2.売られるシオン
「ド○ドナどーな~子うしをにょせてぇ~○ナドナどーな・・・」
一部しか知らない替え歌フレーズを、俺はヤケクソで繰り返す。
ただいま絶賛売り出し中のシオンくんです。
麓の村に保護されて、ぐったり安心したのもつかの間、翌々日には、タイミングばっちりに来訪した奴隷商人のバスタールさんに売られました。
売値は野菜の種増量、おまけと等価交換だそうです。グスッ。
お安い俺は、同じく口減らしされる姉妹二人と、生まれたばかりの子豚と共に、旅に出発しております。目指すは沼向こうの街だそう。
売られたってへっちゃらです。
ガタガタ揺れるオンボロ荷馬車にも負けません。嘘です、ツライです。
あちこち打ち付けて、痛くて舌を噛みそうですが、売られる不安を込めて歌いました!
「ド◯ドナどーなって、なぁに?」
隣で荷馬車に一緒に揺られていた女の子が、不思議そうに聞いてくる。妹の方のスザンナだ。
「しゃぁ~ない(知らない)」
売られる子牛の名前だったか、売られる様子だったのか。
とにかく旋律の物悲しさが、今の俺の心を表す!
「もうあきちゃった。それにあんた歌ヘタクソ」
姉のナリアが、ばっさり切り捨ててくる。
3歳の俺より年上のせいか、滑舌の切れ味がイイです。
でも売られる者同士、もすこし仲良くしてください。
あ、子豚さんは仲良くしてくれなくていいです。鼻を押し付けるのやめてください。
「スザンナ、うたう~」
歌うのを止めた俺の代わりに、可愛い幼児の声がほのぼの沼地に響き渡る。
う、上手い。
敗北感を噛み締めているうちに、本日の休憩ポイントにたどり着いてしまいました。
「おーい、下りろぉ。休憩だ」
商人のバスタールさんが、御者台から大声で知らせてくれる。
「水袋も一緒に持って下りてきて」
奥さんのミズリさんがそう言うと、小型犬のハッパがワンワン駆けて来る。
俺とナリアが、荷馬車の奥から皮袋を一つずつ持っておりた。
そこは枯れ草を踏み固めた空き地だった。
足元が柔らかい。
多分、土地に含まれる水の量が多いのだろう。生えている背の高い雑草の間に黒い泥が見える。
「もうすぐ湿原は抜けるわね」
水袋をミズリさんに渡すと 手のひらに5粒ずつアーモンドのような木の実をもらう。
「わっ、まんぷくのみだっ」
スザンナとナリアは嬉しそうにすぐに口に入れた。
「まんぷくのみ?」
「しらないのぉ~?」
スザンナに驚かれて、こくりと頷く。
「この子、異国の子だもん」
ナリアに言われて、またこくこくと頷く。
元日本人の霊山育ちでございます。異世界知識ください。
「おいしいよ」
俺も、ぽりぽり音を立てて食べてみる。味はーー完全にアーモンドだ。
「霊山に捨てられたら、コレを食べろって教えてもらったわ」
「そしたら、いきのこれるのねっ」
嬉しそうに教えてくれる姉妹に、おっさん泣けてくる。それだけあの村の生活は、過酷なんだね。
「栄養があるのよ、その実。でもあの霊山でしか取れないの。2、3日くらいで腐って変色するから、売り物にはならないよのねぇ」
ミズリさんがそう教えてくれる。
5粒ポリポリしたら、あっという間に食べ終わる。
これが本日の昼食である。というか、この世界の人は1日2食しか食べないらしい。
合間に何か飲んだりつまめたりしたら、御の字なのである。
普通にツライーー飽食日本が懐かしいようっ・・・。
1つの水袋を子どもたちで回している間に、ミズリさんとバスタールさんは、馬と犬に水を与えて休ませている。どっちも走りっぱなしだからね。
「村、遠くなったね」
ナリアがポツンと呟く。
湿原の草の向こう、踏み固められた草道さえ見通せない。
「あたし、商家に売られたいなぁ。農奴だと動けなくなったら終わりでしょ。でも商家なら色々仕事があるはずだもん」
「スザンナはねぇ、こぶたと、にわとりのおせわをするの」
希望を抱く二人に胸が痛い。夢見すぎて、残酷さを味わなければいいと願ってしまう。
それで、つい余計なことを聞いてしまった。
「ナリアは売られてもいいの?」
悲壮感のない二人がいっそ不思議である。
「しょうがないよ。お父さんお母さん死んじゃったから、あのまま村にいても、みんなが困っちゃうし、食べ物ないもん。」
「・・・」
「あんたは?」
「おれぇ?・・・おれはおじいさんが、おうとにいるからーー」
「ふーん、身内がいるんだ。よかったねっ」
ぷいっと顔をそらされて、ナリアは犬の方に駆けてい
く。
(しまった。言葉をミスった)
両親を失った子供に、俺はなんてことを言っちゃったんだ、と後悔する。
(でもシオンだって父親死んで、母親に捨てられたわけで・・・実際同じように売られてココにいるんだけど)
同じく先行き不安だって、弁明したい。
だけど逃したタイミングは戻ってこない。
なんとなく気まずくて、1人空き地の隅に座り込む。することがないので、異世界観察をすることにした。
雑草は、細長くてまるで刀のようだ。素手で触ったら、指を切りそう。草の間はベタつた泥が見えていて、透明な水がうっすら湧き出ている。虫はいない。
以上、終わり。
ほけーっ、とお膝を抱えてたそがれる。それでも程なくして短い休憩は終了した。
「そろそろ出発するぞー」
バスタールさんの声で荷台に向かうその途中で、雑草の間でふと光る欠片に気づいた。
(赤い、光?)
「ーーイタっ」
なんだろうと、雑草をかき分けた手を、葉で切ってしまった。たいしたゲガではないが、血が滲んだ右手の甲に、いつぞやの紋章が浮かび上がっている。
(なになに!?)
驚く俺。
雑草の間に隠れていた欠片が飛んできて、紋章の真ん中に吸い込まれていった。
なにごとー。
不定期更新です。
豆腐メンタルで、頑張ります。
*ドナドナの正しい歌詞はお調べください。
子牛が売られる歌です。
著作権残ってるかも、で伏せ字です。
文中は主人公の替え歌になります。




