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繰り返される朝


目を開けた瞬間、私は息を呑んだ。

天蓋付きの寝台。白いカーテン。

ローゼンヴァルト家の紋章が刻まれた家具。


(・・・ここは)

自室。確かに、私の部屋だ。

(生きている?)

胸に手を当てる。心臓は、はっきりと脈打っていた。

血の匂いはしない。

痛みもない。

刃の感触も――ない。

(夢?)

けれど、あの感覚はあまりにも鮮明だった。

馬車。山道。覆面の男たち。

振り下ろされる刃。

(・・・私は、殺された)

そのはずなのに。

「お嬢様」

扉の向こうから、侍女の声。

「お目覚めでございますか?」

私は、言葉が出なかった。喉が、ひりつく。

「本日は、成人祝祭の日でございます」


成人祝祭。


その言葉を聞いた瞬間、全身の血が凍りついた。

(断罪の日)

あの日と、同じ朝。

同じ部屋。

同じ空気。

同じ時間。


(・・・戻った?)

なぜ。どうして。意味が、わからない。

私は、機械のように身支度を整えられ、馬車に乗せられ、王城へと向かった。

窓の外の景色も、記憶と寸分違わない。

(同じ道、同じ空)

そして、王城の広場。

人々の声。鐘の音。花の香り。

すべてが、あの日と同じだった。


「レティシア・フォン・ローゼンヴァルト」

第一王子レオン・ビート・ルミナリアの声。

冷たく、鋭く、容赦のない声。

「本日をもって、貴殿との婚約を破棄する」

胸が、締め付けられる。

(やはり)


「貴殿は、聖女エマ・グレイスに対し長きにわたり、陰湿な虐めを行ってきた」


視線が集まる。

人々の視線が、私に突き刺さる。

広場の端に立つ少女。

淡い髪。俯いた瞳。

「・・・私は・・・」

エマの声が、かすかに響く。

「レティシア様に・・・ずっと、怖い思いをさせられていました」

胸の奥が、重く沈む。

前回。私は、否定した。

声を上げ、抗い、何もしていないと訴えた。

しかし誰も聞かなかった。

(同じだ)

私は、何も言えなかった。喉が、凍りついたように動かない。


「ローゼンヴァルト家は王国の名誉を汚した。よって、国外追放とする」


石畳の冷たさ。

群衆のざわめき。

すべて、記憶と重なる。


(否定しても、意味はない)

私は、静かに頭を下げた。

「承知しました」

その瞬間、人々の間に小さなどよめきが走った。

だが、流れは変わらない。

その日のうちに、私は城を追い出された。

荷物は最小限。家の者とは会えず。

馬車に乗せられ、王都を離れる。

街並みが遠ざかる。

城壁が小さくなる。

胸の奥で、警鐘が鳴り続けていた。


(この先にあの山道がある)

私は、馬車の扉に手をかけた。

(逃げなければ)

生きるためには、逃げるしかない。

馬車が、山道へと入る。森が深くなる。


人の気配が消える。


私は、扉を押し開けた。

冷たい風が、頬を打つ。

(今なら)

馬車は、速度を落としていた。道が細く、曲がりくねっている。

私は、身を乗り出した。


その時だった。遠くから、馬蹄の音が響いた。

「止まれ!」

甲冑の音。複数の馬。

「王妃様のご要請により、護送を引き継ぐ!」

御者が、驚いたように声を上げる。

「え、王妃様の?」

騎士たちが、馬車を取り囲んだ。

王家の紋章を掲げた精鋭部隊。

「国外追放対象者の護送は、ここから王家直轄とする」

私は、呆然と座り込んだ。

(前回には、なかった)

「レティシア・フォン・ローゼンヴァルト公爵令嬢」

騎士団長ヴァルター・ゲーヴェンバウアーが、静かに言った。

「あなたの身柄は、王妃様の命により保護される」


理由はわからない。

けれど――

今回は、あの山道で死なない。

私は、馬車の中で、そっと目を閉じた。


(今度は生き延びる)





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