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after 22

それは竜巻のように突然だった。

何の前触れもなく、女王の母親であるラント公妃が女王に会いに王宮へとやって来たのだ。

いや、親子なのだから、何を慌てる必要があると言いたいところだが、この親子に限ってはそうはいかない。

リリーから見て、犬猿の仲というわけではなかったけれど、二人には明らかに深い溝があった。

いわゆる、そりが合わないというやつだ。

それは、女王と公妃があまりに対照的だからだろうか。

小柄で赤毛の女王と、高身長で金髪の公妃は、両極端の見た目をしている。

しかし、二人が親子であることは、その言動から明白だった。


「ここは本当に湿気が酷いわね。いつも曇っているし、この国は太陽に嫌われているんじゃないかしら」


パタパタと扇を動かしながら、公妃は綺麗なアーチ形の眉をひそめた。

それと全く同じ形の眉を上げたのは女王で、咎めるように「お母様」と口を挟んだ。


「もちろん我が国だって、晴れる日はあるわ。私の戴冠式を覚えているでしょう?あの日は晴天だったじゃない」

「晴れればいいと言うものでもありませんよ。あの日は今日みたいに、とにかく蒸し暑かったわ」

「暑いのは、お母様が着込み過ぎだからよ。私は全然、暑くないわ」

「それは、貴女が薄着をしているからですよ。淑女は体の線を隠すくらいの方がいいの」

「私に、お母様みたいな格好をしろと?冗談はやめて。そんなに嫌なら、さっさと帰ればいいじゃない」

「まぁ、母親に対して何て言い草かしら。帰ればいいだなんて、貴女、最近どうかしているわよ。装いだってそう。今日の貴女は肩を出し過ぎだわ。下品に見えますよ」

「これが今の流行なのよ、お母様!私には、自分の好きな服を着る権利があるわ」

「口ごたえはやめなさい、ロッティ!」

「そう呼ばないでと言っているでしょう!私は女王よ!お母様より偉い立場なの!もう子ども扱いはよして!」


女王はバンと机を叩くやいなや、サッと立ち上がり、扉に向かって大股で歩いて行く。

公妃は目を丸くしながらも「まあ、呆れた!」と、女王の背中に向かって抗議した。


「それが久しぶりに会った母親に対する態度ですか!」

「お母様が、母親らしいことを私にしてくれたことなんてないわ!いつも私を押さえつけてばかりじゃない!」

「それは、貴女がはしたないことをしないように気を配る必要があるからだわ!私には貴女を一人前のレディーに育て上げる義務があるのよ!」

「何が淑女よ!自分の胸に手を当ててみればいいんだわ!」


叫ぶと同時に、女王は部屋を出て行ってしまった。

残された公妃とリリーたち女官勢の間に、気まずい空気が流れる。

女官長であるクラントン伯爵夫人に、耳元で囁かれたのは、その時だった。


「公妃の対応は私が。あなたは陛下を追ってください」


短く頷き、リリーは礼を取ってから、その場を離れた。

見た目は対照的だが、言動は似ている女王と公妃である。

それぞれ、興奮をおさめる人間が必要だった。

リリーは急いで女王を追った。

私室に引き篭もるかと思いきや、女王は案外すぐに見つかった。

女王は、庭園のガゼボに佇んでいた。

怒り心頭という訳ではなく、ただただ悲壮感を漂わせている様は、何とも物悲しく、普段の女王然とした立ち居振る舞いとは打って変わって、年相応の少女のようだった。

リリーはゆっくりと女王に近づいて行った。


「貴女が追って来たのね。女官長じゃなくて良かったわ」

「伯爵夫人は、陛下のことを大層心配なさっていましたよ。だから、私を遣わせたのだと思います」

「ええ、わかっているわ。女官長は悪い人じゃないって。でも、どうしても反発してしまう。彼女がお母様と同年代だからかしら」


寂しそうに言って、女王はガゼボ内に設置されているベンチに腰かけた。

そこからだと美しい庭園をよく見渡すことができる。

女王は遠くを見つめながら呟くように言った。


「お母様とはいつも反目し合ってばかり。お互いに引く性格じゃないから、喧嘩してしまうのよね。だからこそ、距離を置く為に、王宮から遠く離れた屋敷を手配して住んでもらうことにしたのに、これじゃあ、意味がないわ」

「純粋に、今日は陛下の顔が見たくて来られたのではありませんか?」

「まさか。そんな母親らしい人じゃないわ。いつだって自分のことしか考えていないんだもの。きっと摂政の座につきたいのね。だから、昔のように私を操る為に、やって来たんだわ」

「そんなことは……」

「あるのよ!」


女王は振り返りざま、リリーを睨み付けた。

いや、きっとリリーというより、ここにはいない母親に対して、怒りを露わにしたのだろう。


「お母様は私には慎み深く、道徳的な言動を心がけるように言うけれど、自分は品性のかけらもないことばかりしている!お母様は恥知らずにも、私が用意した屋敷に愛人を住まわせているのよ!」

「あ、愛人ですか?」

「家令のゴードンのことよ!」

「家令なら屋敷に住まわせるのも、納得がいきますが……」

「頻繁にお母様の寝室に足を踏み入れているのよ?いくら家令だって、あり得ないわ!いかにも、役者上がりの品性の欠片もない男がしそうなことだわ!彼はね、分不相応にもお母様を使って、女王である私を利用しようとしているのよ!でも、何より始末に悪いのはお母様だわ!お母様ったら、ゴードンの思惑にも気付かず、彼に頼りっきりで離れようとしないんだから!本当に最低!」


そう叫んで、女王はワッと泣き出してしまった。

リリーはどうすることもできず、ただただ彼女の細い肩を撫で続ける他なかった。

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