中学二年生2
「若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って私は深々と腰を折る。
「……あなた、本当に新人だよね? 高校生?」
「あ、いえ。中学二年生です」
「ええっ!? うっそぉガチ?」
二人の先輩魔法少女の目線が、顔から胸の方に下がって行く。
「猫猫殿、二年生だったんでゴザルか!?」
「え? それはどういう……」
「てっきり三年生とか……年上だと思ってたでゴザル」
……あれ?
「あの、魔法少女のスカウトされる年齢って、もしかして固定じゃないんですか?」
「あぁ。そうだね、わたしも詳しくは知らないんだけど、大体、中学一年生か二年生な気がするね。たまに高校生もいるみたいだけど……」
へー、そうなのかー。
「二人はいくつなの?」
ガンコさんが自分のパーティーの二人を振り返って尋ねる。
「私も中学二年生です」
「えっと、三年生……」
ラベンダーが二年生で犬耳が三年生か。
犬耳はかなり幼いように見えるが、私より年上なのか。
てか、三年生って受験が有るのに魔法少女させられるのは少し酷なのではないだろうか。
「ゴメン……年上だったんだ。ため口で喋っちゃって……すみません」
「い、いいいいのっ! 全然気にしないで!」
ラベンダーと犬耳が後ろでそんなやり取りをしているが、私とスイは自然と目線が黄色の方に向く。
「…………」
無言である。
彼女は人見知りしているのか、私の後ろで完全にモジモジモードに移行してしまっているが、行動はともかく体は私ほどではないにせよ、発育は良い方な気がする。
……年下……いや、まさかの年上って可能性は無いよな?
「猫猫ちゃん、身長も高いよねー?」
そんな事を考えていると、ガンコさんが私の事を眺めながらそう言ってくる。
「あー……168ですね……一応……」
「ひえぇ……拙者より二十センチ以上高いでゴザル……」
多分みんな悪気は無いんだろうが、あんまり私の容姿に対してフォーカスをしないでもらいたい。
「それ絶対170行くじゃん」
「……そうですね。男子からめっちゃヘイトがすごいです。はは……」
「ヘイトって、むしろモテモテなんじゃないの? あたしなら即ハボだわ!」
「先輩下品……つかそれ、いつのスラングっすかー?」
これには流石の私も苦笑いである。
「そっちのイエローの子は何て名前なのー?」
私が苦笑していると、それを察したのかガンコさんが黄色に尋ねた。
しまった、ちょっと嫌がり方が露骨すぎただろうか。
「…………」
しかし、やはり黄色はこんな感じで、一切それに答えるそぶりはない。
「緊張しているのかな? 時間はあるから落ち着いて?」
赤色がそうやって優しく促すが、結果は言わずもがなである。
「大丈夫だって。名前だけでもいいから」
「ちょっと先輩。あんま言うと委縮しちゃいますよぉ」
やり取りを見ていると、赤色とガンコちゃんは割と気の置けない中に見える。
もしかしたら、前のパーティーからのスライドなのだろうか。
「サンさん。このままだと名無しの権瓶って名前になっちゃうけどいいの?」
私が代わりに紹介してもいいのだが、あの使い魔のライオンもそれをやったのは最初の頃だけだった。
その意図を考えるなら、おそらくここで私がでしゃばるのは違うと思う。
「……今……猫猫が言ったじゃん」
「そう言う問題じゃないでしょ? さっきの威勢はどこいったの?」
「…………」
こりゃあ厳しいな……。
「まぁ、もう少しなれたら心を開いてくれるんじゃない?」
「……あれやってくれたら言えるも」
?
「あれ?」
私は思わず聞き返す。
「……あれだよ」
そう言って黄色は自分の体の前で両手でグーを作る。
「……にゃんにゃんにゃん」
ぼそぼそとそう言ったかと思うと、上目遣いでまた邪悪な笑みを私に向ける。
「……言ったな?」
カチンと来た私は同じような笑みを彼女に返す。
そして私は、ふぅと小さく息を吐く。
「サンちゃん! そんなんじゃダメだよぉ! ほらぁ! ちゃんとみんなの前で自己紹介しないとぉ!」
私は精一杯の萌え声を作ってそう言うと、先輩二人の方に向き直る。
二人は呆気にとられた顔をして、私の顔にピントを合わす。
「じゃあ私が見本を見せるね! 私は魔法少女、高速☆猫猫!! 猫の国からやって来た猫のお姫様だにゃん! みんな、よろしくにゃんにゃんにゃん☆彡」
眼前の四人が、何をやってんだコイツみたいな全く同じ表情でそれを見ていた。
これが不正解だった場合、私はとてもいたたまれない気持ちになってしまうだろう。
「ほらサンさん。やったぞ? 今度はお前の番だ」
「え? キモっ」
本当に気持ち悪い目を見るような表情で、私の方を見る。
「お前……嘘を吐いたな?」
もしこれ以上、黄色が強い言葉を使ったら、もしかしたら私は手が出てしまうかもしれない。
「は? ちげし?」
そう言って黄色は一歩前に出て来る。
「猫の国ってどこのVチューバーだよドヘタクソ。それはこうやんだよ!」
そうやって黄色はスマホを天高く掲げる。
「『マジカルスマートフォン! スパークルぅ・アッップ!!』」
シャラリラリラリン☆彡
「ホップステップ! つき進め夢を乗せて! 太陽の魔法少女、サニー・ダンデライオン!!」
キランリン☆彡
「……それが出来るならさ、もうそう言う無言芸やめて最初からそうしない?」
「黙れカス」
そう言ってすぐに彼女はまた、私の後ろに回り込む。
「あなた達、なかなかおもろいねー!」
ガンコちゃんが小さく拍手をしながらそう口にする。
「今のどうやったの? その光る奴……」
赤色は黄色がやったキャリブレーションの方に興味津々のようだ。
しかし、彼女の後ろの新人二人は、依然ドン引きしたままである。
「そのコミュ力を拙者に少し分けて欲しいでゴザル」
「いや、これはコミュ力と言うか……むしろスイクンはそのままで十分だから」
これは私の本心である。
むしろ、今スイクンがやっているポジションこそ私がやりたかったのだが、どうしてこうなった……。
「じゃあそろそろ現場に行くかね」
「いや、先に今日の予定を話しといたほうがいいんじゃないんですかー?」
「ああ、そういやそんな話だったな……」
「しっかりして下さいよもー……」
今まで変な魔法少女ばかりを見てきたせいか、こういった普通の感じに逆に違和感を感じるようになってしまった。
といっても彼女達意外にまだ五人しか会っていないのだが、あの三人と私のパーティーの二人があまりにもキャラが濃すぎた。
「なんか珍しく本部から具体的な指示が来てね。あなたたちに普通の魔法少女の仕事を見せてやって欲しいらしい」
なるほど、最初のオリエンテーションが失敗したから、そのやり直しをといった感じだろうか。
「まあ、といってもあたしたちも新しくチームを組んで間もないんだけどねー」
「だから、ゆるーくやってこうとおもってるんだ。途中でこの二人と入れ替わって貰おうと思ってるから、そのつもりで見ててくれればと思う」
そうこれだ。
こういうのが正しい指導と言う物である。
「よーし、じゃあこれで今度こそ現場に向かえるね?」
「いちいちあたしに尋ねんでくださいよぉ」
「んじゃ、現場向かうから、わたしたちの後ろに着いて来て」
赤色がそう言ってふわりと浮き上がると、それにガンコさんも続く。
私達も彼女に着いて、その現場とやらに向かった。




