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魔法が使えない魔法使い  作者: 浮島 藍
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課外授業「魔石」

十一章(その3)、課外授業「魔石」


 「師匠!」

「む」

アイリンは走って戻ってくる弟子の姿をみとめた。彼は何故かすごい剣幕だ。

「ひっひどいです!砂嵐のこと、教えてくださいよ!」

「ああ」

アイリンは口角を上げて微笑んだ。

「すまないな。失念していた」

(絶対嘘だ)

エンリケは思った。

 二人の横を、仕事を終えた騎士たちの列が通りすぎていく。彼らの運ぶ袋の中には回収した魔石が詰まっているのだろう。灰色の魔石。エンリケはぐっとつばを飲み込んで、

「師匠、教えてください」

「あの魔石のことか」

アイリンは騎士たちの方を振り返る。エンリケは何でも見通すアイリンにほとほと敬服した。自分はこの人の手の上から一生出られないような気さえする。

「そ……そうです」

アイリンはあごに手を添えて、面白がるようにエンリケを見た。

(不安になったか。魔石は魔物の体内で生成されるという事実に)

「エンリケ、この街にはいい教材がある。見せよう」

アイリンはそう言って歩き出した。


 やってきたのは魔導師ギルドだ。

「ここですか?」

「そうだ。マスター!」

アイリンは奥で新聞を呼んでいた老人に声をかける。しかし老人は無言だ。アイリンとエンリケはちらりと視線を交わす。アイリンは老人の近くまで行き、ばさりと新聞を取り上げて再び「マスター!」と叫んだ。

「……またお前さんか」

老人はやっと反応した。アイリンは新聞を返すと、

「新しい補聴器を贈りましょうか?マスター」

「お気遣いはありがたいがね。生憎耳の調子は上々じゃ。ずっと聞こえとったわい。それでどうしたね、この街には魔導師の仕事はあまりないぞ。ほとんど騎士がやってくれるからな」

老人は新聞に目を戻すが、ふとアイリンの後ろにいるエンリケに気がつくとやや目を見開いた。

「ほほう」

老人は人の悪い笑みを浮かべて立ち上がり、エンリケの周りをぐるぐると歩き回る。

「あの、なんです?」

困惑したエンリケに、アイリンは

「気にするな。この人の悪い癖だ。若者いびりが好きなご老体なのだよ」

「お前さん失礼な奴じゃの。歳食っても変わらんな」

老人は溜め息をつくと椅子に腰をおろした。

「それで何の用じゃ」

「ちょっと標本を貸して欲しいと思いまして」

「標本?あれか?あの標本か?ありゃわしの私物なんじゃがの」

「おや、だめですか?ギルドマスターなんですから、後の世代の育成に協力するべきなのでは?」

喰えない老人と威圧的な魔導師の視線が絡み合う。

 結局折れたのは老人のほうだった。

「年寄りを苛めるとはの」

悲しそうにつぶやく彼の顔はしかしにやにやしている。

「そこまで言うなら見せてやらんでもないわい。そこで待っとれ」

老人は裏へ消えていく。エンリケはアイリンと老人の後ろ姿を見比べた。

「あの、師匠とあの人にはどういった……?」

因縁があるというのだろう。アイリンは片眉を上げて、

「ああ、私も若い頃この街に来たことがあってね。あの人にはだいぶ」

「持ってきたぞ」

「―――世話になったのだよ」

そのなんともいえない表情から、エンリケは察してそれ以上聞くのをやめた。

 老人が持ってきたのはありとあらゆる魔石の標本だった。一枚の大きな額にはめ込まれたそれらは、大きさもまちまちで色も様々だった。

「およそ世に存在する魔石を全て集めたものじゃ。若い頃に大陸中を探し回っての。時には採掘し、時には魔物を倒して取り出したのじゃ。時々欲を張った商人やら魔導師やらが見せろ見せろとうるさいのでな、普段は奥にしまっておる」

 エンリケは見事な標本に見とれた。綺麗な色をした魔石もあれば、そうでないのもある。けれど、魔石がこれほどの種類に分かれているとは知らなかった。

(あれ……?ないなあ)

エンリケは標本の上から下まで目を凝らした。灰色から真紅、薄紫まで様々な色があれど、琥珀色はどこにも見当たらない。

「エンリケ、ここだ」

アイリンが指差すところには、何も無いように見える。しかし顔を近づけて目を凝らすと、砂粒より小さい魔石の欠片が貼り付けてあるのが分かった。

「あ」

見慣れた琥珀色。

「ち、小さいなあ」

「それか?坊主、その魔石はの、例外的に魔物から取り出すことが出来ん代物じゃ」

老人はにやりと笑った。

「魔石は魔物の体内で作られる。これは常識じゃ。でもな、時々いるんじゃ、人間でも魔石を作れる者が。一億人に一人くらいかの。稀少だが扱いが難しい。だから市場でも人気が無い。普通魔石は種類によって内包する魔力量はだいたい一定なのじゃが、これは例外なのだ。同じように見えても、同じ大きさでも、一方は低ランクな魔石並みの魔力しか持たん、しかしもう片方は上物と同じくらい―――なんてこともある。だからランクはつけられん。つけるとしても低ランクになってしまうな」

「これは、どれくらいなんですか?」

エンリケが尋ねると、老人はうなった。

「さあ、使ってみなければ分からんな。まあ、誰が生み出した魔石なのかが分かればおおよその見当はつくが、これは闇市の賭博場で取引されていたやつだから分からんわい」

「や、闇市。……賭博場?!」

エンリケは一歩ひいた。老人はくつくつと笑う。

「おうともさ。この大きさでも、どれほどの魔力を秘めているかは分からん。手に入れても得をするか損をするか誰も知らん。金を出してこの魔石を手に入れるのは一種の博打じゃよ。さて、もう片づけてもいいかの」


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