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「――っ、熱……!」
焼けつくような感覚に、私は飛び起きた。
心臓が、まるで内側から燃えているように熱い。思わず胸元を押さえる。
その異常な熱は数秒ほどで収まったが、代わりに昨日まで存在しなかった“何か”が、自分の内側へ根付いた感覚だけが残った。
「なに……これ……」
嫌な予感を覚えながら、震える手で寝間着を捲る。
すると、心臓の上。白い肌の上に、見覚えのない紋様が刻まれていた。まるで入れ墨のように浮かび上がるそれは、中心に弓矢を象った意匠があり、その周囲を読めない文字列と複雑な模様が絡みつくように囲っている。どこか幻想的ですらあるその紋様に、私は息を呑んだ。
「……これ……」
どこかで見たことがある。そう思い、記憶を辿った瞬間、昼間に見たボードが脳裏を過る。
「――役職」
そこに表示されていた、役職欄に記載されていたいくつかの不可思議なマーク。
「これは……【狩人】の……」
どくん、と大きく心臓が脈打つ。
嫌な予感が、確信へ変わっていく。
「“人狼ゲーム”って……まさか、本当に……」
人狼ゲーム。
それは、人狼と呼ばれる人外と人間が互いを欺き合うゲーム。
前世の記憶を持つ私は、その存在だけは知っていた。けれど、実際にそれを遊んだことはない。だから詳しいルールも知らない。ただ、二つのチームに分かれてお互い疑い、選び、人狼を見つけ出す――そんなゲームだという程度の知識しかなかった。
何より、それは机上の“ゲーム”だから成立するものだ。現実で行うものなどではない。昼間はあまりにも非現実的すぎて、どこか現実感が無かった。
だがこうして実際に、自分の身体へ異質な紋様が刻まれてしまえば、嫌でも理解させられる。
あれは、ただの悪戯ではないのだと。
「…………」
だが、まだ確証は無い。
本当に人狼が現れるのかも、この力が何なのかも分からない。
それでも。
「おばあちゃん……!」
真っ先に浮かんだのは、祖母の顔だった。
唯一の肉親。この世界で、たった一人残された家族。
守らなければ――そう強く願った瞬間。
「っ……!」
胸の奥から、何かが抜け出していく感覚がした。
温かな光のようなものが身体を離れ、一階へ向かって流れていく。それは祖母の寝室の方向だった。
「あ……」
その瞬間、私は直感で理解する。誰かに教えられたわけではない。けれど本能的に分かった。
今、自分は【狩人】として祖母を守ることを選択したのだと。
この力は、自分自身を守れない。けれど、誰か一人を守ることだけはできる。
――これで、大丈夫。
祖母が人狼に襲われることはない。
そう思った途端、張り詰めていた身体から一気に力が抜けていく。
安心したのか、それとも疲労の限界だったのか。気付けば私は、そのまま深い眠りへ落ちていた。
***
――翌朝。
「ぅわぁぁぁああああ!!」
「……!」
耳をつんざく悲鳴に、私は飛び起きる。嫌な予感がした。
昨夜感じた不安が、そのまま形になって押し寄せてきたような感覚だった。慌てて家を飛び出し、声のした方へ向かう。
辿り着いた先には、既に大勢の村人が集まっていた。人垣の隙間を縫うようにして前へ出た瞬間、民家の中から一人の女性の遺体が運び出されるのが見えた。
「っ……」
全身には藁布が掛けられていたが、隠し切れないものがある。
布の端から垂れ下がる腕。
力なく揺れる指先。
生気を失った白い肌。
それだけで十分だった。
胸の奥がひやりと冷える。
「メア! 見ちゃ駄目だ」
「!」
突然、視界が塞がれた。後ろから抱き寄せられ、くるりと身体を反転させられる。
「……レナ、おばさん……」
「ああ」
低く穏やかな声が耳元で響く。レナおばさんは私を抱き締めたまま、幼子をあやすように背中を撫でた。
「可哀想に。亡骸なんて、子供が見るもんじゃないよ」
「……っ」
温かな腕の中で、張り詰めていたものが少しずつ緩んでいく。
怖かった。
人の死を、こんなにも近くで見たことがなかったから。
けれど、それ以上に。
昨日までどこか現実味の無かった“人狼ゲーム”という言葉が、少しずつ現実として目の前へ形を持ち始めていることが、どうしようもなく恐ろしかった。
「不審死だって」
「また獣みたいな牙と爪で裂かれた傷だったらしい」
「人間の仕業とは思えねぇよ……」
「まさか、本当に“人狼ゲーム”が……?」
二日続いた変死によって、村人達の間には少しずつ意見の隔たりが生まれ始めていた。
ただの偶然だと言い張る者。
既に“人狼ゲーム”を信じ始めている者。
そして、そのどちらとも決め切れずにいる者。
村の空気は、目に見えない形でゆっくりと分断され始めていた。
“人狼ゲーム”を信じる側の人々は、その日の夜から対策を講じた。
各自の家で眠るのではなく、一つの家へ集まり、入口には見張りを立てる。そして全員で固まって眠ることで、人狼の襲撃を防ごうとしたのだ。
けれど翌朝、彼らは奇妙な体験を口にした。
見張り役は、いつの間にか眠っていた。さらに、一か所へ集まって眠ったはずの全員が、それぞれ自分の家の寝室で目を覚ましたという。
当然、誰もそんな話をすぐには信じなかった。この世界に、魔法も超常の力も存在しない。人が一瞬で別の場所へ移動するなど、有り得ない話だった。
だが、もし彼らの言葉が本当なら。“眠る場所”は強制的に元へ戻される。
つまり、見張りも集団行動も意味を成さないということになる。
“人狼ゲーム”を信じない人々は、それを寝惚けていただけだ、夢でも見たのだろうと笑った。
しかし、三日目の朝。
再び同じ傷跡を残した犠牲者が現れたことで、その笑い声も消えた。
「……正直、俺もまだ信じ切れてはいない」
三日連続の死を前に、村長の息子が重々しく口を開く。
「だが……念のため、ルールを確認しておこう」
広場へ集まった村人達が、一斉に空を見上げる。そこには相変わらず、あの不気味なボードが浮かんでいた。
記載されている内容は、以前、機械的な声が読み上げていたものとほとんど変わらない。
ただ、二つだけ新しい項目が増えていた。
一つは、“役職”について。
私は誰にも気付かれないよう、そっと息を潜める。
役職とは、村人の中から選ばれた一部の者へ与えられる特殊な力のことらしい。
一人につき役職は一つ。
そして今回は、五人へ配られていると書かれていた。
――おそらく、その一人が私だ。
役職の詳細も表示されていた。
『【狩人】――毎晩一人を選び、人狼の襲撃から守る力』
その説明を読んだ瞬間、ここずっと感じている何かの力が体から抜けていく感覚が脳裏に蘇る。
祖母の名前を呼ぶと、心臓が熱を持ち、身体の奥から何かが流れていった感覚。
きっとあれが、この力だったのだ。
他にも役職は存在していた。
【占い師】は、毎晩一人を選び、その人物が人狼かどうかを知ることができる。
【霊媒師】は、昼に処刑された者が人狼だったかを判別する。
【呪術師】は、自分を襲った人狼を呪い殺す力を持つらしい。
そして【灯守】。誰かを監視し、行動の有無を察知する役職だという。
正直、何に使う力なのか私にはよく分からなかった。けれど、こうして役職として与えられている以上、きっと何か意味があるのだろう。
村長の息子が読み上げる内容を、私達は必死に頭へ刻み込んでいく。三日前なら、誰も信じなかったはずだ。だが、三日続けて人が死んだ。
しかも、自分の胸には実際に【狩人】の紋様が刻まれている。
もう、“ただの偶然”では片付けられなかった。
そして……音声では読み上げられていなかった、もう一つの追加項目。
そこに書かれていた内容を村長の息子が読み上げた瞬間、広場の空気が凍った。
『残り:27名』
――それは、この村全体の生存人数だった。
作者ページに表示させたくなくて作者名変える設定を使ってみたのですが、……単純に作品ページから作者リンクに行けなくなるだけなのですね。。
作品ページには表示されてしまうのか‥‥。なろうは2アカウント作成出来ないからこういうとき不便ですねえ




