健気で圧巻 4
朝の目覚めと同時に千香良はスマホのメールを確認した。
【了解。昼前には現場に顔を出します、一緒に昼飯を食べましょう】
着信時刻はAM1時3分。
直ぐに返信されていた。
千香良は高城にメールを送った後の記憶が無い。
直ぐに眠りについた証拠だ。
【ありがとうございます】
千香良は直ぐさま、お礼にメールを入れておいた。
(良かった……)
千香良はスマホを胸に抱く。
午前中だけ、何食わぬ顔で過ごせばいい。
(現場に行く間のKバスでは段取りを聞こう……現場は初日だから不自然じゃない……)
千香良はシミュレーションをしながら支度に取り掛かる。
「駄目だ!お母さんがお弁当作っちゃう……」
時刻はAM5時。
それでも陽射しがカーテンを透かしている。
今日も暑くなりそうだ。
「あ~、受電もしてない」
千香良は頭を掻き毟る。
支給された空調服の受電は必須だ。
朝の慌ただしさは千香良の憂いを消し去るのに十分だった。
そして荒い言葉が飛び交う中で千香良は無心でセメントを運ぶ。
高城に代打を頼まれた現場では出入りの業者がいつもと違う。
暑さで監督が苛立っているようだ。
「監督も怒るわな……工程表に無理が有り過ぎだ」
龍太がセメントを運びながらぼやく。
詳しくは知らないが、左官屋が仕事を反故にしたのが原因のようだ。
けれども千香良は喧噪に助けられている。
雑念が入る間がない。
すると今度は屋外で誰か倒れた。
情報番組の天気予報で最高気温は38度と言っていたはず。
熱中症だ。
毎年、1人は倒れるらしい。
近くで作業をしていた人達が慌ただしく介抱している。
「それにしても千香良は丈夫だな」
確かに千香良は以外と暑さに強く、周りの危惧をよそに梅雨明け以降もバテなかった。
それでも今日は睡眠不足。
少し早めに休憩したい。
「でも、水分は確り取ってくれよ」
前を歩く龍太が千香良を振り返った。
いつもと同じ筈の龍太の顔が違って見える。
しかしながら、睡眠不足で邪推が働くほど頭が働かない。
「龍兄……休憩……」
千香良は珍しく弱音を吐いた。
「そうだな」
龍太は即答。
千香良は意見を聞いてもらえたと同時に後悔もする。
龍太と顔を付き合わせて休憩するのは辛らそうだ。
けれども背に腹はかえられない。
ぶった倒れたら高城に話を聞いてもらうチャンスを棒に振る。
そして現場事務所。
よく冷えていて生き返る。
千香良は龍太から預かった小銭入で飲み物買って席に着く。
「今日、敦くんと飯を食うんだって?」
すると龍太が聞いてきた。
「うん」
千香良は怖ず怖ずしながら頷く。
後ろめたいが隠し立ては出来ない。
「俺も一緒に行くって言ったら、お前が来ると仕事の話になるから駄目だって、断られたぞ……」
龍太は屈託なく笑う。
特に詮索もしてこない。
大人なのだろう。
「俺との打ち合わせがAM11時で、エレベーターの順番の同じだから、千香良はセメントを3階に上に上げておいてくれ」
千香良は心臓が痛い。
今すぐ乙葵が ‘コッコ’ と暴露してしまいそうだ。
(あと少し、あと少しの辛抱……)
「お疲れ」
間一髪。
現場事務所に高城が姿を現した。




