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魔法が使えない魔法使い  作者: 浮島 藍
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成された決定

十章、成された決定


 「結局、奴の正体は掴めなかったな……」

アイリンは地面に散らばったナイフの残骸を拾い上げ、男が消えた方向を見た。もう何者の気配もない。

 ただ、魔物はまだ残されていた。満足に動けないものの、命の火が消えるには至らない。手負いの獣と同じく、近づこうとする者を威嚇し、吼え、既にいない主を探す。

 アイリンは気の毒な魔物に冷徹な目を向けると、一瞬のうちに業火で消し飛ばしてしまった。消し炭さえも残さず、もとからなにもいなかったかのように。

「師匠……」

アイリンの後ろでエンリケが所在無げにしていた。

「無事か、エンリケ」

「―――ごめんなさい!」

エンリケは叫んだ。

「僕は、僕がやらないといけないことがわかりませんでした。……怖くて、憎くて。師匠を失望させてしまいました。師匠の求めた答を出すことが出来ませんでした!何も出来ずに、師匠の助けにもなれなくて」

彼は膝から崩れ落ちて、地面をなぐった。何度も何度も。

 アイリンはそんな弟子を見る。ふっと笑みがこぼれてしまったのはなぜだろう。

「答、ね。―――正直に言うと、私にも分からなかったさ、そんなものは」

屋敷の方が騒がしい。カフカ家の人間と、ジーノたちが、招待客に怪我人かいないか走り回って確かめているのだ。

「ただ、君は死ななかったし、連れ去られなかったし、怪我もしなかった。それなら及第点だ」

それだけ言うと、アイリンは屋敷の方に歩き始めた。それと入れ違うようにカールが走って来る。

「エンリケ!」

「父様!」

カールは息子の無事を確かめると、身体中から力が抜けたかのように膝をついた。

「ツルカに続いてお前まで―――と気が気でなかった」

「父様……。心配させて、ごめんなさい」

カールは深く溜め息をつく。

「……戻ろう。もう夜も遅い時間だ。お前は休みなさい」

「はい」

二人は連れ立って戻っていく。




 「どういうことですか、義兄上!」

カールは本家当主であるユリウス・カフカに詰め寄った。その表情は驚愕と焦りで硬直している。

「……今回の件は」

ユリウスは押し殺したような声で言った。

「魔導師の犯罪集団による襲撃だと、ギルドマスターは言っていた。だが、おかしいとは思わないのか。カフカには奴らに狙われる筋は無いのだぞ」

ユリウスは椅子から立ち上がり、窓辺に寄った。

「私には、エンリケに魔力が発現してからことが起り始めたようにしか思えないのだ、義弟よ。念のため探りをいれてみたが、ギルドも、あの『轟雷』も沈黙を守っている」

それだけではない、とユリウスは言った。

「今回の騒動で、こちらは多くの損害をこうむった。あろうことか本家嫡男の祝いの席でだ。台無しだ」

「それはっ、エンリケには何の非も無いではありませんか」

「本当にそうか?」

ユリウスはカールを射抜くように見た。

「エンリケに魔法を教えているあの『轟雷』のアイリンという魔導師―――なぜ彼女はエンリケを外に連れ出したのだ?彼女一人で行けば良かろう。カフカの者を危険にさらしてまで、何を……?私には、わざとエンリケを屋敷から遠ざけたようにしか見えなかった。屋敷に及ぶ被害を少なくするために」

カールは、義兄の息子に対するあまりの言いように言葉も無い。ユリウスは溜め息をついて義弟を見た。

「ツルカがもういない以上、カフカの守りは万全とは言えなくなった。厄介の種は、取り除かねば」

「義兄上!」

カールはユリウスに掴みかかった。しかし、ユリウスの表情は揺らがない。ユリウスはカールの手を振り払うと、厳かに告げた。

「これは本家全体の決定だ。覆ることは無い」



「―――という訳です」

ジーノは人払いをした一室でアイリンと話していた。

「それは誰から聞いた?」

「本家に、個人的な付き合いのある方がいまして。こっそり教えていただいたのです」

「そうか……」

アイリンは窓から、明け始めた空を見上げた。朝が始まる。恐らく厳しい日になるだろう。

「それで?そのためだけに呼び出したのではないだろう?」

「ええ、勿論です。アイリンさん、―――いえ、『轟雷』アイリン・ロットナー殿。魔導師ギルドから、正式に依頼せねばならないことがあります」

ジーノはローブの下から小さな金属板を取り出した。

「これは、第一級の依頼よりも更に上の―――達成不可能とも言える案件を依頼するときにお渡しするものです。このカードを持っている魔導師はあらゆる支援を受けられますし、ある程度は無理を言っても通してもらえます」

「それで、依頼の内容は」

アイリンの目は、カードではなくジーノに注がれていた。ジーノはすうっと息を吸い込むと、静かに告げた。

「『ルシフェリオ・ダテン』についての情報収集、及び壊滅、です。……はあ」

ジーノはその名を口にするだけで、かすかに汗を浮かべていた。握っているカードが小刻みに震えている。

「やはりギルドでも情報を集めていたか。相変わらず抜け目が無いな。組織名まで割り出すとは、この短時間で」

「ギルドで一番情報を集めやすいのが、受付嬢なんですよ」

「さすがだな」



“ルシフェリオ・ダテン”


 それがいつ、どこで生まれたのか、知る者はいない。ただ、歴史を遡ればまるでインクの染みのように、点々と、さりげなく現われる名前である。国家よりも古い歴史を持つ組織。時には戦乱を扇動し、別の時代になれば動乱に傷ついた人々を救済する。多くは謎に包まれているが、その名前は伝承の端々に現われ、人々に語られてきた。

 世界で一番有名な組織である。


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