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幕間~感謝祭1~


うん?

僕の若い頃かい?それはまぁ…やんちゃだったけど。


え?

ダリアとの馴れ初め?こらこら。まだまだお子様のお前が聞くものじゃないよ。

いったい誰に似てそんなに好奇心が旺盛になったんだい?

ああ、悪い意味ではないから、そう落ち込むのではないよ。


なに?

ゼロムとかゼロムとゼロムとゼロムとゼロムとゼロムとゼロムとかが聞きたがってるって?

ゼロムだけしかいないじゃないか、まったく。

ほら、そんなところに居ないで―――オーマやリセもこっちへおいで。

僕とダリア―――おばあちゃんの出会いを教えてあげよう。




あれはうだる様な暑い日のことだったんだ。

潮風がとても気持ちい時間帯でね。僕はふと思ったんだよ。




                「そうだ…出家しよう」





え?潮風ってなにかって?

ああ、そうか。お前はポリメシアから外に出たことないんだっけか。

んん?

―――ははは。この間のエベノス領主のとこに行ったことなんて忘れてしまいなさい。

あれは覚えていなくていい事だろう。

で、潮風だったね。これは海のことだよ。

―――そう。大きな、それでいてとても温かく、真逆にとても冷たい、そんな大きな水たまりだ!



こらこら。笑うんじゃないよオーマ。

僕は間違ったこと言ってないだろう?

ん?

ヨルンまで呆れた顔をしないでおくれ。

海ってなぁにって聞かれたらそんな感じに答えるもんだろう?

塩辛いとか、海水は目に入ると痛いとか、飲めないとか…

とりあえず森の彼方の国(エルデーエルヴェ)の方にある湖よりも、もっと大きなものだし

水底なんて見えないくらい深くて暗くて―――でも太陽があると透き通っててキラキラ明るいんだ。


ん…?


ゼロムー!孫達が、孫達の視線がイタイ!!



「僕の話し方はそんなにヘンなのかい?」


「知らんがな。さっさと先を話さんかい、儂は明日の仕込みがあるんじゃから」


「はいはい。とりあえず僕はポリメシアの出身じゃないんだよ。

 えーっと何処だったかな?ああ、そうそう。ナーグが故郷なんだ」




おや?

なんでエルオーネが驚くんだ。お前は水守(ウンディーネ)とのハーフだろう?

僕から水―――海神(わだつみ)の気配が感じ取れているはずだよ。

勿論、僕の孫であるこの子だって―――まぁそれを抜きにしてもお前達は仲がいいけれどね。



「ねぇおじいちゃん。ナーグって海神の長を祭る(ナーグソレイユ)聖域の門番街(・ラウ・ルシー・ル)のこと?」


「そう―――オーマは物知りだね。普通は『ナーグ』って代名詞では判らないモノなのだが…

 さすがに長く生きていると知識量が半端ではなくなってくるのかい?

 まぁ『ナーグ』と呼ぶのはその街出身の者だけで他国では基本的にソレイユと言われていたかな」



まぁ今回はナーグと呼ぶことにして…ともかく僕の故郷はナーグなんだ。

海神(わだつみ)の長を祭る古の海の民が中心となっている街でね。


ん?

海の民が何かって?神々の末裔とされている一族の一つさ。

他にも空の民―――エルオーネのように有翼人などの中に居るだろうね。

地上には森の民のエルフが、土の精霊である輪樹(テーラ)を祭ってるねぇ…


まぁ神代の時代の名残とでも思っていればいいだろう。





「僕はちょっと有名な家の長男だったんだよ。その所為で若い頃、それはそれは大変で…

 いつの間にか許嫁が6人とか、婚約者が12人とか…14を迎える時にはその倍近くになって

 それでついに堪忍袋の緒がグチャァと潰れてしまったんだよ。いやぁあの頃は本当に若かったなぁ」




もうあれだね。アレ。

女性恐怖症にならなかった僕を褒めて欲しいくらいだよ。

ともかく、家の方で早く子供作れーとか。家督を継げーとか。日々押し付けられててね。

ふらりと近くの海を眺めつつ潮風にあたってたら―――ねぇ?




「判る。汝の言いたい事、確かにわかるぞグレーン…!」


「ありがとうリセ。そうだよね、雁字搦めにされるなんてやってられないよね!」


「そうだよな!そう思うものだよな!?もう全部捨ててでも身軽になりたくなるものだよな!!」


「そうそう!だから僕は出家したんだよ!!―――家出とも言い換えられるけど!」




まぁ十代のガキが生き急いだところで高が知れるけど、僕って結構器用な子供でね?

商人に交じってナーグを出て、いくつも国を回りつつ追手の目を掻い潜り

このポリメシアにたどり着いたわけだよ。もう心身共に疲れててね…




「そんな時に僕はダリアに出会ったんだ。

 彼女は疲れ切ってた僕に視線を合わせてきたんだ。旅人とか滅多いに来ない村だし

 珍しかったのもあるんだけどね…彼女の最初の一言がなければ、きっと僕はここに居なかっただろうね」






―――旅人さん、旅人さん!此処は自殺の名所ではないんです!自殺なら余所でやってください!!







「ちょっ?!じーさま?!」


「おじいちゃん?」


「なんで自殺なんて言葉で心が動かされんのさ?!」


「ああ、成る程。ここまで図太くないと海神の長を祭る(ナーグソレイユ)聖域の門番街(・ラウ・ルシー・ル)ではやってけなかったのかもな…」


「精魂共に疲れ果てていたのだ。それ位鬼気迫るモノが、ダリアには感じられたのだろう。納得だ」


「何故にお前はそこまでポジティブにグレーンの言葉をとれるんだ」




「…ヨルン。さんざん有名人扱いされたお前ならば僕の気持くらい判るだろう?

 ああ、お前はまだ小さい…うん。まぁまだ十歳だからちょっと早いかもしれないね。

 オーマ。お前は何を驚いているんだ?ダリアの反応ははっきり言って新鮮だったんだよ。

 エルオーネ。『ナーグ』の民はそうでもないが海の民は特にそうでなくてはねぇ…

 だって各国だけでなく神都(アーズカルド)とも話が通る場所だから。

 リセ―――君と僕は境遇が似ている。ただ君と違って僕には代りが居なかったってだけだ。

 ゼロム。僕は愛に生きるってダリアに会ったあの瞬間に悟ったんだ!お前にだって悟った瞬間はあったんだろう?」



「いやぁ、まぁ…無きにしも非ずというか…あぁ―――ともか」


「いや、ゼロムの恋話とかどうでもいいし。おじいちゃん、そ」


「やっぱし、我って、我ってっ~~~っ!!他の魔王共(ヤツラ)がいるからいらない子!!?」


「海の民―――神々の末裔でとされる一族の一つか、なんか納得だ」


「ハニー。自分の世界に入らないでオレにもかまって…って、だんだんカオスってきたな」





「ねえねぇ、おじいちゃん!おばあちゃんをモノにするのに村の人を三十人切りしたって本当なの?」





いったい何処でって――――それはポリメシア(ここ)では当たり前に知ってることだったっけ。


そう。

あれは僕がポリメシアに流れついてひと月たった頃かな?

正式にお付き合い―――勿論、結婚を前提にね―――を申し込んだ時だよ。

ダリアのご両親に物凄く反対されてしまってねぇ…


認めてもらうまで何度も頭を下げに行ったもんだ。

そしてとうとう彼女の両親が条件を出してきたんだよ。



「条件?おばあちゃんはおじいちゃんのこと好きだから結婚したんじゃないの?」


「うん。ダリアは僕の事を愛してくれているよ。今もね。

 でもやっぱりご両親のことも大切だから思い切った行動はできなかったんだ。

 お前だって、知らない旅人にエルオーネやミルギスが連れていかれたら嫌だと思うだろう?」


「うん」


「僕はもともとポリメシアにずっと住むつもりだったから、何とか納得してもらえたけど

 それとこれとはまた別モノって感じでね、ほら、うちの子は可愛いんだからまだ一緒にいたいのよ

的な」


「んん?」


「結婚してしまうと、家を新しく建てなければならないんだ」


「あ、別々に住むんだ。ちょっとそれはさびしいね」


「そうう。寂しいから、だからダリアのご両親は僕に条件を出したんだ。

 まず、山で悪さしている狼を追い出せって言われたんだ。

 その次が、村の男、特にダリアのことが好きな男共を駆逐(たお)せよ!って。

 最後に、ダリアが着る花嫁衣装―――まぁレースをちゃんと用意しろってね…ま、完璧に応えきったけど!」



「ふへぇ…」



「血は争えないって言うのか…あの子もそうだった。ただあの子は少し不器用だったからねぇ。

 ―――いずれ、お前も大切な誰かが、愛しい誰かが、なにものにも代え難い誰かが、きっとできるんだろうね」


「?」


「僕は、本当に―――多くを切り捨ててきた、救い出すことができなかった…

 けれど、今ここにお前達が、お前がいてくれて本当に嬉しいんだ。ダリアがいてお前がいて

 あの子は亡くなってしまったけれど、あの子は遠くに行ってしまったけれど…それでも僕は幸せだ」


「おじいちゃん」


「ん?」


「僕もすごくね、皆といれてね、すっごく嬉しくて、幸せだよ!」



「ああ、そうだね。今は本当に―――」





ああ、そうだ。お前達、そろそろ戻っておいで。

まだまだお祭りは始まったばかりだ。今度はどんな話をしようか?


んん?

そうだねぇ―――それじゃぁ、昔流行った怖い話でも教えてあげよう…って、リセ、どこへ行くんだい?


え?用事が出来た?

そうなのかい。仕方ない―――オーマ、ゼロム。全力で押さえつけておくれ。


何でこの人選かって?

だって悪魔(オーマ)夜の一族(ゼロム)元魔王(リセ)を抑えるのは適任だろう。


非力な僕じゃとてもとても、敵いはしないよ。

混血児(エルオーネ)ましてや華人(ミルギス)なんて無理だろう?

ヨルンなんて全力出した伝説の一族(ゼロム)にはさすがに勝てないさ。




―――あれ?

僕の可愛い孫はどこへ行ったんだい?

















「ごめんね皆。

 僕、皆と一緒に居るのは嬉しいし幸せだけど、おじいちゃんのコワイ話だけは本当にムリなの」


「そんなこと言わずに来なさい。敵前逃亡(なかまはずれ)はダメだろう?」


「!!!!!?」


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