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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
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健気で圧巻 5 

 



 高城の顔を見た時点で千香良は、もう悩みから解放された気分になっている。

 如何に悩ましくても、所詮は人ごと。

 切掛け(きっかけ)があれば深刻さも和らいでいく。

 そのせいか、気持ちが楽にり、随分と仕事が捗った(はかどった)

 

 そして現場から車で10分。


 駐車場で車を降りると太陽が天辺でギラギラ。

 アスファルトの路面がもやもやと揺れている。

 暑い。

 けれども、何とも甘くて香ばしい匂いが、煙と共に付近一帯に漂っていた。


「鰻?」


「そう、好きでしょう」


 千香良の口元が自然と緩み、テンションが上がる。

 大好物だ。


 本題は頭から一掃。

 目的が鰻に乗っ取られた。

 

 素直も段々、

 暖簾には屋号。

『うなぎや』と染められていた。


「『うなぎや』さん、なんだ……」 


 千香良は屋号を呟きながら、高城に続いて暖簾を潜る。


 前庭も見事な設え。

 丹波鉄平石と御影石を組み合わせたアプローチに竹の植栽が脇を彩る。


「ここの外構工事は田辺外構に頼んだ。梓の先輩の実家だって言うから、紹介してもらった。抜群のセンスだろ」


「紹介してもらった?」


「建物の設計は俺だから。馴染みの店だから、独立前に会社に内緒で引き受けた」


 確かに和モダンテイストが高城の事務所兼、自宅に似ている。


「いらっしゃいませ。ご予約はございますか?」


 引き戸を開けると男性定員の礼儀正しいお出迎え。

 名前を告げると席へと案内。


「ビールは頼んじゃ駄目ですよ」


 メニューを眺める高城に千香良は先手を打った。


「厳しいな……」


 高城が苦笑いを寄越す。

 そこに、お茶と、おしぼりを持って先程の従業員がやってきた。


「千香ちゃんは櫃まぶしか?俺は鰻重」


 千香良は悩むところだ。

 鰻重も捨てがたい。


「私も鰻重で」


「じゃあ、それとノンアルコールビールを1本お願い」


 高城は緩緩(ゆるゆる)とおしぼりで手を拭いている。


「で、どうした?仕事を辞めたいようには見えないけど……」


 千香良もおしぼりに手を伸ばす。

 少し、気持ちを整えたい。


「誰も、仕事の話って言ってないじゃん。辞めないよ」


「そうか。それなら、一先ず安心だ。だったら何?」


「高城さんは龍兄の従兄弟だよね。だったら、色々、知っていると思って……」 


 千香良は慎重だ。

 従兄弟でも場合によっては聞かされていない。

 

「その口調から察すると、龍太の高校時代のことだね……千香ちゃんは龍太の過去が受け入れられない口?」


 千香良は頭を振って誤解を解くが、眼差しが憂いを含む。

 

 高城が運ばれてきたノンアルコールビールをグラスに注ぐ。

 

 従業員も場の静けさに息を潜めているようだ。

 黙って小さな駕籠盛りを置いていく。

 サービスの骨らしい。


「龍太も運が悪かったんだ……ただの喧嘩で通報されて、おまけに、駐在が堅物で……少年法は不起訴がないからね。そこでアウトだ」

 

 テーブルにしめやかな空気が漂う。

 千香良の苦手な雰囲気だ。


「でね……」


 千香良はスマホを取り出すとラインを開いた。

 当然、見られて拙い(まずい)文面は削除済みだ。


「ポリ、ポリ」と高城が骨を囓音が耳に付く。


「これを、見て欲しいんです」


 千香良は高城にスマホを差し出す。

 画面には龍乙(たつくに)を抱いた乙葵(いつき)の写真とギャル達と写る ‘コッコ’ の写真が1枚ずつ。


【甥っ子の(たつくに)龍乙です。可愛いだろ】


【姉さんもダンスチームに入っていたんだって】


 それと必要な文面が調度収まっている。


「これって?」


「3人で写っているのが、多分だけど、当時、龍兄が仲良くしていたギャル達。それで、真ん中が乙葵さん」


「真ん中の娘に『KOKKO』って書いてあるけど……ニックネームなのかな?乙葵ならイッコ……で、コッコに変化か……」


 高城は自らの推定(すいてい)に頷いている。


「しかし、見にくい」


 そして今度は目を凝らして写真を見だす。


「写真に撮ったプリクラを引き延ばしているから……」


「そうだよね……それにしても千香ちゃんと競るぐらい、綺麗な娘だね~」


「乙葵さんは友達のお姉さんで『赤煉瓦』で働いているんだ」


「へぇ~じゃあ『赤煉瓦』で拝めるんだ。今度、会いに行こう」


 高城のふざけた言動が場の雰囲気を平常に戻す。

 

「で、もう1枚に写っているの子供が息子」


「小学校生に見えるけど……乙葵さんは今、何歳なの?」


「24歳だけど……多分、当時、龍兄と仲良くしていた」


 睥睨(へいげい)する高城が千香良の顔を凝視してくる。


 頷く千香良。

 けれども、確信に迫る言葉はおいそれとは言えない。


 そして、もう一度、神妙な面持ちでスマホの画面に視線を落とした。

 顎を支える右手が掌から甲へと繰り返されて落ち着がない。


 すると高城が深い溜息。


「千香ちゃんは、この()が当時、龍太と仲良くしていた子だって断定したから俺に相談してきたんだよね」


「龍兄から ‘コッコ’ ってニックネームを聞いているから……あんまり、聞かないニックネームだと思うんだ」


「若い頃はダンスをしていたか……文面からも、信憑性は無きにしも非ず……」


 高城が口を歪めて思考を始める。

 変な顔だ。


「千香ちゃん、龍太とラインって繫がっている?」


「うん、繫がっているけど……」


 高城が千香良のスマホを弄りだす。

 龍太にラインを転送している。

 千香良は頭の回転が追いつかない。


「お待たせいたしました」


 タイミングがいい。 

 目の前に鰻重の膳が置かれる。


「はい完了。もう俺たちの手から離れたから。食べようか」


 高城は千香良にスマホを返すとお膳から箸を取った。


 千香良は今、高城の行動を問い質すべきだと思う。

 けれども、鰻重の誘惑に勝てない。


「それにしても俺に相談するなんて、千香ちゃんの判断は18歳にしては健気で圧巻だ」


 千香良は食べるに夢中で、聞いてもいなかった。

 

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