」


「それに最終的に、かなり面倒な事になるからね。実際この前の後も、私達の間でも結構揉めたのよ」


 やっぱり聞けば聞くほど、魔法少女の存在に関して疑問が湧いて来る。


「ではそこまで教えてくれたのなら、何で私が人間に襲われる可能性があるのかも教えてくれますよね?」


「うーん。それはちょっと無理かなぁ……」


「これは根幹に関わって来る問題だから、ちょっと慎重に回答させて頂戴?」


「納得できませんよ! だって――」


「うぅう……うぅん……」


 !?


「お、気が付いたか?」


「大丈夫ガンコさん?」


 クソ……何でこのタイミングで……って、今私、すっごい最悪な事を考えてしまっていた。


 彼女が目覚めたことに関しては、喜ばしい以外の理由が無いだろ?


「……あれ、ここどこ? あたし……」


「大丈夫。ここは安全な場所よ」


「……え? あなた誰?」


 私と彼等との問答は中断され、目を覚ましたガンコさんに、女性は今までの事を説明し始めた。

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