第四部 第31話 赤い彗星と、跳ね迫り来る絶対の波
【賢者の書】に『ep.117』が刻まれてから33日目。
厄災発生予想日から、すでに5日が経過した早朝――その時は突然訪れた。
「――あ、赤いほうき星だぁぁぁっ!!」
物見の悲鳴のような叫びが、早朝の静寂を切り裂いた。
南の空に突如として出現した巨大な赤い彗星に、シャオハイユ南壁は一瞬にして激しいざわめきに包まれた。各国の救援部隊が次々とテントから飛び出し、凄まじい緊迫感の中で武器を取り、装備を整えていく。
演壇の上に躍り出た総指揮官、ロメーダ帝国皇帝レグルスが力強い号令を下す。
「――総員、配置につけッ!!」
くノ一のハダルが即座に物見櫓の頂部へと駆け上がり、瞳に魔力を宿してスキル『千里眼』を発動させた。
「ほうき星、高速で接近中!!」
ハダルの叫びが響く中、遥か上空で巨大な赤いほうき星の輪郭が歪み、いくつもの赤熱した塊が分裂した。それはまるで、空から降り注ぐ巨大な火の玉であった。
「ほうき星から火の玉が放たれました! 」
「!!」
「……海に激突します!!」
直後――。
火の玉が南の海面へ激突し、爆音と地響きとともに、雲に届かんばかりの巨大な水柱を打ち上げた!
「火の玉、海面に激突! 津波発生!! ……第一防衛ラインから、赤い信号弾です!!」
都市そのものを猛烈に揺らした地鳴りは、人類がかつて経験したことのないような重低音となって地表を這った。
碁盤の目のように規則正しく区画された巨都シャオハイユ。その中央を南北に貫くのは、幅一キロメートル、南の海岸線まで一直線に十キロメートル続く巨大な直線運河である。普段であれば都に豊かな物資を運ぶ青き生命線――しかしその日は、大振動の揺り返しとともに、運河の水面が不気味なほど滑らかに引き上がっていった。
「おい……水が、水が消えていくぞ……!?」
第一防衛ラインで待機していた物見のウィザードがどよめく。底の泥と引き残された魚が跳ねる惨状があらわになったのも束の間、南の地平線――海の彼方から、耳を裂くような重低音が轟いた。
それは、海そのものの崩壊だった。
水平線全体が黒い壁となって隆起し、怒涛の勢いで押し寄せてくる。
南の海岸線に到達した巨大な津波は、沿岸の陸地を根こそぎ削り取りながらも、その膨大なエネルギーの大部分を**「たったひとつの巨大な抜け道」**へと集約させた。
――幅一キロメートル、奥行き十キロメートル。
急遽建設された第二防衛ラインの防波堤以外、障害物の存在しない一直線の巨大水路。
「来、来るぞぉぉぉッ!! 海が押し寄せてくる!!」
レグルスが全軍に向けて爆音のような怒号を浴びせる!
「全ウィザード! 飛行魔法陣展開ッ!!」
「スピカ! 防御壁展開だッ!!」
スピカの足元に青白い飛行魔法陣を広げ、後ろからその細い身体を確かな力で支えるシリウスが、耳元で短く声をかけた。
「大丈夫」
「……はいっ!!」
スピカは深く深く息を吸い込み、魂を込めて唱文を紡ぎ出す。
両手を力強く前方の広大な空間へと突き出し、全身の魔力を一点に集中させた。
「――『バリアコンストラクション・ラージ(広域多重結界陣)』っ!!!!」
ゴゥッ!!!!
猛烈な衝撃波と爆風が巻き起こり、スピカの全身が眩い黄金色の光に包まれた。
溢れ出た光は激流となってシャオハイユ東西六キロメートルの南壁すべてを呑み込み、高さ二十メートル、幅七キロメートル、奥行き三百メートルにおよぶ、光り輝く超巨大な長方形の多重防護結界がその姿をあらわした!
スピカは間髪入れずにさらなる呪文を重ねる!
「――『エンチャント・ヘビーウォール(堅牢なる壁)』!!」
ジュワアアアッ……!!
輝く光芒が密度の限界を超えて凝縮し、重厚な質量と実体を持った鉄壁の多重防御壁へと変貌を遂げた。
ハダルが物見櫓の上から悲鳴交じりに叫ぶ。
「津波、間もなく第二防衛ラインに到達します!!」
南の河口から侵入した黒い濁流は、狭小な水路に押し込められたことで逃げ場を失い、垂直な護岸にぶつかり合ってエネルギーを垂直方向へと跳ね上げた。海上で二十数メートルだった波頭は、運河に入り込んだ瞬間、巨大な重力兵器のような「水の壁」へと姿を変えた。
ドゴォォォォンッ!!
それは波というより、液体でできた巨大な大槌だった。頼みの第二防衛ライン防波堤はそのエネルギーを旧運河の方へ誘導し、威力を削ごうと試みる。しかし、それを遥かに超える濁流が次々と防波堤を乗り越え、最終防御ラインたる南壁へ迫る!
第二防衛ラインから、ぽんと空へ一発の信号弾が上がった。
「み、緑の信号弾です!!」
ハダルの叫び。それは、赤か緑かあまりにもギリギリの破滅的な選択であった。
レグルスが全身の覇気を撒き散らしながら檄を飛ばす!
「全プリースト! 防御壁強化ッ!!」
ヴィンデミア、ベガをはじめとする全プリーストが一斉に詠唱を開始した。
「『リインフォース・バリア(結界強化)』!!」
「『イビナブル・ウォール(絶対防壁)』!!」
だが――第二防衛ラインを突破した津波の本体が、ついに南壁の防御結界へと激突した。
ズガァンッ!!
雷鳴のような破砕音が轟き、スピカの打ち立てた巨大結界が激しく揺らぐ。
プリーストたちが死力を尽くして強化呪文を唱え続けるが、津波の持つ非情な質量は、徐々に、しかし確実に結界の許容量を削り取っていく。
(くっ……このままじゃ、押し潰される……!!)
レグルスが苦渋の表情で「総員退避」の撤退命令を下そうとした――その瞬間!
「――『リフレクション・コート(反射皮膜)』!!」
第三聖女候補ヴィンデミアが、自身の魔力を限界まで振り絞り、高位の付与呪文を叫んだ!
ヴィンデミアの展開した反射膜が結界の表面を覆い、ほんの僅かだけ津波の勢いを押し戻す。……しかし、津波の膨大な質量を完全に殺しきるには、絶対的な魔力量が足りない!
「くっ……ああっ……!」
膝を折かけたヴィンデミアの視界に、金色の光が飛び込んできた。
なんとスピカが、シリウスの飛行魔法陣を脱出し、安全な上空から命がけでヴィンデミアの待つ結界の核へと向かって飛び降りてきたのだ!
「スピカ、戻るんだ!!」シリウスが叫ぶ!
「バカ者が!!」レグルスも急ぎスピカの元へ疾走する!
着地したスピカは、喘ぐヴィンデミアの肩を強く掴み、その瞳をまっすぐに見つめた。
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応援していただいている皆様へ
ご愛読ありがとうございます。
ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。
上記タイトルを、
近日新装予定。
上記タイトルを
新装版更新中に非表示にします。
10/15から10/31までに非表示予定。
(あくまで予定。一部は残す場合あり)。
したがって
第四部の物語は佳境ではありますが
一旦休稿いたします。
新装開始。10月10日予定。
(第一部一話から)
更新ペースは毎日7:00を目指し
ますが丁寧に更新したいとも
考えますので不定期としておきます。
新装タイトル
シンソウ・ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。
予定。
作品の未来のために
一からやり直します。
A I補助利用版となります。
新たなビジョンを胸に再出発
いたします。
こちらのほうもご愛読よろしくお願いいたします。




