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服とコルセットを脱いだ。くびれた腰が解放感で緩み、梅雨の寒気がくすぐったかった。胸にサラシをあててアルスに巻いてもらった。
「イテテ……」
「すみません。強く巻きすぎましたか?」
「そろそろ来るからなー」
「……そうですか」
何が言いたいのか分かったのだろう。優しく巻いてくれた。
「よしよし、優しくなければ男じゃないよ」
「それを言うなら、優しくなければ生きている資格がない――ですよね」
毎日添い寝をしているので、暇な時に前世の物語を教えてあげているので、その言葉を覚えていたのだろう。
「……引用がバレタか」
「はい、巻き終わりましたよ」
私は鏡の前に立ち、自分の体を見回した。身長のわりに胸板が厚く見えるかもしれないけど、これ以上平らに出来ないので妥協しよう。単純に痛いのもあるけど、胸がでかいのは仕方が無い。
念のためにくびれにもサラシを巻いて、目立たないようにした。
そして、服屋で買ってきた大き目の学生服を着て、服が体にフィットするように縫い直した。高価な服もフィット感がないとダサく見えるので、何度か手直しして、最後に歩いて確認した。
「歩いていても違和感はありませんね」
「バッチリね」
髪は下ろして背中に流し、化粧を手直しした。見事に男装の麗人が完成した。少し髪型が心配だけど、この時代は男の人でも長髪がいるから大丈夫だろう。
……多分。
「どうかな? 男に見える?」
寝具を順調に作っている雌猫たちの前に出ると、黄色い声になった。
「イケメンにしか見えません! カッコいいです! お嬢様、万歳!」
昨日の調教――いや、教育が成功したので、今日は従順だった。
「……きこえなーい」
「カッコイイでーす!」
「もういっかーい!」
「すごい、カッコいいでーす!」
「お嬢様、馬鹿に見えるので早く行ってください」
「主人に馬鹿というな。馬鹿と」
まったく――まあ、美少年だから許してやろう。
私は意気揚々と館を出て、聖薔薇学園を目指した。
街の目抜き通りを抜けて、丘のふもとにある聖薔薇学園を目指した。何度か女性に振り向かれて、男装の成果に安堵した。
校門前に到着した。
聖薔薇学園は貴族も商人も市民も入学できる自由な気質があるけど、警備の関係から校門には衛兵がいた。当然、貴族を守るためだ。制服は学校のものであっても、顔で怪しまれるかも知れない。
ゆっくりと、堂々と歩き、衛兵に挨拶して通過した。
衛兵は怪しむ気配も無かった。
ふー、緊張した……。
久し振りの学園に心が沸き立った。並木の木陰からの静謐な風が心地よく、手入れのされた植物園の紫陽花は色彩鮮やかだった。
テクテクとあるいて、四辻についた。
右が宿舎、左が校舎側、真っ直ぐが食堂だ。建物同士は繋がっているので、わざわざ四辻に戻らなくても、行き来はできる。
右に行けば、サヤが寝泊りしている部屋もあるだろうけど、目的は校舎だ。だが真っ直ぐの道が、私の心をくすぐった。
黒板のたて看板に本日のパスタが書かれていた。
『ボンゴレビアンコ・フェットチーネ』
「わーい、パスタだー」
気付いたら、私は食堂で、平たいパスタを食べていた。アサリの風味が美味しくて、なにより生パスタなのでツルツルして歯ごたえも良かった。館には猫たちばかりなのでアサリは厳禁だったので、この世界に来て初めてのアサリだった。最後に甘みのない炭酸水を飲んで、満腹になり幸福感で満たされた。
館では殆どの料理を作っているので、食べるだけは気持ちが楽だった。料理を作っていると、美味しいかどうかの反応が気になる。特に初めての料理は、気が気でないので楽しめない時があった。
しばしの休息をして、食器を片付けた。
カウンターの側に食堂のおばさんがいた。
「美味しかったですー」
「あらー、それは良かったわ」
「作り方を教えてもらえたりします」
「……料理をするのかい?」
……というか、調理法を教えてもらっても、館では猫たちがいるから作ることが出来ないか……。
私は食堂のおばちゃんにお礼を言って、今度こそ校舎に入った。そして灰色の脳細胞を活かして、錬金術師クラブが活動をしている部屋を思い出した。
さっそく部屋に行って、部屋の中を見てみたけど、誰もいなかった。もしかしたら、今日は休みなのかも知れない、クラブ活動だって休みくらいはある。
仕方ないなー。
扉を閉めて、寄宿舎へ向おうと階段へ歩いていくと、曲がり角で誰かにぶつかってしまい、シリモチをついてしまった。男ばかりの学園だから、簡単に負けてしまった。
「大丈夫かい? 君」
私が見上げると、ミレディと接点の無いはずの錬金術師のロイがいた。緑の髪と冷めた瞳、そして眼鏡に特徴がある錬金狂いの攻略対象者だ。現代的に言えば理科系の秀才タイプと言ったところだろうか、避けようとしていたのに会ってしまうとは運が無かった。
ロイは手を伸ばしていたので遠慮なく握り、起こしてもらった。
「ありがとうございます」
「ごめんね。……ところでうちの部活に何かようだった?」
うわー、まずいところ見られたな。
「友達を探していたんですよ」
「誰だい?」
えーい、どうするどうする。
「サヤって子なんですけど」
「あー、彼か。でも錬金術師クラブには関係ないはずだけど」
「そうだったんですか? いやー、知らなかったなー」
やばい、早く会話を終わらせないと、どんどん墓穴を掘ってしまう。
「たしか、彼の部屋は1312号室だよ」
……凄いな。部屋番号を覚えているんだ。……となると、男装のサヤをすでに意識しているという事だ。
可愛い同姓だと思っているのだろう。
……なんか、嫌だな。
「ありがとうございます」
お礼を言って、去ろうとすると、手首を掴まれた。




