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 アルスは風呂の準備を終えて、サヤを案内して、部屋に戻ってきた。

霊猫香シベットの香りがしていましたね」

 私たちは香水にも手を出そうとしていたので、この世界にある原料はほとんど嗅いでいた。アルスも匂いの正体が分かったようだ。

 アルスは棚に置かれた榀の木箱を持ってきて、霊猫香シベットの小瓶を取り出して、匂いを嗅いで納得したように頷いていた。


「そろそろ香水にも手をつけようかしら」

 眼を瞑り、木箱から小瓶を取り出して、匂いをかいだ。

「軟らかで――スパイシーで――レモンもしくはサフランの匂いがするわね。んーと、ミルラかな」

「正解です、お嬢様。ただ――アロマティックでバルサミックな所もあるらしいです」

 アルスは木箱に入っていた紙片を見て答えていた。

「なによ。アロマティックでバルサミックって?」

「……分かりません」

 ふー、やっぱり奥が深い世界だ……。ウィスキーも珈琲もそうだけど、独特な表現方法は実感として学ばないと語ることすら難しい。


 これはミルラ――没薬とも言われ、薬にもなる香水の原料だ。

 この世界は中世ヨーロッパを模しているので、私たちはそれ以外の地域で使われる香水の原料を発掘しようとしていて、だいたいの見当はつけていた。

「喫茶店にマテ茶があるわよね」

「マテ茶ですか? あの南の部族が飲むお茶ですね」

 地球ではマテはお茶だけではなく、香水の原料になる。この世界ではお茶としてしか使われていないので狙い目だと思っていた。おそらく、開発者がそこまで知識が無かったのだろう。

 ただマテは香水に必要な透明度がないから脱色が必要になるし、アクセントとしてしか使えないらしい。

「原料になりそうじゃない?」

「あれがですか? ……試してみる価値はありそうですね」

 大丈夫よ……実際使われているから。


 サヤが風呂からあがってきたので、霊猫香シベットの媚薬効果を教えてあげた。

「……そうだったんですか、シンはそれで……」

 そうです。それに私も変な気分になりました。ただ、媚薬と言っても絶対に効くとは言えないので、変な気分になった人自体も悪い。

 私、反省……。

「……媚薬とか売れそうですね。ミレディ様」

「そんな妖しい商品が売れますか?」

 アルスが呆れているけど、私は思い浮かべた。


 動物性の香水の原料はまだ幾つかある。マッコウクジラから取れる龍涎香アンバーグリス、ジャコウジカから取れる麝香ムスクなどもある。だが、地球人はもっと凄いのを発見していた。


 ブフォテニンとよばれる天然の強心性ステロイドは過ぎれば毒だが、上手く使えば媚薬になると言われている。副作用は恐ろしいほど激しいが、これに耐えられるなら三日間寝食を忘れて愛に没頭することが出来るといわれている。

「ただ、分泌するのはヒキガエルなんだよな」

 見た目がねー。

「あのーお嬢様。変なことを考えていませんか?」


 後は、スパニッシュフライと呼ばれる甲虫、これを服用するものたちどころに元気になる。ただし、26時間以内に死ぬ。

「これだと本物の悪役令嬢になってしまう」

「ちょっとお嬢様、変なことはしないでくださいね!」

「大丈夫よ、下手なことには手を出さないから」



 話が終わり、私たちは川の字になって寝ることにした。

 左がサヤ、真ん中が私、右はアルスと、窮屈になりながら眠った。変な気分になったらまずいので、アルスをいつも以上に抱きしめて眠った。


 突如、アルスに起こされた。まだ、外は暗かった。

「……お嬢様、硝子の割れる音がしました」

 アルスは部屋の中にあった椅子を取って、廊下に通じる扉に耳を当てて様子を窺った。私も同じように扉に耳を当てると、絨毯の無い廊下を足音が響いていた。

「前の使用人ですかね」

「……それだったら仕返しをしないとね」

「あの……お嬢様。落ち着いてくださいね。暴力はいけませんよ」


 アルスは扉を少し開けて、廊下の匂いを嗅いだ。

「……一人ですね」

 顔を出して左右を確認した。廊下の奥で背中が見えた。やはり一人だった。同じように気付いた雌猫たちが、寝室の扉を開けて、様子を窺っていた。それぞれ手には獲物を持っていた。

 鍋とか……。

 蓋とか……。

 菜箸とか……。

 お玉とか……。

 こいつら、盗み食いをしていたな……。まあ、いいや。それは後々追及しよう。今は賊をボコボコにするだけだ。


 さて、大将が号令をしましょうか。

「……やれー!」


 賊は縄でぐるぐる巻きにされて、鍋を頭にのせられ、鍋をお玉と菜箸で叩かれて、音攻めをされていた。

「おらっ!」

 カーン!

「うわー! やめてくれー!」

 雌猫たちが嬉々として音攻めを何度も行った。


「しかし――弱い」

「弱かったですね、お嬢様」

「お嬢様、コイツ、けっこうイケメンですよ。貰っていいですか?」

「まあ、待ちなさい。とりあえず言い訳を聞きましょうか」

 昔の使用人かな――。

 トラの雌猫が鍋を上げると、汚れているけど赤髪の美青年がいた。

「ミレディ……痛いよ」

「お嬢様、知り合いですか」

 うわー、こいつが来たか……。

「……弟よ」

 サヤが寝室にいるタイミングで来るとはね……勘が良いというか、サヤの運が悪いというか……。

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