乱舞!メレンヘア学園舞踏会第一部①(ハードル低)
【生徒会室】
「サムライとの試合。惜しかったわね」
ベガの言葉に、ルスカは悔しそうに拳を握りしめた。
「時間制限さえ無ければ……!」
ひとしきり悔しがったルスカだったが、ふと目の前の光景に気づいてすっ頓狂な声をあげた。
「って言うか! あんた何してる!?」
「見れば分かるでしょ。舞踏会用のドレスに着替えているのよ」
ベガは悪びれる様子もなく、あられもない下着姿のままで答えた。
「そんなもん隣の部屋でやれ!」
「誰か対応が必要な人が来たらどうするの?」
正論のようで全く正論ではないベガの返しに、ルスカは顔を真っ赤にして詰め寄る。
「あんた! そんな格好で対応する気か!? あんたが着替えている間、私が一人で対応するから大丈夫だ!」
それを聞いたベガは、ふっと表情を緩めた。
「ではお言葉に甘えさせていただくわ」
ベガが着替えのために奥へ引っ込むと、残されたルスカは呆然と己の手を見つめた。
(これがラックアップ(幸運度上昇)の効果か……?)
(ラッキースケベという奴か…?)
静まり返った室内で、ルスカはふと冷静になる。
(……止めなきゃ良かったかな)
【臨時屋外カフェ】
「じゃあ、私達はこの辺で失礼するわね」
叔母が席を立ち、マセット伯爵や子供たちを促した。スピカは笑顔で手を振る。
「ランチ、ご馳走様でした。色々ありがとう! 皆様も、お元気で!」
「貴方も舞踏会でいい相手が見つかるといいわね! 頑張りなさい!」
叔母の温かい激励にスピカが深く頷いたその時、ポルックが満面の笑みで大声を張り上げた。
「スピカおねーちゃん! 今度一緒にお風呂に入ろうねー!」
その無邪気な一言が、カフェの喧騒を切り裂いた。周囲の生徒たちが一斉にこちらを振り返る。
「えっ? なんだ? なんだ? お風呂がどーした?」
「あの編入生、お風呂がどうとか言わなかったか?」
一瞬にして向けられた疑惑と好奇の視線に、スピカは引きつった笑顔のまま心の中で叫んだ。
(ポルック君。うおーい……!!)
冷や汗を拭いながら、スピカは空を見上げる。日が傾き、美しい夕闇が広がり始めていた。
「そろそろ一部の舞踏会の時間だわ(ハードル低いやつ)。……やっぱり、せっかくだからドレス着ちゃおうかな」
【忍者屋敷】
「中々繁盛しましたね!」
片付けを終えたハダルが、晴れやかな笑顔で周囲に告げた。
「私、先上がりますね!」
「お疲れ様!」
仲間の忍者に手を振ると、ハダルは脱衣所へと急いだ。華やかなドレスへと着替え、大ホールへと向かって廊下を全力で駆け抜けていく。その必死な後ろ姿を見送りながら、スティーブはぽつりと呟いた。
「健気だねー」
【女子寮・デネブの部屋】
美しいドレスに身を包んだデネブが、鏡の前で髪を整えていた。後ろに控えるメイドが、うっとりとした表情で手を合わせる。
「私はお嬢様程、美しい姫君を存じませんわ」
「ありがとう」
「きっと殿下もお嬢様の虜になりますわ」
デネブは鏡の中の自分を見つめ、静かに微笑んだ。
「だといいわね」
【女子寮・廊下】
ドレスに着替えたデネブと、これから着替えに向かうスピカが廊下ですれ違った。圧倒的なオーラを放つ令嬢の後ろ姿を、スピカは思わず振り返って見つめる。
(凄い綺麗な人……デネブ様?)
自室に戻ったスピカも、用意されていたドレスへと着替え始めた。鏡に映る自分の姿を見つめながら、ふと昼間の光景が頭をよぎる。
(そういえば、第一部の舞踏会の時間はデネブさんと会長は二人きり。二人は何を……)
そこまで考えて、スピカは大きく首を振って思考を打ち消した。
(ついつい着替えてしまった。ダンスの相手もいないのに……なんか私、自意識過剰の欲しがり屋さん?)
「スピカ庶務!」
廊下に出ると、そこにはドレス姿のベガが立っていた。
「ベガ会計!?」
(この人も別次元でお綺麗!)
スピカが見とれていると、ベガは手にした大きな機材を差し出してきた。
「良いところであったわ! 手伝ってちょうだい」
(……拡声器?)
【大ホール(舞踏会会場)】
きらびやかな大ホールには、すでに多くの生徒たちが集まり、ロマンチックな音楽が流れ始めていた。そこへ、スピカの声が拡声器を通して響き渡る。
「皆さん! 舞踏会を始める前に、生徒会から注意事項がありまーす。ベガ会計、お願いします」
ステージの上に立つベガの姿に、会場から地鳴りのような歓声が上がった。
「ベガ様だ!」
「お美しい!」
ベガは毅然とした態度で拡声器を口元に寄せた。
「メレンヘア学園の伝統を重んじる皆さんが、こうして舞踏会に集ってくれたことを歓迎します。この催しを正しく受け継ぐことは、我々生徒会の使命。だからこそ、今宵も『清く』あるべきだと思います。この舞踏会における不正は許しません。」
「今から邪な呪文や薬の効果を解除します。――」
「ディスペル・イビル!(邪心解除!)」
ベガが放った神聖な光がホール全体に広がった瞬間、あちこちで悲鳴や怒号が巻き起こった。
「あれ? なんで私が貴方とダンスしようとしているの!?」
「どうして僕が君とここに……?」
「あんた! 薬を盛るなんて最低ね! ――ボカッ!」
あちこちで繰り広げられる手痛いビンタや掴み合いの喧嘩を、スピカは実況し続けた。
「結構な数の修羅場が発生してまーす。はい! 舞踏会でのチャームの呪文、巻物、惚れ薬の使用は禁止でーす。違反者はご退場願いまーす」
一通りの取り締まりを終え、ベガはスピカに向き直って微笑んだ。
「ありがとう。貴女ももう自由にしていいわ! 楽しみなさい! じゃあ」
「あっ、はい……」
(相手、いませんが……)
取り残されたスピカは、華やかなペアたちを所在なげに眺める。
その姿を、会場の隅からじっと見つめる男がいた。
カノープスは、壁際に佇むスピカから目を離せずにいた。
(スピカさん……!)
その時、ホールの入り口が騒がしくなった。生徒たちが波を打つように道を開けていく。
「誰だ、あの人……」
「第二王子のリゲル様だ!」
「珍しく正装でおられるぞ!」
「流石シリウス様のご兄弟だけあって、こうしてみると麗しいわ!」
黄色い歓声が上がる中、リゲルは真っ直ぐに歩みを進める。その鋭い視線は、周囲の誰でもなく、ただ一人の少女へと向けられていた。
「誰の所に向かっていくんだ……?」
ざわめく群衆をかき分け、リゲルはスピカの前でピタリと足を止めた。そして、誰もが息を呑むほど優雅な動作で、そっと右手を差し出した。
「スピカさん。」
「僕と友達になって欲しい」
「踊っていただけますか?」
14話のラックアップの伏線回収いかがでしょうか?リゲルランスター登場。スピカどうする?カノープスは?次回ご期待ください。
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