不足で面倒 5
千香良は暫く考えてから父の話に頷いた。
けれども、気分は晴れてはいない。
(DNA鑑定って……?)
千香良は気になる……
けれども、父が隣に座られては、身動きが取れない。
気候が良ければ散歩にでも行くのだが……
外気は30度を越えている。
休日ぐらいはクーラーに浸かっていたい。
すると千香良のスマホから「チコン」とラインの着信音。
頃合いとばかりに父が立ち上がる。
「千香良は自分の事だけを考えていなさい…………」
そして、千香良の頭を軽く叩くと、リビングを出て行った。
【蘭々は何時からだ】
千香良は少し浮き足立つ。
今、噂をしていた渦中の人……
龍太からだ。
【土、日はAM11時~PM9時まで休憩無しで開いています】
『蘭々』は坦々麺が有名で現場でも話題に上がる。
けれども、龍太は行ったことがないようで、話に付いていけずにいつも悔しがっていた。
気晴らしに、思い立ったのかもしれない。
【坦々麺よりも、今の龍兄には湯麺です】
龍太は口の中も切れているようだった。
注意勧告を兼ねてのお薦めだ。
思春期の乙女の気分は些細なことで、上がったり、下がったり……
千香良は元気を取り戻す。
【了解 混む前に行ってくる サンキュー】
そして、千香良は早速、スマホでDNA鑑定を検索。
龍太からのラインで変なスイッチが入ったみたいだ。
千香良はあれこれと考えが止まらない。
早ければ2週間で結果が出るそうだ。
医者では出来ないらしいので、三上の父親が然るべき所に出すのだろうか……
オーストラリアにいる龍乙のサンプルは?
本当に大人達の考えはまどろっこしい。
こんな事なら初めから龍太と乙葵を会わせるべきだった。
挙げ句に果てに、今更ながら後悔しだす。
しかも、今度は乙葵が泊まる予定にしているホテルを検索。
先程の殊勝な考えは如何に……
再び寝転がる。
スマホで検索を始めると誰もが連鎖に陥る。
瞬く間にDNA鑑定からは懸け離れ、絡繰り人形に興味が移っていた。
時間などアッと言う間に過ぎていく。
その間に、父が店に戻り……
そして、今、母がダイニングに居る。
「千香ちゃん店からアマゴのマリネとマスタードと人参のポテトサラダをテイクアウトしてきたから、お夕食は、それと冷蔵庫に入っている枝豆のスープとラタトゥイユでいい?」
母が大きな声で聞いてくる。
「パンも買ってきたからね……それで乙葵さんは?」
千香良も頭の片隅では分っている。
高城と『鰻や』に行ったときも同じだ。
気分が晴れるもクソもない。
危惧、思案、憂慮も然り。
他人の心配なんて要所、要所に思い立つだけで継続しない。
自身の日常生活の方が大切なのだ。
『自分の事だけを考えていなさい』
父の言葉が身に染みる。
千香良は自分ことしか考えられないのだ。
「そうよ~千香良は何を言ったの、号泣しだしたでしょ。でも、泣き止んだ後は随分と落ち着いたみたいで、龍太さんとの経緯を話し出したのよ~懺悔って感じだったわ。中学時代は破茶滅茶だったみたいね……あれじゃ、パニックになるのも当然よ。一歩間違えれば龍太さんも、その鳶の人も、前科がついていたじゃない……軽い気持ちないんでしょうけど……お兄ちゃんも呆れていた。だけど、今は小学生まで、高校生って嘘ついて、年齢詐称する時代なんだって……インターネットも便利だけど子供って安易だから怖いわ」
乙葵の告白に母も高揚しているようだ。
話し出したら止らない。
「良かった……それで旅行はいつから行くの?」
「月曜日からって言っていたわ。長年の胸のつかえが下りたみたいで、サッパリした顔をしていたから、楽しんで来るんじゃない。クロワッサンも喜んでくれたわ。あの感じだったら、どう転んでも良い方に向くでしょう。薬局で買い物してから、食事して帰るって言っていたけど、現金なものね。それにしても、この、暑いのに『蘭々』で坦々麺を食べるって……ラーメンが大好きなんですって」
「暑いから食べるんだよ……ママ、今『蘭々』って言った?」
「ええ……真逆、お休み?」
蘭々は営業している。
千香良は龍太からラインを貰った後で、念の為に確認した。
けれども、今更、ジタバタしても遅い。
神様の悪戯は止められない。
そして、週明けの現場。
龍太は上機嫌でタイルを貼っている。
全身から幸せが滲みでていて眩しいぐらいだ。
「龍兄、良いことでもあったの」
初恋は実らない。
実れば腐って落ちたていた。
千香良の出した結論だ。
「俺の口からは言えないな……」
「龍兄……デレルとキモイ」
千香良は龍太から久しぶりにヘッドロックを掛けられた……




