劇動!メレンヘア学園祭③(有頂天!モブ・デュラン)
膠着のサムライ訓練施設
サムライ訓練施設の舞台の上には、重苦しい沈黙が支配していた。
アルタイルが手にする武器を槍と短剣に変えてから、かなりの時間が経過している。じりじりと太陽が照りつける中、ルスカの額を汗が伝い落ちた。
ルスカは盾の陰でじっと身を構えながら、焦燥感を募らせていた。
(奴め、武器を槍と短剣に変えてから一向に攻めてこないぞ)
攻めあぐねているのか、それともこちらが痺れを切らして動くのを待っているのか。その意図が読めない。緊張の糸が張り詰める舞台の下から、次第に観客たちの不満げな声が聞こえ始めた。
「おい早く戦えよ、何睨めっこしてんだ」
「副会長!サムライにびびってんのか?」
無責任な野次馬たちの野次が、ルスカの耳に突き刺さる。
(うるさい!)
心の中で激しく毒づきながらも、ルスカはアルタイルの隙を鋭く睨み据え続けた。
生徒会室の阿吽
同じ頃、静かな生徒会室では、シリウスとスピカが交代の時間を待っていた。窓外の賑わいを遠くに聞きながら、シリウスが時計に目をやる。
「そろそろ交代の時間だね」
「会長はこの後、ご予定があるのですか?」
スピカが尋ねると、シリウスは少し疲れたような、だが気品ある苦笑を浮かべた。
「校長室で来賓の方との挨拶があるんだ」
「お忙しいのですね」
「本当は僕もお祭りを楽しみたいところだが、色々、しがらみがあってね」
王子の立場ゆえの苦労を滲ませるシリウス。その時、規則正しいノックの音が部屋に響いた。
コンコン。
「デネブ・アーテュスです。失礼します」
静かに扉を開けて入ってきたのは、書記のデネブだった。
「どうぞ」
シリウスが促すと、デネブは淀みのない足取りで進み出た。
「会長、お疲れ様です。後はお任せください」
「ありがとう。君がいてくれたら安心だ。僕は要人たちとの面会に集中できるよ」
全幅の信頼を寄せるシリウスの言葉に、デネブは小さく頷く。
「そちらもごぬかりなく」
「ああ」
二人の間で交わされる、無駄のない洗練されたやり取り。スピカはそれを見つめながら、胸の内で小さく溜め息をついた。
(会長とデネブさんって、なんか阿吽の呼吸って感じ)
(確か幼馴染って聞いたわ。これが長年積み重ねてきた時間ってものなのかしら)
どこか遠い世界のように感じているスピカに、シリウスが優しく声をかけた。
「スピカ君、先に自由時間をとっていいよ。僕はデネブ君と少し話がある」
「はい……」
スピカは頷きつつも、どこか二人の特別な絆を眩しく思っていた。
(会長とデネブさんって……)
そこへ、再びノックの音が響き、慌てた様子で扉が開いた。
コンコン。
「失礼します」
息を切らせて入ってきたのはカノープスだった。
「時間に遅れ、お待たせして申し訳ございません」
きっちりとしたカノープスにしては珍しい大遅刻だった。シリウスが少し目を見張る。
「君にしては珍しいな」
「面目ございません」
深く頭を下げるカノープスの手元を見て、スピカはハッと息を呑んだ。彼の指や袖口に、色鮮やかな汚れがついている。
(絵の具が付いてる!)
スピカは自分が先ほど描いたばかりのポスターのことを思い出し、慌てて手を合わせた。
「あっ!絵の具、乾いていなかったわね。ごめんなさい」
カノープスは恐縮したように首を振る。
「いいえ、大丈夫です」
「それでは失礼します」
スピカが退室の挨拶をすると、シリウスが背中に声をかけた。
「お疲れ様。夕方もよろしく頼むよ」
(夕方!)
スピカの背筋がピシッと伸びる。
(第二部のガチな舞踏会の時間帯だわ)
少しの緊張感を抱きながら、スピカは生徒会室を後にした。
賑わう学園祭とツンデレボンバー
廊下に出たスピカは、賑やかな中庭の方を眺めた。
「ちょっとアルタイルさんが気になるわ。見に行こうかなぁ」
そう思い立って歩き出したものの、途中の集会室から漏れ聞こえてくる大音量の演奏と大歓声に、思わず足を止めてしまった。
(あっ!集会室で吟遊詩人さんたちがライブをやってる。これ、ツンデレボンバー?)
中を覗き込むと、熱気あふれるステージの上でイサムたちが演奏していた。客席の女子生徒たちが黄色い悲鳴を上げている。
「きゃー!イサムさーん!」
(なんかモテてる?)
普段の姿からは想像もつかない人気ぶりに、スピカは目を丸くした。
(学園祭マジックってやつ?)
すると、ステージの上のイサムと不意に目が合った。イサムはスピカに気づくと、ニヤリと不敵に笑ってパチンとウインクを飛ばしてきた。
(なんかイサムさんにウインクされた……)
スピカが呆気に取られていると、今度は別の女子生徒たちの声が響く。
「デュラーン!」
「モブ君まで!?」
スピカが心の中で叫ぶ。ステージ中央のモブが、力強く床を踏み鳴らした。
ダン!
モブ君はそこから、ノリノリで見事なアドリブ演奏を披露し始める。
(モブ君、スゲーイキってる!)
すっかりツンデレボンバーに圧倒されてしまったスピカだったが、ハッと本来の目的を思い出した。
(サムライ訓練所に行かなきゃ)
集会室を離れて早歩きで進むと、道沿いにきらびやかな看板が立っているのが目に入った。
『プレミアム』
(今日は開放しているのね)
さらに進むと、今度は一風変わったアトラクションが見えてきた。
(あっ、忍者屋敷!)
「忍者屋敷いかがですかー!」
客引きの声を上げている小柄な姿を見て、スピカは声を漏らした。
(この前のあの娘だわ)
見ると、屋敷の前では様々なお土産が並べられている。
(忍者グッズも売っているのね)
スピカは並べられた商品を上から順に目で追っていった。
『竹手裏剣、竹忍者刀、煙玉、忍者はちまき、惚れ薬(在庫処分)』
(これ売っていいの!?)
最後の不穏なアイテムに思わず心の中で突っ込みを入れるスピカ。そんなスピカに気づき、ハダルがぐいっと身を乗り出してきた。
「いかがですか?」
スピカは引きつった笑みを浮かべ、一歩後退りした。
「あっ、ごめん。先を急いでいるからまた今度!」
ハダルの勧誘をすり抜け、スピカは慌ててサムライ訓練施設へと足を速めるのだった。
沈黙の生徒会室
その頃、主を失った生徒会室には、気まずい静寂が流れ始めていた。
残されたのは、書記のデネブと、遅れてやってきたカノープスの二人だけ。
時計の針が刻む音だけが響く中、カノープスはなんとか沈黙を破ろうと、精一杯の言葉を絞り出した。
「デネブさん。今日は天気が良くてよかったですね」
デネブは書類から目を離すことなく、いつも通りの冷徹なトーンで短く返した。
「そうね」
会話終了。
部屋には再び、先ほどよりも一層深い静寂が居座り続けるのだった。
次回はラブコメなのにバトル描写満載予定。ルスカvsアルタイルに決着は?ご期待ください。
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