中学二年生3
今日は曇っていて、いつものように高度を上げることが出来なかったので、分かっていても地上の誰かにバレやしないかと少し不安になる。
現場へ向かう道中……いや空中、私は先輩二人と雑談をしながら過ごしていた。
「なるほどね。猫猫ちゃんは大会にあんまり乗り気じゃないんだ?」
「まあそうですね。他の二人が乗り気なので、あんまり言うとゴネてるみたいでちょっと感じが悪いんですが……」
「まあ仕方ないよー。あたしも去年受験だったからかなり悩んだしねー」
という事は、ガンコさんは今、高校一年生か。
「わたしも一緒で、こっちは一昨年に出てるし、なんならコイツと一緒に飛ぼうかと思ってたけど、当時のリーダーがゴリゴリな女で、それに押し切られたんだよね。あ、ガンコちゃんとは前も同じパーティーだったんだ」
「ちなみに、あたしら同い年ねー」
えらく先輩にフランクに話しかけると思ったら、そういう事だったのか。
「でも、あたしは出て良かったと思ってるよー。自分以外にこんなに魔法少女がいるんだってのが分かって心強かったし」
私もそれに関して興味が無いと言ったら嘘になる。
「猫猫は頭良さそうだけど、いい学校を受験するつもりなの?」
「まあ、ある程度の所を受けようと思ってますが、忙しいのはそれとは別の理由ですね」
赤色の質問に答えると、予想通り「じゃあそれは何?」みたいな顔を向けられる。
「家の手伝いって言えばいいんですかね? あんまり人に言う事では無いんですが、今、けっこう大事な時期で……」
「あー……なるほど」
嘘は言っていないが、これを言った事で少し変な雰囲気になってしまう。
「いや、全然深刻な感じではないんで……。でも、スイさんには言わないで下さいね? 多分、すごい気を使うと思うんで」
「おーけー」
おそらく私がこれを言ってしまうと、スイクンは確実に諦める選択をとると思う。
しかしこれは私の思う所では無いので、家庭の事情と言うのは黙っているのである。
「……サンさんもこれは黙っておいてね? あなたは出たい側でしょ?」
万一もあるので、私の真後ろを飛んでいる黄色にも釘を刺しておく。
サンは無言モードに戻っていて、私からプィっと顔を逸らす。
「でも、お二人は今年は出ない感じなんですか?」
なんかそんな雰囲気を感じたので、私はそれを二人に聞いてみた。
「なんか、後ろの二人があんまり乗り気じゃ無いみたいんだんだよねー?」
「使い魔の話だと、年々そんな傾向らしいよ? なんか大人が最近の若い者はって言いたくなる理由がちょっと分かったわ」
乗り気じゃない自分が言うのもなんだが、α世代の波が魔法少女の大会にまで波及しているとはなかなか興味深い事実である。
「部活でも、けっこう成績いいのに大会出たくないってやついて私は信じられんかったけどね」
「それは意味分からんですけどー、あたしたちの親の世代とか、中学生は全員部活はいらないといけないみたいな感じだったんですよねー?」
「私その大会出たくない奴ですね。まあ無理やり出させられるんですけど……」
「えー? 出たくないのに、部活には入ってるの?」
「出なくていいから席だけ置いてくれって言われて……。まんまと騙されましたよ」
「はははっ! まあ猫猫は何でも出来そうだしね」
話が脱線してそんな事を話していると、私達の後ろからも楽しそうな笑い声が聞こえて来た。
「それでねっ! その中のLilasって人がカッコよくて!」
!?
「えー私もっ!!」
「ほぉ……そんなに人気何でゴザルか?」
「何で知らないのぉ!? めっちゃ色んなとこ出てるじゃん!!」
何やら、アイドルの話でキャピキャピしている感じだ。
二人の緊張は解けたようで、今はむしろかしましいレベルで大きな声で話している。
「リラってBlüteのLilasの事だよね?」
「あーめっちゃ人気ですよねー。でもあたしは逆に人気すぎてMACCHANの方が好きなんすよー」
「逆張りで草。顔だったらLilas一択だろ!」
「顔と言うか、あの人完璧すぎるんですよー! だから一番歌がヘタクソな松っちゃんが一番かわいく見えたんすよー!」
「えー? てかガンコってアイドル好きだったん? 意外だわ」
後ろの話が伝播して、こちらでもアイドルトークが始まってしまった。
「いっやー。実はその通りで元々あんまり興味なかったんですよねー。でも部活の友達がガチオタで、それに影響されたっつかー」
「わたしはゲーム一筋だからアイドルは全然だわ。でも、あの人らの曲は好きかも。何だかんだ新曲出たらユアチューブで聞いてるし」
「それそれー! あたしも押し付けられた当初は面倒だったんですけど、曲がバチクソに良くてー!」
「今じゃChikTakでもウザイぐらい流れてるし、店入ったらどこでもかかってるしね」
「しかもあれ作ってるの高校生って噂っすよー? 何だっけ……ディアブロだっけ?」
「DearBrother。略してディアブラね。高校生でどんだけ儲けてるんだよって!」
「ちゃんと知ってるじゃないすかー! つか気になるとこそこなんですか?」
「猫猫はアイドルとか興味……え? ど、どしたん?」
「えっ!? いや、私も好きですよBlüte!!」
私の顔を見た二人が、不審な顔をして顔を見合わせる。
「……汗やば……そんな暑い? 今日……」
「いっやぁー! 汗っかきなんすよ自分っ!!」
「……ぶっ!!」
後ろから黄色の吹き出す音が聞こえる。
一体、今のを見て何が面白いと言うのだろうか。
「……ま、まあいいか。もし体調悪かったら言ってね?」
かなり不審に思われたが、この場は何とか乗り切ったか?。
しかしマズい……。
薄々思っていたのだが、魔法少女はちょっとした変装をしているとはいえ素顔を晒している事には変わりない。
普段の生活の中で、いつどこで彼女達とばったり出会うとも限らないし、なんなら知り合いが魔法少女になっている可能性も否定できないのだ。
目立ちたくない……いや、目立ってはいけない私にとって、やはり多くの魔法少女が集う新人戦というのは危険なのでは無いだろうか。
……てか、負傷した魔法少女を別の魔法少女が家まで送って行くみたいなことを普通にしていたが、あれって大丈夫なのか?
「さて、そろそろ現場に着くよ。フィルター解除しといて」
赤色が後ろを振り返って、全員に声をかける。
「そこまで危険な場所じゃないけど、気は抜かないようにね? あと、広いから勝手に行動して迷子にならないように」
そう言って赤色は、山の上の電波塔あたりに向かって高度を落としていく。
この辺は一体どのあたりだろうか?
周囲は山ばかりで、詳しい場所を特定できるようなものは何もない。
ここが心霊スポットとかなら黄色が何か知っているかもしれないが、どうせ後で解説があるだろうし、彼女に尋ねるまでも無いか。
とりあえず今は、今回は何事もなく仕事を終えられることを願おう。




