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 手首が力強く握られている。

 はっきり言うと……痛い。

 早く離して欲しかったのでロイを睨むと、何か言いたげだった。


 女ならイケメンにモテたい……それは男が美女にモテたいと思うのと変わらない欲望だ。

 だから、私はイケメンが好きだ。たぶん、大好きだ。きっとそれは素晴らしいものだ。その主張を堂々と言って、絶対に否定しない、だって真実だから――。

 だけどね……ロイ。

 君は違う。

 君はイケメンであっても、サヤの攻略対象者だ。流れによってはサヤと結ばれる男のくせに、他の女(男?)に気を取られるとは、なんて軟弱者だ……。私は軟弱者が嫌いだ。


「ねえねえ、君はサヤとどういう関係なの?」


 なるほど、私が目的では無いのか。

 それは分かった。

 ……少しムカつくけど。

 とりあえず軟弱者のレッテルは外しておこう。

 だけどね……手首を離してくれないかな。

 痛いんだよ……。


「……離してください」

「あのさ……」


 詰め寄って来たから、後ずさりすると、背中が壁についた。すると顔の真横に手が突き出されて、壁がドンッと音をたてた。


「彼が好きな人って君なのか」


 すくなくとも、お前じゃねーよ!

 確信したよ! 

 ワタシーオマエーキライッ!


 初対面の女(男?)にいきなり壁ドンってどういうことよ。顔の真横だったから、殴られるかと思って、ビックリしたよ! 風圧を感じたよ! ふ、う、あ、つ! いや、知り合いでも、壁ドンはするべきじゃないけどね。


「そうだけど、なんか文句あるか?」


 男装をしていることだし、ムカついたのでサヤの彼氏になりきる事にした。すまないね、サヤ。後で、ロールケーキを買ってあげるから許して……。


「な、な、な……」

「俺のサヤに手を出すのか?」


 私の天使に手を出そうとするとは良い度胸だ……。

 手首に痣ができそうなくらい強く握り、あげくの果ては壁ドンと言う威嚇行為を行った。情状酌量の余地無しだ。

 サヤに手を出したいなら、まずは私の屍を越えていけ! 病弱なサヤの父親に代わり、私が最後の砦になってやる……。

 さあ、来るがいい!


 私の威圧感に押されたのか、ロイは私の手首を握りながらも後ずさりした。


「サヤが欲しければ、実力で奪ってみたらどうだ?」

「うっ……」


 ロイは言葉に後押しされて、おそるおそる左手をあげた。勉強大好きの男だ。暴力など振るったことも無いだろう。だが、売られた喧嘩は買う、その心意気や良し。

 ――いまこそ、前世で習った護身術を使う時だ。

 ロイは右手で私の右手を握って、後ずさりしたので、右腕が伸びきっていた。この状態なら手を振りほどくことができる。

 右手を横に振って握りをほどき、同時に左足を前に出した。ロイは右手を振った勢いで前につんのめり、私はロイの背後に回ることができた。

 素晴らしい……完璧に成功した。

 さて、がら空きの背中に、何をしてくれようか……えへへへへっ!


 だが――ゴチンッ!

 ロイが勢いそのままに壁へ頭突きしていた。


「あっ、ごめん」

 まさか、壁に激突するとは思わなかったので、素直に謝った。

 ロイがこちらを向くと、鼻から血を流していた。

「痛い……」

「……ごめん」

 涙を少しだけ流している……やはり軟弱者だった。男はある程度強くなければならない、少なくとも愛する女よりは――。だけど、可哀想だ。両目と鼻から液体が流れている。相手にも非があるけど、素直に謝っておこう。

「ごめんね」

 私は制服のポケットに入れていた絹のハンカチを取り出そうとした。鼻血ぐらい拭ってあげよう。

 右と左どちらに入れていたかなー、と思って探ると、右にハンカチ、左にアレをみつけた。念のために携帯してきた未使用でウール製の物だ。

 鼻血……鼻穴……これ突っ込んだら簡単に止まりそうだ……。

 いや、待て……乙女ゲーの攻略対象者にそんな下劣なことをしていいのだろうか……そもそも誰に対してもしてはいけないだろうけど……これを見た全国のプレイヤーから非難轟々の嵐が来るんじゃないだろうか。

 だけど、これはツマラナイか面白いかの問題だと思う。

 これは面白い。

 たとえダダ滑りしても、彼が残した勇姿は青春の1ページに見開きで残されることになるだろう。彼は永久に私たちの中で生きることになる不滅の存在へと進化する。

 彼は必ず、私に感謝するだろう。


 ありがとう――良い思い出です。と言って喜ぶだろう。


 ……よし、私は善人だ。

 せっかくだから、私は左を選ぶぜ! っていねー!

 ロイはすでに走り出していた。鼻血を廊下にたらしながらも、必死に逃げようとしていた。見事に思考が表情に出てしまったようだ。アルスに何度か表情を読まれていたけど、肝心な時に使えない表情筋だった。

「ひー! 助けてー! 天使のような悪魔に殺されるー!」

「待ってー!」

 逃げられたら、追いかけたくなる。

「助けてー!」

 なんて人聞きの悪い……。

 悪いようにはしないよ。

 鼻血を止めてあげるだけだよ。

「優しく入れてあげるからー!」

「ひー!」

 

 はー、逃げられちゃった……。

 ……しかし、考えが表情に出るのは直さないと駄目だね。ただ考えただけで言葉にしていないから、私の品格は落ちないけど、そろそろ弱点を克服しておきたいところだ。


 さて、サヤの元へ行くかな……彼女なら他の錬金術師も知っているだろう。私は気を取り直して寄宿舎へと向った。

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